09
今――私の前に現れたと言う事は、すなわち風の球を受けると言う事であって、私の拳銃を受けても平気だ。などと、そんな理由で前に出たのならミオは死んでしまう。
王の魔法は絶対。
そう言えば学校でそんな話を聞いた記憶がある。
それほどまで王とは『魔法使い』としての力が違う。
『限定魔法』
歴代の王は皆持ってたらしい。持っていようが使う機会はそうそうない。
『限定魔法』なんて無くても十分に強いから。
そんな授業を思い出しながら、
「ミオ!」
ミオはその風の球を受ける。
「『水亀』」
その構えはそこ足はしっかりと地面に固定して、上半身を少し前に倒す。両腕の肘を直角に曲げ手刀を相手に向ける。
手刀の形のまま掌を、フウキが放った風の球へと両腕ともぶつける。
ミオが受け止めると風が吹く。
その風の風力は強く、私は吹き飛びそうになるがその場に何とか堪えた。さっき負った右腕がいたむが――それよりもミオの方が心配だ。
「うおおおおおおおおおおお!」
雄たけびを上げてフウキの魔法を受けている。その光景は私から見たら信じられない。
「へー、意外にやるね♡」
受け止めた風の球の軌道を変えて弾き飛ばした。
弾き飛んだ風の球は地面にぶつかり大きな穴を作り上げる。あんな『魔法』――私が食らっていたら防ぎようがない。
フウキの恐るべき『魔法』もそうだが、あれを受け止めたミオの『魔法』も素晴らしい――ミオに感謝せねばならないな。
「やっぱ痛いよ……」
「痛いって……王の魔法だぞ?」
私の弾丸と一緒の反応されては困る。明らかに威力も違うのだが……。
まあ、不意打ちで受けた弾丸と、構えて受け止めた『魔法』の差か――と、納得しようと思ったが無理だ。気持ちでどうこうなる問題ではない。
あんな『魔法』を正面から受けるなんて馬鹿げている。
私たちの中では王に挑むことさえ、王の前に立つことさえ愚かだとされているのに……。
「それより怪我、大丈夫?」
私の右腕を痛々しく見つめ、心配してくれる。私の心配よりも王に歯向かった自分の心配をした方がいいが、その好意は素直に受け止めよう。
「ああ、私の道具『全核治療』があるからな」
「じゃあ、僕がフウキの相手してるから!」
ミオは先程と同じ水亀の構えを取る。相手をするとは言っても空を飛べないミオはどうやら私の盾になってくれるみたいだ。
「あー、気が変わったから大丈夫♡ 早くけがでも治せば?」
フウキは両腕を上げて空中を平泳ぎし始めた。
かなり頭にくる態度だが、ミオが、
「よかったね」
と、構えを解いてしまった。
今の私は戦えない。ならば、ミオがいいなら良しとするか。
「これを使うか」
全ての【核】を回復へと当てる真黒木さんより送られたもう一つの道具――『全核治療』。
五つの【核】を同時に使用し、治療する道具。
『魔法使い』は二つの属性を同時には使えない。違う属性の『魔法』を混ぜると人体を活性化させるのだが、その活性に体は着いて行かず死に至る。強すぎる薬は時には毒になると言う事か。
だが、【核】ならば――その弱さから、少しだけなら同時に扱える。
それが『魔法』に劣っている【核】唯一の利点。
最も――すぐに壊れてしまうでそんなに使いたい道具ではないのだがな。
「まあ、ここで出し惜しみは無しか」
『全核治療』は正方形の箱に5つの【核】が埋め込まれている。その先端から伸びている二つの端子を負傷部分に貼り付け使用する。
「せいっ」
ボンっと、この場にそぐわない音を立てて箱が爆発する。数秒で高額な【核】が五つも駄目になった。完全に傷は治っていないが――動かせるレベルには回復した。
「よし、これで大丈夫だ。またせたなフウキ!」
私は治った右腕を触りながら空にいるフウキに声をかける。
待たれたのは気にくわんが、こうして無事傷が治ったのだ感謝だけはしておいてやる。
「ふーん、その変な構えがあんたの魔法って訳?」
「こら、私を無視するな!」
私を無視したフウキ。スー、と地面すれすれを滑空して私の横で構えたミオの前で止まる。 確かにこちらでは構えはあまり見ない。
そもそも『魔法使い』は戦闘の際に構えないのが基本だ。意識するだけで風や炎を出せる――それならば構えなんて必要もないだろう。
ましてや徒手空拳で戦う変わり物などそうはいない。イメージして、『魔法』出しておしまいだ。
「変な構えって言わないで! これは僕の大好きな漫画の主人公が使っていた、戦闘法なんだよ? それを現実に、『魔法』を使って我流に開発した構えだもんね!」
何回も構えて、戻して構えて戻してを繰り返すミオ。どうやらこの構えはかっこいいぞアピールをしているみたいだった。
「うわー、普通にキモ~い♥」
「それはどんなに強力な魔法でも流石に引くぞ……?」
漫画ならこっちの世界にも存在するが……それを自分が使うとか。
ちなみにこちらの世界では異世界ものが流行っていたりする。改造人間が主人公の話だったな、確か作者は、く……なんとかと言ったっけかな?
「それに、この構えは『魔法』じゃないよ。僕の『魔法』はあくまで身体強化だもん」
ミオのその言葉にフウキが反応した。
私たちの頭上へと舞い上がり、フウキの周りの風が猛烈な勢いで渦を描き始める。
「身体強化ねえ、自分からばらすなんてなめてんじゃねえぞ♥」
フウキが切れた……!
今のタイミングで切れるのか?
確かにフウキは『異世界の魔法使い』であるミオの『魔法』を知りたがっていた。
それを自らカミングアウトしたからか?
たったそれだけの事で?
気まぐれ女王とは言えど、せめて常識ぐらい持っていてくれ。
そして何より――これはやばい。
「おい、逃げるぞ! 切れたフウキに近づくな!」
「え、何言ってんの、まだ僕戦ってないよ!」
「いいから来い!」
フウキは『限定魔法』で一度、自らの国を亡ぼしかけている。
その時――先代のⅡの国王も殺している!
王殺しの魔法に挑むには今はまだ危険すぎる。
「おい、何している! 私の声が聞こえないのか!」
一歩もその場を動こうとしないミオ。
それどころか水亀とは違う、構えを取る。それは自分が引く意思がないと私にアピールするには十分だった。
「聞こえてるよ――『木熊』」
水亀の構えとは違い――右足を半歩前にだし、僅かに腰を落とす。肩幅に開かれた足は前後左右に動きやすい。これなら、攻撃も防御も回避も出来る。
腕は左手を胸の前に出し、右手は自分の腰の位置で構えた。
「ねえ、王を全員倒すんでしょ? ここで逃げたら勝てない気がする」
「気がするだけだ! 死んだら元も子もないぞ!」
フウキの周りで起こった竜巻は一つ、二つと――どんどん数を増やしていく。その魔力はフウキの――王の『限定魔法』に相応しい。
「限定魔法――愛嵐舞♥」
大きく渦を描いていた無数の竜巻。
その竜巻は勢いはそのままに小さくなっていた。フウキの手の上で意志を持ってるかのようにうねる風は不気味に笑っているかの様だった。
話には聞いていたがこれがⅡの国の王フウキの『限定魔法』。
「僕は戦うつもりはなかった。でもシキに会って、見て、話をして気が変わった。女王様じゃないけど、僕だって気まぐれなの」
微笑むその顔は純粋で綺麗だった。
あんな『魔法』を見た後にそんな顔が出来るのか……。出会って初日の私になぜそこまで命を賭けてくれるのか?
だとしたらこの男は――
「……馬鹿ものが」
ミオは嬉しそうにうなずいた。
「知ってる――柵跳!」




