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第93話 凱旋の宴と、職人の夢が叶う時



城塞都市ヴォルテックス。

一年中、雷雲に覆われ、陽の光が差すことのなかったこの街に、奇跡が起きていました。


「おい見ろ! 雲が……晴れていくぞ!」

「太陽だ! 何年ぶりだ!?」


転移魔法陣で街の入り口に降り立った私たちを迎えたのは、雲の切れ間から降り注ぐ眩しい陽光と、住民たちのどよめきでした。

塔の主が消滅したことで、街を覆っていた魔力の嵐が霧散したのです。


「……眩しいな」


カイルさんが空を見上げ、目を細めました。

その顔は、煤と血で汚れ、疲労困憊していましたが、今までで一番輝いて見えました。


「帰ってきたぞぉぉぉッ!!」


カイルさんの雄叫びが、静まり返った街に響き渡りました。

一瞬の静寂。そして――。


「うおおおおおッ!!」

「『ブレイク・スルー』だ! 英雄の帰還だ!」


街中が爆発したような歓声に包まれました。

ギルド職員、魔術師団、商店街の人々。

街中の人が駆け寄り、私たちを取り囲みます。


「よくやった! よくぞあの塔を!」

「あんたたちはこの街の誇りだ!」


もみくちゃにされる私たち。

エレナさんは「む、無茶な! 押すな!」と戸惑い、リンさんは影からコッソリとエレナさんに近づく不届き者を排除しています。

私はというと。


「痛い痛い! 祝福のハグが強すぎます! ああっ、誰ですか私の足を践んでいるのは! もっと踏んで!」


熱狂的な祝福(物理)を全身で味わっていました。


「道を開けろ! 英雄のお通りだ!」


人波を割って現れたのは、ギルドマスターのガンツさんと、受付のゲイルさんでした。

ガンツさんは私の前に立つと、バシッと背中を叩きました。


「やってのけたな。……まさか本当に、神の座まで届くとは」

「ええ。ギルマスの特訓のおかげで、死ぬこともできませんでしたが」

「フン、減らず口を」


ガンツさんは笑い、カイルさんとエレナさん、リンさんの肩を順に叩いて労いました。


「今日は無礼講じゃ! 街を挙げて宴をするぞ! 飲めや歌えや!」


   ◇


その夜、ヴォルテックスは祭り騒ぎでした。

ベルタ婆さんの店からは山盛りの肉料理が振る舞われ、ヴォルグ団長ですら魔術師団を率いて祝砲(花火魔法)を打ち上げています。


「ほら食いな! 神様をぶっ飛ばした弟子に、師匠からの奢りだよ!」

「うめぇ! 婆さんの肉は世界一だ!」


カイルさんが涙を流しながら肉を頬張り、ベルタ婆さんが満足げにパイプを吹かしています。


宴の喧騒を抜け出し、私たちは路地裏の工房へと向かいました。

まだ果たしていない、最後の大仕事があるからです。


「……来たわね」


工房の中では、マダム・ガルドとミントさんが待っていました。

マダムは作業台の前で腕組みをし、いつになく真剣な表情です。


「約束のモノは、手に入ったのかい?」


カイルさんが前に進み出て、懐から布に包まれた『それ』を取り出しました。

布を開くと、バチバチと青白い光を放つ結晶体が現れました。

塔の頂で手に入れた、最強のエネルギー源。


『雷神の心臓トール・ハート』。


「……ッ!!」


マダムが息を呑みました。

震える手で、恐る恐る心臓に触れます。

指先から伝わる、無限とも思える魔力の鼓動。


「本物……。これが、アタシが一生をかけて追い求めた……」


マダムの目から、大粒の涙がこぼれ落ちました。

偏屈なドワーフの名工が、子供のように泣いていました。

王都での地位を捨て、危険なこの街に工房を構え、来る日も来る日も鉄を打ち続けた日々。

その全てが、今、報われたのです。


「ありがとう……! 本当に、ありがとう……!」


マダムは私たち一人一人を力強く抱きしめました。

骨がきしむほどの、感謝のハグ。


「痛いですマダム! 肋骨が!」

「うるさいわね! 今は黙って締め上げられなさい!」


ひとしきり泣いた後、マダムは涙を拭い、職人の顔に戻りました。


「これがあれば、作れるわ。神殺しの武具を超える、真の『神造兵装』が」

「すっげー! 師匠、ボクも手伝うよ! どんな魔力回路にする!?」


ミントさんも目を輝かせています。

ですが、マダムは首を横に振りました。


「いいや。これはまだ使わない」

「え?」

「この素材は凄すぎる。今のアンタたちじゃ、扱いきれないわ」


マダムは『雷神の心臓』を厳重なケースに封印しました。


「アンタたちがSランクになって、世界を救うような大仕事をする時……その時まで、アタシが最高の形に仕上げてとっておくわ」


それは、未来への約束でした。

私たちがさらに強くなり、本当にこの力が必要になった時。

マダムはきっと、想像を超える装備を携えて駆けつけてくれるでしょう。


「預けておくぜ、マダム。俺たちがSランクになるまでな」

「ええ。楽しみに待ってるわよ」


私たちはマダムと固い握手を交わしました。


塔の攻略は終わりました。

ですが、私たちの旅は終わりません。

次なる目標は、西の火山地帯。

父から頼まれた『竜の涙』と、Sランク昇格条件である『灼熱の古龍』が待っています。


「行きましょう。新しい地獄が、私たちを呼んでいます!」

「お前、いい加減その言い方やめろよ……」


晴れ渡った星空の下。

『ブレイク・スルー』の笑い声が、いつまでも響いていました。

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