表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

93/102

第90話 神の指を砕く重量、雷を飲み込む不死の肉体



「……戻ったか」


第50階層。

雷雲の床と、無限の稲妻に彩られた神の座。

玉座に座る**『雷神の化身アバター・オブ・トール』**は、私たちが扉を開けた瞬間に目を開きました。


「3日。……人間にとっては短く、神にとっては瞬きの時間だ。その僅かな時で、何が変わった?」


化身の声が轟音となって響きます。

以前なら、そのプレッシャーだけで足がすくんでいました。

ですが、今の私たちは違います。


「変わりましたよ」


私は一歩前に出ました。

指先で、首元の新しいアクセサリー――マダム・ガルド特製**『痛覚鋭敏の指輪ペイン・リング』**を弄りながら。


「貴方の雷を、余さず味わう準備ができました」


私の挑発に、化身は黄金の瞳を細めました。


「愚かな。……学習せぬか」


化身が右手を掲げました。

あの日、私たちを絶望の淵に叩き落とした、太陽のような雷球。

存在そのものを消し飛ばす、神の裁き。


「消えよ」


ズドォォォォォォォォンッ!!!


放たれた雷球が、光の奔流となって私を飲み込みました。

回避不能。防御不能。

前回は、避雷針を使ってようやく逸らした攻撃。

ですが今回は、私は避雷針を持っていません。


「(来ました……! 全身の細胞が悲鳴を上げています!)」


『痛覚鋭敏』発動。

指輪の効果により、神経を駆け巡る痛みの信号が倍増します。

本来ならショック死するレベルの激痛。

ですが、私はその痛みを魔力変換のトリガーとして利用しました。


「逃がしません……! この痛みは、私だけのものです!」


私は再生能力を「治癒」ではなく「維持」に使いました。

ガンツ・ギルドマスター直伝、『不沈の聖体アンデッド・ボディ』。

崩壊しようとする細胞を魔力で無理やり繋ぎ止め、破壊のエネルギーごと体内に封じ込める。


私の体は炭化し、裂け、沸騰しましたが――消滅しませんでした。

黒い煙を上げながら、光の中で仁王立ちする私。


「な……ッ!?」


化身が驚愕に目を見開きました。

神の雷を、生身の人間が「耐えた」のです。


「あぐッ、あぁぁぁぁッ! 痛い! 倍痛い! 最高のスパイスです!」


私は体内に溜め込んだ莫大な破壊エネルギーを、一気に『被虐の聖域』へと変換しました。

倍の痛みは、倍の出力へ。


カッッッ!!!


爆発的な治癒の光が、私の背後にいる仲間たちを包み込みました。

かつてないほどの高密度のバフ。

力が、速度が、魔力が、限界を超えて溢れ出します。


「行くぞッ!!」


カイルさんが吼えました。

赤い残像を残して疾走。

化身は即座に反応し、巨大な雷槍ランスを生成して突き出しました。

音速の刺突。標的はカイルさん。


「通さんッ!!」


割り込んだのは、エレナさんでした。

彼女が構えるのは、マダムとミントの結晶、『金剛の絶対防壁ヴァジュラ・シールド』。

黄金に輝く大盾が、神の槍と激突しました。


ゴオォォォンッ!!!


衝撃波が塔を揺らします。

以前なら、盾ごと貫かれていた一撃。

ですが、エレナさんは一歩も下がりませんでした。

盾の表面に刻まれた魔導回路が衝撃を吸収し、彼女自身の『循環』の技術が余剰エネルギーを地面へと流します。


「重い……だが、止めたぞ!」

「小賢しい!」


化身が槍を引き、追撃の雷撃を放とうとします。

その視界を、七色の光が遮りました。


「キュイイイッ!!」


私の肩から飛び出したジュジュが、モノクル『プリズム・フォーカス』を展開しました。

私から供給される無限の魔力を、複雑な軌道を描く数十本のレーザーとして乱射したのです。

目眩しと牽制。

化身がわずかに防御の姿勢を取りました。


その一瞬の隙。


「届く……!」


カイルさんが、化身の懐に飛び込みました。

手にするのは、師匠の剛剣と自身の魔剣を融合させた**『剛魔剣・紅蓮断山ぐれん・だんざん』**。

以前の倍以上の重量を持つ鉄塊。


「懲りぬ奴め」


化身は冷徹に、左手を差し出しました。

あの日と同じ。

指先一つで剣を受け止め、砕く構え。


「(同じだと思うなよ……!)」


カイルさんは大剣を振りかぶりました。

チャージはありません。

ですが、剣にはルシアンのバフと、ジュジュの魔力、そしてカイルさん自身の闘志が満ちています。


ベルタ師匠の教え。『脱力』。

カイルさんは全身の力を抜きました。

剣の重さ、魔力の重さ、想いの重さ。

全てを刃の一点に乗せ、ただ「落とす」。


「砕けろォッ!!」


大剣が振り下ろされました。

化身の指が、剣の腹を捉えます。

パシッ。

止まる――はずでした。


メキョッ……!


嫌な音が響きました。

化身の眉がピクリと動きます。

指が、支えきれない。

圧倒的な質量と、それを加速させる魔力の奔流が、神の指を押し込んだのです。


「な、に……?」


「これが俺たちの! **『重量』**だァァァッ!!」


カイルさんが咆哮し、さらに深く踏み込みました。

小細工などいらない。

ただ、師匠から受け継いだ純度100%の鉄塊を、ありったけの力で叩きつけるのみ。

その単純で絶対的な物理法則が、神の理屈を凌駕します。


バギィィィィンッ!!!


黄金の破片が舞いました。

化身の親指と人差し指が、砕け散ったのです。

勢いを増した大剣は止まらず、そのまま化身の肩口にある黄金の鎧を叩き割りました。


「グゥッ……!?」


化身が、たたらを踏んで後退しました。

その肩から、青白い光(神の血)が漏れ出します。


静寂。

カイルさんは大剣を構え直し、ニヤリと笑いました。


「……どうだ。今度は、蚊ほどには痛かったろ?」


化身は砕けた指と、斬られた肩を見つめ、そしてゆっくりと私たちを見ました。

その瞳に宿っていた「無関心」が消え、初めて明確な「敵意」と「歓喜」が浮かび上がりました。


「……よかろう」


化身の全身から、雷が噴き出しました。

本気モード。

ここからが、本当の死闘です。


「人間ごときが、神に傷を負わせた罪……。その魂をもって購うがいい!」


「上等です! さあ、もっと激しくお願いしますよ!」


私は黒焦げの体(再生済み)で前に出ました。

最初の一撃は通りました。

希望は繋がりました。

あとは、どちらが先に倒れるか――いえ、私たちが倒れる前に、神を地に伏せさせるだけです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ