第5話 歪な正義
2015/6/14加筆修正
―――翌日
俺はミーナたんの家の前に居た。
「ふわぁ~……。」
「欠伸してないで、ちゃんとするの!今日は魔導士様にお会いするんだから、しっかりしてないと駄目じゃない!」
ぷりぷりと怒るミーナたん。俺にロリ属性はないと思っていた。
面倒見の良い幼馴染……、これはたまりませんなぁ!
彼女の微笑ましい姿に思考がトリップしていると、ミーナたんは頭に?を浮かべてきょとんとした。
「どうしたのよ……。はは~ん、さては魔導士様に会うこと緊張していたわね。」
あっ、そのジト目もいいですゾ。
「だから寝付けなかったんでしょ?ちょっとクマ出来てる。」
自然な動作で、ミーナたんは髪をかき分け顔を覗いてきた。
無自覚でこういう小悪魔的行為をしちまうとは……、ミーナ……なんて末恐ろしい娘!
冗談はさておき、言い訳考えるのに時間とられて、なかなか寝付けなかったのは事実。結構眠いです。
(あっちに見えるのは何だ……?もしかして噴水か?)
ミーナたんの家に来るまで、村の様子を観察していたが、どの家も木の作りで質素だった。
もちろん、クロイツェフ家も然りである。
それに対し、ミーナたんの実家は豪華とまでは言えないが、他所と違い、門構えからしてフェンスがあるわ、噴水付きの庭があるわで、裕福なのは間違いなさそうだ。
「凄いなぁ……。ミーナた、ちゃんの家は。」
いけねぇ、ついミーナたんと呼びそうになっちまった。
「何を今更言っているのよ。領主様の特権ってやつよ。」
幼馴染が領主様の娘だったとは!お~い、ここに優良物件残っておりますぞ~!
……ゴホン。
屋敷の中に入ってみると、外見に比べ内装は案外質素だった。
クロイツェフ家に比べると遥かに豪華なのだが、立派そうな絵画や調度品をごてごてと並べていない。
数は多くないが、上品な内装の仕上がりだ。
きょろきょろと辺りを見回していると、ミーナたんは俺を玄関近くに放置して、白いローブのイケメンと何やら話しをしていた。
こ、これは……!!
噂の放置プレイですか!?
ミーナたんと話していたイケメンさんは俺の視線に気づいたのか、こっちの方に顔を向け、ニコニコと笑みを浮かべながら近づいてきた。
「ミーナ?この男の子が昨日話していた友達かな?」
Yeah!!ワイがピーターやでぇ!
「ええ、ジョバンニ様。この子が私の幼馴染ピーター・クロイツェフでございます。」
あれ、ミーナたんの言葉遣いが変わったぞ?
なんか馬鹿なこと思っていた自分が、……恥ずかしいじゃない///
「は、初めまして、ピーター・クロイツェフです。数え年で8歳になります。」
しまった、マジで噛んでしまった。ますます恥ずかしいぞ。
あっ、ミーナたん今その眼をするのはやめて、精神的ライフポイントが削られちゃう!
「緊張することないよ、ピーター。私の名前はジョバンニ。正義の味方だよ。」
さらっと正義の味方って言えるの、すげぇな。
ミーナたんから非道な帝国からこの村を守るためにやってきたとは聞いていたけれど……。
「早速だが、君の魔法を見せてくれるかい?」
「はい。わかりました、ジョバンニさん。」
俺たちは庭に出て魔法を披露することになった。
「それじゃあ、まずは<<ファイア>>を詠唱してもらえるかな?」
相変わらずニコニコとした表情を浮かべ俺に話しかけてくる魔導士のジョバンニさん。端正な顔立ちに改めてイケメンだと実感する。
さて、とうとうこの時が来てしまったか……。
でも、大丈夫だろう、あれだけイメージトレーニングしたんだし。ピーター君の蔵書にも魔法コントロールには想像が大事だって書いてあったもんな。
「行きます。(前回やった時はマナを多く出しすぎて、あんな事になっただろうから)……マナよ火となりて、燃えよ<<ファイア>>!」
俺は手を伸ばして何もないところへ向かってスペル詠唱した。
そうしておかないと、万が一失敗して、ニーナやジョバンニさんを怪我させては大変である。
「……ッ!これは……?」
「あれっ?この間はできたのに……。」
「ピーター本気出している?この間はパーッと派手なの出したじゃない。」
「ミーナちゃん、今出しているのが本気だよ。」
そう、実際に本気だった。上手くコントロールできるか不安で仕方無かったが、何とか火を掌サイズにまで小さくできた。
どうやらピーター君の身体は、他の人に比べてマナの精製量が群を抜いているらしい。その為、少しでも気を許すと、マナの放出が増えて、世紀末でヒャッハーッな感じになってしまいそうだ。
「もういいですか……?」
イケメンさんに話しかける俺。どや!このつらそうな表情は!ピーター君のような美少年がやると破壊力抜群やろ!?
「……ッ、あぁ、ありがとう。ミーナ、ピータ君を少しだけ外に連れて行っても構わないかい?」
「えぇ、構わないですよ。」
俺に向かって微笑み、「目をかけてもらえそうじゃない、やったわね」と小声で囁くミーナたん。
耳に吹いてくる息が気持ちよかった……って、違う、違う。
ミーナたんが嬉しそうなのは結構だけど、……えっ?何処連れてかれるの?
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俺とジョバンニさんは村の外れまで歩いた。
少し緊張してします。ピーター君の身体を借りているとはいえ、元の精神は家にずっと引きこもっていたいニートなんです。その辺、ご勘弁ください。
「ところで、こんなとこにまで呼んで、一体僕に何の用でしょう?」
「そうだね……。単刀直入に聞こうか。なんで実力を隠すような真似を?」
……うわぁ~、思いっきしばれてますやんか~。
「えっ、僕はただ一生懸命に……。」
「ばれているから気にしないで。」
ニコニコと追撃せんといてくださいな、ジョバンニはん!
「君は幼いから知らなかったんだと思うけど、僕には君のマナが見える。戦いで重要なのは、相手の力を見極めることなんだ。それは魔術師も同じ。魔術師の強さの指標は色々とあるけど、体内に保有するマナの総量はその一つと言えるんだ。」
「君は体内から非常に多くのマナを、しかも非常に透き通ったものを発していたんだよ。」
ぐぬぬぬ……ッ!そうだったのか、ピーター君の本にはそんなこと書いてなかったぞ!
「さぁ、まずは理由を教えてもらっていいかな?」
は~、やっぱり嘘は苦手ですな。仕方ない話そう。
「え~と、実は僕お母さんに迷惑かけたくないんです。」
「どういう事かな?」
俺は正直に話した。ついこの間まで、病気をしていて母親に辛い思いをさせたこと。
再び騒ぎを起こして母親に苦労させたくないこと。
「なるほど……。君は優しい子なんだね。」
さっきまで、硬い表情だったジョバンニさんも再び優しい笑顔に戻っていた。
「えぇ、ですからこのことは内密にお願いできませんか?」
「いや、それは駄目だ。」
早ッ!もうちょっと何とかならんですかぁ~。堪忍してくださいなぁ~。
「君は力を持っているんだ。力を持つ者にはそれ相応の義務があるんだよ。」
「義務?」
うん?つい反応したがどういうこった?
「……そう、僕ら魔術師はこの強大な力を正しいことに使う必要がある。助けを求めている人を救う力があるんだ。まだ今の君もそうだけど、力の無い弱者はそれができない。但し、ピーター君、君は訓練を受ければきっと素晴らしい力を発揮できるようになる。これは僕が断言しよう。……だから、この力のことは早く皆に伝えて相談するんだ。」
ジョバンニさんの目が怖い。笑っているのだが、じっと俺の目を見据えている。
「それに出来れば、私が君を見てあげたいしね。」
えっ……///先輩……/// それって、こ、告h。
―――ピコン、ピコン
「あぁ、すまないね。ピーター君、通信用の礼装だ。ちょっとごめんよ。」
あれも魔道具の一種か。クリエには悪いことしたな。結局ばれてしまったんだから、謝って話しをしなきゃ。そういえば、創造の力って、どっかで聞いたような……あれ、なんだったけ?
「あぁ、こちらジョバンニだ。うん、もう始める気なのかい? あの将軍閣下様は……。焦りは禁物だろうに。」
「うん、分かった。私もこの村での役目はほとんど終わっている。任務は完璧に遂行したかったけど、最期にいい人材をゲットできたから良しとするよ。」
ジョバンニさんは通信を切り、今までとは違った笑みを浮かべ俺を見ていた。
この笑い方はニタニタって感じで、あまり良い印象は持てない。
「あの、ジョバンニさん……一体何を?」
その時、遠くの方で大きな地鳴りがした。大声も聞こえてくる。
「この村ももう終わりだよ。ほらご覧、帝国軍の旗印が見えるかい?」
「ッ!?」
俺は息をのんだ。こいつ何を言い出した?
「どういうことですか……!?帝国軍が来るんですか?」
「なら、お願いです!この村を守ってください!」
「おいおい、ちょっと待ってくれよ。……そうか、まだ話していなかったからこういう反応も仕方がないか。」
やれやれといった顔をしつつも、ジョバンニは笑みを浮かべたままだ。
なんか腹立つな。早く戦いに行けよ!
「僕は帝国の間諜だ。ここを落とす為の尖兵だよ。だから、あいつらは僕の敵ではない。」
「何を言っているんですか?あなたはエンスピードでも指折りの魔導士で……。」
「裏切ったよ。エンスピードに居ては私の目的は果たせないのでね。」
ジョバンニはすらすらと喋った。何もやましいことが無いかのように話し続ける。
「目的って?」
俺は怒りを通り越して冷静になり、ジョバンニへ問いかける。
「……ふぅ、そこまで話さなくちゃいけないのか、参ったな。誰か<<チャーム>>の魔法を改良してくれないかな。さっきも話したけど、僕は正義の味方でありたい。力あってこそ、正義は実行できる。この国は弱いんだよ。ピーター君、ぼくは弱者を守りはするが、飽くまでそれは副業。悪者を倒すことこそが本業なんだ。」
……こいつ、狂っているぞ。自分が裏切ったことなんか微塵も悪いと思っていない。平然と矛盾だらけのことを喋ってやがる。
「あんた、狂っているよ!何が正義の味方だよ!そんなのただの方便じゃないか!」
「何……?」
「お前は自分の力を使える場所を求めてるだけだろ!悪を倒すのだけが正義だなんて絶対違う!」
俺はフィクションの世界じゃ、悪が大好きだ。だけど、そいつらが映えるのは、目を当てられないほど、熱血だったり、かっこよかったり、優しかったり、尊い自己犠牲ができる、正義のヒーローがいたからだ。こんな奴に正義なんて語られたくない!
「お前は正義でも、それどころか悪ですらない!単に自分の力を誇示したいだけの裏切者だ!」
「君は私の<<チャーム>>にかかっていないのか……?まさか……。いや、有り得ない。こんな子供が私の<<チャーム>>を打ち破るだと!」
……俺の話し聞いてた?
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<<ったく、あの坊主め…。何故に妾がこんな狭いところへ押し込められねばならんのじゃ!>>
ふぅ、あんな奴が妾の主になるかと思うと、お先真っ暗じゃ。
それにしても、あいつの魂は面白かった。
ガキの癖に色付きで、しかもそれが2色とは。青色と赤色がぐるぐると混じっておった……。
しかし、さっきからマナが騒々しく飛び交って煩い!!
一体、何事じゃ?
マナの流れを見るに数十人の魔導士が一斉に魔法を放とうとしておるのか?
しかも、マナの質から判断するに、攻撃魔法ばかり。
……という事は戦か。
人間どもめ、いつの時代も破壊ばかり楽しみよって。
待っておれよ人間共。ようやく、妾の力を使いこなせる者が出てきたんじゃ。
妾の力をして、この世に新たな息吹を芽吹かせようぞ。
あぁ、昔を思い出すなぁ、愛しきアルベルトよ。
……フフフッ、もしかするとあの坊主はお前の遠い子孫なのかもしれんのぅ。