第三話 天の邪鬼の憂鬱
ようやく完成です。
投下します。
SIDE:康
「さて…」
まず一言、そして辺りを見回す。
ここは三年の教室、私のクラスだ。
私は今教卓に立っており、席には数名の男女、隣には玄が居る。
「信隆と元は?」
「今は、講堂の掃除している頃かなー」
「なるほど、信隆も元も真面目だからサボるとか考えないのだろう」
特に信隆、成り行きで生徒会長になったのだから適当にやっておればよいものを…手を抜く事を知らぬようだ。
もっとも、それゆえの生徒会長推薦なのだがな。彼奴は自分で思っている以上に人望はあるのだ。
「諸君、まずは集まってくれたこと…感謝する」
「私からも、ありがとー」
私は軽く頭を下げ、玄は微笑みながら手を振る。
「お姉さまの頼みでしたらそれが何であれ、喜んで来ますよ」
「玄さんの頼みなら喜んで飛んできますよ」
見事なまでに返事が分かれた、男子は玄目当てで女子は私なのであろう。
それにしても、玄の男子からの人気には驚嘆するばかりだ。アイドル顔負けな容姿にモデル並みのスタイル、加えて性格もそこそこよい…と、これは少々やっかみが入っておるな。なるほど、人気出るのも道理か。
この点、私は玄に嫉妬している。同姓とはいえ、慕われてる事は嬉しいのだが私とて女子ゆえ男子にモテたいと思わないでもない。もっとも、その事を隠してはおらぬがな。
そういえば幼い頃は玄の事大嫌いだった、今では親友と呼べる間柄…昔の私が知ったら驚くかな、それとも激怒するかな?
「康ー?さっきから私の顔ばかり見てるけど、どーしたのー?」
「いや何、可憐な一輪の花を愛でていただけだ。気にするな」
「信隆が居たら、喩えがおっさん臭いって言うところだねー」
「確かに、彼奴なら言うであろう。全く失礼な奴だ」
「はいはい、いい加減始めましょうねー皆さん置いてきぼりですよー」
こうして軽口を言い合えるのも、信隆おかげ…か。彼奴には感謝せねば。
閑話休題。
「少々脱線してしまった、申し訳ない。君らに集まってもらったのはあの二人、信隆と元についてだ」
わずかな沈黙、そして一人の女生徒が控えめながら手を挙げる。
確か、二年で信隆のクラスメイトの…
「では柴田、言ってみよ。遠慮は要らぬぞ」
「は、はい!会長と副会長ですね。あの二人、付き合っているんですか?」
「どうだろ?あの二人、しょっちゅう喧嘩しているところ見るぞ」
「あたし思うけど、あれは喧嘩というより一方が罵って一方がなだめている…もちろんなだめているのが会長ね」
「そうか?俺は仲いいと思うぞ、なんだかんだでいつも一緒に居るし。元ちゃん、わざわざ二年の教室まで迎えに来るし」
「男子ってデリカシー無いわね、仮にも先輩に対して元ちゃんとか、本人の前で言っちゃダメよ。結構気にしてるんだから」
「気持ちは分かりますけどね、元ちゃんみたいな妹居たらなぁ」
「こら、そこの一年。元ちゃん三年だって分かってるよな」
彼女、柴田の発言を皮切りに次々と発言が飛び交う。というか後半ほとんど元の話題ばかり。
「元、相変わらず人気者だよねー」
「本人が聞いたら激怒しそうな会話だかな」
少々騒がしくなってきたようだ、まだ二人にはバレるわけにはいかぬゆえ釘を刺さねば。
「傾注!傾注!二人に見つかるぞ!もう少し静かに…な」
程無く、騒ぎは治まる。皆の順応性の高さに内心感心しつつも表情には出さず話を続ける。
「先程の柴田の質問だが、答えは否だ」
「元も信隆も、お互いに好きだとは思うんだけどねー付き合うとか考えていないと思うのー」
私と玄の返事に、再びざわつき始める。
「流れに任せたままでは二人はずっとあのままのような気がしてならぬ、何というか見ていてもどかしくてな…前置きが長くなったがここからが本題だ。」
一度区切り、軽く深呼吸。気持ちを落ち着かせ…
「私は、あの二人を付き合わせようと思っておるのだが皆はどう思う?」
皆に問いかける。
「いいんじゃないかな、俺は賛成だ」
「私も賛成、というか付き合っていなかったんだ。ちょっぴりびっくり」
「やっぱり、一年前のあの事気にしているからじゃない?」
「多分ね。元ちゃん負い目に感じて一歩踏み出せていないのかも」
概ね好意的な返事と予想通り、あの話になったか。
「一年前、何かあったのですか?」
「知らんのか?ニュースでも流れたんだが」
「ニュースじゃ名前出なかったもの、一年が知らないのは無理無いわよ」
「ニュースって、確かこの学校の女子生徒が自殺未遂…まさか!?」
すでに知っている二年と三年は顔を伏せ、一年は驚きつつこちらを見遣る。
「察しがよすぎるのも考えものか、と言いたいとこだが話が早くて助かる」
私は、少々わざとらしく溜め息を吐きながら語り始める。
「二年三年はすでに知ってるだろうし現場を見ているものもいると思う。一年前、自殺未遂を起こしたのは元だ。そして信隆は、彼女を助けるために大怪我を…一年入院したのはそのためだ」
「元、自分のせいで信隆に怪我をさせてしまったことずっと悔いているの。そして信隆も、そんな元に対して責任を感じてるの」
私の言葉に、玄が続けた。珍しく間延び無しでの喋りなので、皆は少々面食らっておったが。
「恐らく、いや間違いなくこれはただのお節介。だが私は「みなまで言うな、解ってるから。俺らかて、あの二人見てきたつもりだし気持ちは同じだ、多分」里見…」
私の言葉をさえぎってまで告げた言葉には、不覚にも涙腺が緩みそうになった。誤魔化すのも兼ねて、力強く宣言する。
「皆の協力、感謝する。これから我々はNHKと呼称する!!」
「「「え?」」」
あれ?おかしいな、反応が鈍いぞ?
「あのさ、北条?そのNHKって何?」
「無論、信隆(N)元(H)くっつけ隊(K)だが?」
「なるほど、さすがお姉さま!素敵なチーム名です!」
「え?素敵か?素敵なのか?おかしいと思う俺がおかしいのか?」
面白いくらいに狼狽えている三年男子、里見。
私のつけたチーム名以上に賛同があることに驚いているようだ。だがこのチーム名のどこがおかしいというのか、失礼な奴だな全く。
Side out
Side:元
「そちらは終わりましたか?」
「終わった、さんきゅ。元が手伝ってくれて助かったよ」
「あたしはこれでも副会長ですから、会長が頼りないので仕方なく手伝うことにしただけです。ので、全然気にしなくてもいいのですよ」
あたしは嫌味を込めて返事を返しました。
いつもこうです、どうしてあたしは信隆には素直になれないのか…自分が嫌になります。
「全く、講堂の掃除なんて生徒会の仕事ではないでしょうに…信隆は相変わらずの馬鹿ですね」
「いや、まあそうなんだけどね。みんなが使う学舎だし、きれいに越したことはないかな…と」
言ってるそばからこれ、本当あたしは素直じゃない。だけど…
「信隆は、怒らないのですね」
「ん?何か言った?」
「いえ、何も。それよりも今日はこれで終わりですよね、では帰りますよ」
片付けをすませ、そそくさと帰る準備を始める。
「ちょっと待って!すぐ片付け終わるから」
「待ちません、ですので急いでください」
信隆も信隆です、どうして怒らないのですか。どうしてあなたはそんなにも、あたしに対して…
どうして…
今更ながら、前書きと後書きは書かないほうがいい気がしてきました。