アリスと呼ぶ彼女
「何をなさっているのです、兄様?」
聞き慣れたハスキーな声。
シャランと金属がぶつかり合う音が鳴る。
「あ、あなた誰!?」
興奮したような声を上げたのは、対峙する女。
「あら、名乗りもせずに問うなんて。ブレイな方」
此方まで歩いて来た彼女は俺の――アグレイの腕にその細い腕を絡める。
自分と揃いの褐色肌と、飾り立てる装飾品達。揺れる漆黒の髪、見慣れた故郷の衣装。
「何で居る、キアリカ」
紛れもなく己の妹だった。
「あら、久し振りに合えたというのに・・・冷たいのではなくて?」
傷付きましたわ、と態とらしく悲し気に振る舞うキアリカ。紛れもなくアグレイの妹だ。
「此処に居るはずのない妹に会ったのだから、仕方が無いと思うけれど」
呆れ交じりの声に、何が面白いのか妹はくすくすと笑いを漏らす。
「驚きまして?」
上目遣いで此方を見るキアリカ。空よりも濃い水色の瞳と目が合う。
「とてもね」
「なによりですわ」
悲し気な姿から一転、満足そうに笑う。
「あ、あああ貴女は・・・?」
声を掛けてきたのは対峙していた女の取り巻き。取り巻きというか、侍っていた男の一人か。
どもり過ぎじゃないか。まあ、妹の顔が良いのは認めよう。入学したての頃は――今もか。アグレイも殆どが似たような反応をされたから見慣れてしまった。
「ああ、失礼致しました。久し振りの兄との再会でしたので」
途端猫を被るキアリカ。腕が離れる。
「キアリカ・ユジーナと申します。お察しでしょうが、アグレイ・ユジーナの妹ですわ」
薄く透けているショールを撫で名乗るキアリカ。
「何やらお邪魔してしまったようで・・・申し訳ありません」
眉を下げるキアリカ。慌てる男達に軽く同情した。
見事に掌だ。
「ですが」
何をする気だキアリカ。頼むから面倒事は起こさないで欲しい。
「皆様。兄を取り囲んで・・・一体、何をなさっていたの?」
「え、っとぉ・・・」
慌て言葉に詰まる男達を情けなく感じたのか、黙っていた女が前に進み出た。
「お喋りしてたんです。みんなで」
ねえ、と周囲の彼等に同意を求める彼女に感心する。
頭の回転が速いのか切り替えが速いのか、柔軟なのか・・・居ると便利な人材ではあるな。
欲しくはないけれど。ただのお花畑ではないらしい。
「そうでしたか。良かった」
そう言って破顔するキアリカ。
「私はてっきり、兄を責めているのかと。例えば――糾弾、とか」
ふふ、と微笑む妹。一体、どの辺りから見ていたのか。
「・・・なんて、深読みしすぎでしたね。ごめんなさい」
本当に態とらしい。
「ううん。誰にでも間違いはあるよ」
あからさまにほっとした様子の彼女に、キアリカは小さく笑った。
「いつから見ていた?」
妹の耳元で問うと、また腕に手が絡められた。
「さあ?もう、兄様ったら反撃しないんですもの。見世物としては退屈極まりない」
「見世物じゃない。というか、対応としては正しいだろう」
「ええ。面白味には欠けますけれど」
「お前は・・・」
溜息を吐くアグレイとは対照的に、キアリカの機嫌は良さそうだ。
「それにしても、何故もっと上手くやらなかったのです?八方美人、お得意でしょう」
「失礼だな本当に」
通常運転過ぎるだろう。
「それにしても」
小声から一転して周囲にも届く大きさになる。
「こんなに素敵な方がいらっしゃるなんて。兄様ったら、どうして教えて下さらなかったの?」
はっきりと彼女を見て言うキアリカ。
「え?わ、私?」
きょとんと大きな瞳を瞬かせる彼女。
「はい。独り占めなんて、酷いですわ」
じろりとアグレイを見る妹に、苦笑を浮かべる。
じわじわと彼女の顔が赤く染まっていく。恥ずかしくなったらしい。
「可愛らしい方」
「えへへ、面と向かって言われると恥ずかしいね。でも・・・ありがとう」
キアリカの言葉に、へにゃりと眉を下げて笑う彼女。
「キアリカですわ。よろしければ・・・仲良くしていただけませんこと?」
するりとアグレイから離れ、彼女に近付く。
「も、もちろんだよ!えっと、フィニカです。フィニカ・キール」
「よろしくお願い致しますね、フィニカさん」
「こちらこそ、よろしくお願いします。キアリカちゃん」
結局、キアリカの登場でその場はなあなあになってしまった。
がたがたと馬車が揺れる。夕方の茜色が差し込まれ、アグレイ達の髪を照らした。
帰路を辿る時間を使って、今までの事情含めてキアリカに話していたのだ。
話が終わると、少しの沈黙が流れる。
ふうん、と気怠そうに伏せられた妹の長い睫毛が揺れる。
「所謂テンプレ、というやつですか・・・初めて見ましたわ」
「見た事がある方が可笑しいだろう」
「それもそう、ですわね」
ぽつぽつと、会話が続いて行く。
そういえば、とキアリカが言った。
「どうかした?」
「・・・純粋ですのね、彼女」
「ああ。周囲が暴走しているだけだよ」
だからこそ、面倒なのだけれど。
「アリス、でしょうか」
呟くように言った。
アリスって、
「童話の?」
「ええ。迷い込まれた哀れなお方。ふふ、大変愛らしい」
「・・・上手くやれよ」
面倒事は御免だ。個人としても、実家としても、スキャンダルは困る。分かってはいるだろうけど。
「勿論。兄様とは違いますので」
「ならいいよ。あ、俺は巻き込まないでくれよ」
「うふふ」
笑うだけで答えない妹を横目に、重い溜息を吐いた。
テンプレ物を書こうとした結果。最初から最後まで自分でもよく分かんない内容でした。
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