プロローグ
何で誰も気づかない。
魔法などと呼ばれるふざけた力に頼って進化を、成長を放棄しているこの世界を、何故、誰も疑問に思わないのかと。
私――シキは常日頃から疑問に思っていた。
例えば私は、火を操る魔法を使用できる。出来るだけで得意ではないが、魔物の肉を焼いたりと、調理に使用している。
だが、昔の私にはそんな簡単な事が出来なかった。
火を貰う為に、多くの食料を差し出し、村にいる『火』の『魔法使い』に頭を下げていた。
私は『魔法』を使えない最下層の人間だった。
『魔力』はあるが使えない。
そんな人間の扱いは最低だった。奴隷の如くに働き、虫のように踏みつぶされ、代わりなどいくらでもいると――存在すら認められなかった。
そんな環境で育てられてきた5歳の時、私はある男に出会った。
魔力があればある程度の魔法が使える。
そんな夢の様な魔法を世界で実現させた魔法使いに巡りあったのだった。
彼は『魔法』で世界を支配できる力を持っていたが、その力を使う事はしなかった。多くの人を救うために自身の身を削り、精神を磨き、いつもボロボロで生きていた。
「いいかい、シキ。この世界はまだまだ成長途中だ。僕はこの世界に置いては異物ではあるが、力を与えられた。それなら、僕は頑張れる」
まだ、幼い私に彼は良く笑いかけた。自分は今にも死んでしまいそうなくせに何でそんなに笑えるのか分からなかった。
強大な『魔法』で支配すればいいと私は子供ながらに疑問だった。『魔法』の強さで生き方が決まる。
それがこの世界の理だったから。
しかし彼は『魔法使い』ではなく異世界人だと言い、世界に歯向かっていた。
地球から来た自分は――この世界に必要でないと分かっている。
だから知らないと。
結局、この世界の為に愛を尽くした男だった。
一緒にいた期間は短いけれど、子供のころの私の記憶にしっかりと彼は染みついている。
地球の歴史、文化。
教えて貰った経験は、私にとって最高の思い出だ。
「魔法が使えなくても平気な世界。君みたいな子がいなくなる世界。僕はそんな世界を作りたい」
そして彼は『王』達の反対を押し切り【核】を作り上げた。
『魔法使い』で無くても『魔法』を使える魔法の道具。
核のおかげで、私たちみたいな人間は救われ、ようやく人間らしく生活できると期待していた。
これがあれば幸せな世界になると、魔法の使えない者達は思ったが、彼――真黒木 崇は姿を消し、さらに世界は最悪へと進んでいった。
核の誕生から15年。
私は成長し、大きくなったが――時代は変わらず最悪のままだった。
『魔法使い』は【核《コア』】によって魔法を使う者達を更にひどく迫害するようになり、それぞれの王は自分勝手に国を治める。
結局、真黒木さんの努力は無駄になっている現状だが、私が意志を引き継ぐ。
みんなが笑って暮らせる世界を、私の手で作ると彼がいなくなってから努力した。心身を削る生活を送り私はようやく、目的に向かって足を進めたのだった。