09
「どうだ、ニックは?」
「ああ。ミオと意気投合して楽しそうだよ」
道場。
久々に顔を出したカグマだったがその顔は疲れ切っていた。
「着かれているみたいだが大丈夫か?」
「ああ。まあな。Ⅴの国には困ったものだ」
「そうか」
ニックとミオは外で修業をしている。今まで何かと楽しそうに修行していた二人を罰し、厳しめの修業へと向かわせたカグマ。
二人とも私に助けを求めていたが、少しくらいは辛い思いをせねば成長は出来ない。
「ニックは私の事は覚えていないみたいだよ」
「やはり……」
「当時は私も眼帯つけたりしていたからな」
ニック――年齢15。
本来なら学校に通っている年頃だが、5年前。私の初めての仕事を機にこの道場で暮らし始めた。
「それで、もう打ち明けたのか? ニックが――貴様の息子だと言う事を」
カグマとニックは親子でありながらも別々に暮らしていた。カグマはこの道場で一人で修業を。ニックは母と共に貧しいながらも生活していた。
「ふふ、結局言えずじまいでな」
「そうか。確かに言い出しにくとは思うが……」
★
5年前。
このⅧの王国でちょっとした騒ぎが起こった。
連続強盗殺人事件。
犯人は【核】を用いての犯行を行っているという情報が会った為、新米で『魔法』の使えない私が担当となった。
入った当時から【核】の扱いに長けていたので妥当な人選であっただろう。
初めての任務に心を踊らせていた私だったが――ふとしたきっかけで犯人の目的が金銭ではない事に気付く。
犯人の目的は一人の少年だった。家は貧しかったが優秀な『火』の『魔法使い』であった。
犯人に攫われてしまった少年を私はその子の母親と共に捜索し、潰れてしまった温泉の旅館へとたどり着いた。
その場所に犯人と息子はいた。
母は何とか助けようとしたが『魔法』も使えない、【核】も買えなかった母は、犯人へと何度も頭を下げた。
犯人は力の無い母を【核】で脅して好きなように犯そうとした。私は我慢できずに白衣から道具を出そうとした所で――その少年が『魔法』を発動した。
優秀な『魔法使い』であろうと、子供はまだ子供。
扱いきれない強大な『魔法』を使ってしまった。
結果――自分の手で母と犯人を殺してたのだった。
★
「良く儂の息子だと気付いたの」
「あの子の母親だよ」
彼女が教えてくれたんだ。
愛する息子の炎に焼かれながら最後――その場にいた私に教えてくれた。カグマの子供だと。
彼女それだけ言うと笑って死んでいった。
後はカグマに託せると――信じていたのだろう。
泣きじゃくる息子のを抱き寄せて燃え尽きた。
「そうか。修業に明け暮れる時――たった一人、一回愛した女がいた。まさか、その時に子供が出来ていたと知っていれば――修行などしていなかったのだが」
本当に愛していたのだろう。
シキはカグマの表情から分かった。
「そして、自らの手で親を殺したニックと私を合わせてくれた――本当に感謝しきれんよ」
感謝される筋合いはない。
ニックには自分の嫌っている世界に取り込まれて貰いたくなかった。自分と似ているからこそ立ち直って欲しい――私みたいににならないでいて欲しかった。
私は復讐すべき世界がいた。しかしニックは自分の手でその犯人を殺していた。
それ故にニックは自分の力を、過去を肯定するために――王になろうとした。
王を殺すと言う事は――カグマを殺すと言う事。
それは最後の家族を殺す行為だった。
「私は何もしていないさ。何もできなかった」
ニックの家を手配し、子供一人で暮らせるよう環境を整えはしたが――たまたま助けた子供が王の息子だっただけ。
たまたま二人の対戦時に居合わせただけだ。
ニックは一人で生活をしながら――只々王を殺す事だけを考えていたのだ。
滝を背に立つ二人。
滝のが二人を裂くように地面へと流れている。
「俺が王になる。そうすれば俺は、俺の過去は全て正しくなる……」
「あ、おい、ニック!」
「俺は強い。弱い人間は皆死んでいくんだ……」
何が道場で『魔法』を磨けば更に強くなるだ……俺は十分強いんだよ! 母さんも誰も弱いから死んだんだ!
ニックは炎を操りカグマを焼き殺す。
「ふむ。いい熱さだ――この心意気、忘れるな」
「な……」
「だが、お前が憎んでるのは自分の弱さだ。だからこそこうしてここに来た。違うか?」
どれだけ炎を浴びようとも眉ひとつ動かさない。
しかし私は見た――炎に包まれるカグマの目に涙が浮かんでいた事に。
カグマはそれ知れだけ言うと道場へとニックを案内した。
その後、道場でニックは泣いた。
もっと強くなりたい――確かにあの時ニックはそう言った。
あの涙に嘘は無いと信じた私はそれ以来、私は二人には会っていない。
会ってしまったら私の目標が叶わなくなってしまうと思ったから。情に負けて王を倒せなくなると――いや、それも違うか。
本当は――
「シキ殿、下がれ」
「どうした?」
突如カグマが立ち上がり、私を道場の入り口から遠ざける。
それと同時に道場の扉が開いた。
「来客だ」
現れたのは二人の男――全く同じ顔が二つ並んでいる。
違うのは顔に入れられている入れ墨だけ。
一人は右目、もう一人は左目。
目から落ちる黒い刺青はその男たちの目印でもあった。
こいつらは――
「『人形兄弟』」
何故こいつらがここにいる?
Ⅱの国でも有名な魔法使い――『人形兄弟』
「何だ、シキ殿知り合いか?」
「いや、噂だけは知っている。風来姫親衛隊のツートップ」
フウキのためなら何でもする――彼らはフウキの為にⅡの国で虐殺を行った。フウキに逆らう老人たちを皆殺した。
「だが、フウキ以外には興味を示さないはずだが?」
だから他の国の王を訪れる理由は無い。
こいつらは権力なんて興味なく、フウキの為に生きられればそれでいいのだ。
「くふはははは」
右目の入れ墨――ジェラ。
狂った笑みは私たちに向けられている殺意を隠そうとはしていない。
その殺意に嫌な予感がする――まさか、フウキを拘束しているのがばれたのか? こんなに早く?
まだ一か月も立っていない。フウキを拘束してからまだ20日。
「姫が言ったんだ――他の王を殺せば結婚してくれるって。ねえ、ジェシー兄さん」
左目の入れ墨が兄のジェシー。
フウキを姫と溺愛している彼らはフウキの言う事なら何でも聞く。どうやらフウキが拘束されているのは知らないようだ……。
フウキが言った?
今のフウキは――『姿写し』。
『騎士団』の仲間であるがあの男、そんな事を……。
「あの馬鹿」
何余計な事してくれてるんだ。
王を倒そうとしている計画を知っているのも『姿写し』だけ。紳士的で物腰柔らかく、考えも大人びている『姿写し』だから打ち明けたのだが――何考えているのだ?
「王達と戦えば勝てるかも知れないけど、負ける可能性も高い。だけど、年老いた王――Ⅷの国王だけは例外だよね」
「そう。だからこうしてやってきた」
『限定魔法』――こいつらは二人とも使える。
私は身構え『魔法』に備える――『限定魔法』にどこまで戦えるが分からないが、何もしないよりはましだ。
「『限定魔法』――泥人形」
「『限定魔法』――藁人形」
土でできた私より少し大きい人形。
同じように藁人形も作り上げられる。それは一つ、二つと数を増やしながら、私とカグマを囲むように増えていく。
「木と土の『魔法』か」
カグマは増えていく人形を見回す。
「冷静に観察している場合ではないぞカグマ。相手が『限定魔法』を使えるならば――私の道具では太刀打ちできん!」
『限定魔法』には正直勝てる気がしない、勝ったことが無い。
「シキ殿……それはそんなに胸を張れる事ではないぞ?」
カグマが近くに出来た土の人形を殴る。
そんなに強くない人形なのか簡単に崩れていく。
「この程度ならシキ殿の出る幕は無い」
次々と泥人形を殴って崩していく。
数が減っていくにも関わらず『人形兄弟』はにやにやと笑っている。




