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アリスと呼ぶ彼女

作者: 海苔
掲載日:2026/05/14

 

「何をなさっているのです、兄様(あにさま)?」

 聞き慣れたハスキーな声。

 シャランと金属がぶつかり合う音が鳴る。

「あ、あなた誰!?」

 興奮したような声を上げたのは、対峙する女。

「あら、名乗りもせずに問うなんて。ブレイな方」

 此方まで歩いて来た彼女は俺の――アグレイの腕にその細い腕を絡める。

 自分と揃いの褐色肌と、飾り立てる装飾品達。揺れる漆黒の髪、見慣れた故郷の衣装。

「何で居る、キアリカ」

 紛れもなく己の妹だった。

「あら、久し振りに合えたというのに・・・冷たいのではなくて?」

 傷付きましたわ、と態とらしく悲し気に振る舞うキアリカ。紛れもなくアグレイの妹だ。

「此処に居るはずのない妹に会ったのだから、仕方が無いと思うけれど」

 呆れ交じりの声に、何が面白いのか妹はくすくすと笑いを漏らす。

「驚きまして?」

 上目遣いで此方を見るキアリカ。空よりも濃い水色の瞳と目が合う。

「とてもね」

「なによりですわ」

 悲し気な姿から一転、満足そうに笑う。

「あ、あああ貴女は・・・?」

 声を掛けてきたのは対峙していた女の取り巻き。取り巻きというか、侍っていた男の一人か。

 どもり過ぎじゃないか。まあ、妹の顔が良いのは認めよう。入学したての頃は――今もか。アグレイも殆どが似たような反応をされたから見慣れてしまった。

「ああ、失礼致しました。久し振りの兄との再会でしたので」

 途端猫を被るキアリカ。腕が離れる。

「キアリカ・ユジーナと申します。お察しでしょうが、アグレイ・ユジーナの妹ですわ」

 薄く透けているショールを撫で名乗るキアリカ。

「何やらお邪魔してしまったようで・・・申し訳ありません」

 眉を下げるキアリカ。慌てる男達に軽く同情した。

 見事に掌だ。

「ですが」

 何をする気だキアリカ。頼むから面倒事は起こさないで欲しい。

「皆様。兄を取り囲んで・・・一体、何をなさっていたの?」

「え、っとぉ・・・」

 慌て言葉に詰まる男達を情けなく感じたのか、黙っていた女が前に進み出た。

「お喋りしてたんです。みんなで」

 ねえ、と周囲の彼等に同意を求める彼女に感心する。

 頭の回転が速いのか切り替えが速いのか、柔軟なのか・・・居ると便利な人材ではあるな。

 欲しくはないけれど。ただのお花畑ではないらしい。

「そうでしたか。良かった」

 そう言って破顔するキアリカ。

(わたくし)はてっきり、兄を責めているのかと。例えば――糾弾、とか」

 ふふ、と微笑む妹。一体、どの辺りから見ていたのか。

「・・・なんて、深読みしすぎでしたね。ごめんなさい」

 本当に態とらしい。

「ううん。誰にでも間違いはあるよ」

 あからさまにほっとした様子の彼女に、キアリカは小さく笑った。


「いつから見ていた?」

 妹の耳元で問うと、また腕に手が絡められた。

「さあ?もう、兄様ったら反撃しないんですもの。見世物としては退屈極まりない」

「見世物じゃない。というか、対応としては正しいだろう」

「ええ。面白味には欠けますけれど」

「お前は・・・」

 溜息を吐くアグレイとは対照的に、キアリカの機嫌は良さそうだ。

「それにしても、何故もっと上手くやらなかったのです?八方美人、お得意でしょう」

「失礼だな本当に」

 通常運転過ぎるだろう。


「それにしても」

 小声から一転して周囲にも届く大きさになる。

「こんなに素敵な方がいらっしゃるなんて。兄様ったら、どうして教えて下さらなかったの?」

 はっきりと彼女を見て言うキアリカ。

「え?わ、私?」

 きょとんと大きな瞳を瞬かせる彼女。

「はい。独り占めなんて、酷いですわ」

 じろりとアグレイを見る妹に、苦笑を浮かべる。

 じわじわと彼女の顔が赤く染まっていく。恥ずかしくなったらしい。

「可愛らしい方」

「えへへ、面と向かって言われると恥ずかしいね。でも・・・ありがとう」

 キアリカの言葉に、へにゃりと眉を下げて笑う彼女。

「キアリカですわ。よろしければ・・・仲良くしていただけませんこと?」

 するりとアグレイから離れ、彼女に近付く。

「も、もちろんだよ!えっと、フィニカです。フィニカ・キール」

「よろしくお願い致しますね、フィニカさん」

「こちらこそ、よろしくお願いします。キアリカちゃん」


 結局、キアリカの登場でその場はなあなあになってしまった。




 がたがたと馬車が揺れる。夕方の茜色が差し込まれ、アグレイ達の髪を照らした。

 帰路を辿る時間を使って、今までの事情含めてキアリカに話していたのだ。

 話が終わると、少しの沈黙が流れる。

 ふうん、と気怠そうに伏せられた妹の長い睫毛が揺れる。


「所謂テンプレ、というやつですか・・・初めて見ましたわ」

「見た事がある方が可笑しいだろう」

「それもそう、ですわね」

 ぽつぽつと、会話が続いて行く。


 そういえば、とキアリカが言った。

「どうかした?」

「・・・純粋ですのね、彼女」

「ああ。周囲が暴走しているだけだよ」

 だからこそ、面倒なのだけれど。

「アリス、でしょうか」

 呟くように言った。

 アリスって、

「童話の?」

「ええ。迷い込まれた哀れなお方。ふふ、大変愛らしい」

「・・・上手くやれよ」

 面倒事は御免だ。個人としても、実家としても、スキャンダルは困る。分かってはいるだろうけど。

「勿論。兄様とは違いますので」

「ならいいよ。あ、俺は巻き込まないでくれよ」

「うふふ」

 笑うだけで答えない妹を横目に、重い溜息を吐いた。

テンプレ物を書こうとした結果。最初から最後まで自分でもよく分かんない内容でした。

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