第92話 嵐の終わり、そして神が遺した「心臓」
光が収まり、轟音が遠ざかっていきました。
カイルさんの**『アルテマ・メテオ』**による破壊の爪痕は、第50階層の神殿を半壊させ、天井の雷雲すら吹き飛ばしていました。
「……はぁ、はぁ、はぁ……」
カイルさんが大剣を杖にして、膝から崩れ落ちました。
全身の魔力を使い果たし、指一本動かせない状態。
エレナさんも盾を下ろし、座り込んでいます。リンさんも息を切らしています。
そして私は、黒焦げの炭になりかけながら(再生率80%)、瓦礫の中から這い出しました。
「……やりましたね」
視線の先。
破壊された玉座の前に、**『雷神の化身』**が立っていました。
いえ、立っているのが不思議なほどでした。
黄金の鎧は砕け散り、青白い雷で構成された体は寸断され、明滅しています。
「……見事だ」
化身の声は、以前のような轟音ではなく、静かな風のようでした。
「人の身でありながら、神の雷を凌駕するとは。……貴様らの『突破力』、確かに見届けた」
化身の体が、足元から徐々に光の粒子となって崩れていきます。
消滅の時。
「我は試練を与える者。試練を超えた者には、相応の褒美を与えねばなるまい」
化身が胸元に手を突き入れました。
そこから取り出したのは、バチバチと激しくスパークする、握り拳大の**『核』**でした。
まるで生きているかのように脈動し、無限の魔力を放出している結晶体。
「受け取れ。これぞ我が力の源、『雷神の心臓』」
化身がそれを放り投げると、カイルさんの手元に吸い込まれるように収まりました。
マダム・ガルドが一生をかけて追い求めた、究極の動力炉。
「そして、もう一つ」
化身は最後に、私を見ました。
「痛みを愛する狂人よ。貴様のその異常な肉体と精神……神々ですら持て余すだろう。だが、それこそが世界を救う『鍵』になるかもしれん」
化身は何かを予言めいた言葉を残し、ニヤリと笑いました。
「さらばだ。……面白き人間たちよ」
パァァァァンッ……
最後の光が弾け、雷神の化身は完全に消滅しました。
同時に、塔を覆っていた黒い雷雲が急速に晴れていきます。
「……勝った」
カイルさんが、震える手で『雷神の心臓』を握りしめました。
「勝ったぞぉぉぉぉぉッ!!!」
雄叫びが、青空の広がった塔の頂上に響き渡りました。
エレナさんがカイルさんの肩を抱き、リンさんが涙を拭っています。
ジュジュも私の肩で「キュイキュイ!(やったー!)」と跳ね回っています。
「おめでとうございます、皆さん」
私は完全に再生した体で、仲間の輪に加わりました。
長かった『雷鳴の塔』攻略。
門前払いを食らい、修行をし、装備を整え、何度も死にかけ(私は死にたがり)、ついに成し遂げました。
「これで……Sランクへの条件、一つクリアだな」
「ああ。そしてマダムとの約束も果たせた」
カイルさんが大剣を背負い直しました。
その顔には、以前のような迷いや焦りはありません。
自信に満ちた、英雄の顔つきです。
「帰りましょう。凱旋です」
私たちは、晴れ渡った空の下、転移魔法陣へと向かいました。
手には神の遺産。
胸には達成感。
そして体には、心地よい疲労と激痛の余韻(私だけ)を残して。
『ブレイク・スルー』の伝説が、また一つ刻まれました。




