表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

80/87

第78話 千の拳、一の盾、そして砕け散る神の像



「オオオオオオオッ!!」


『金剛の武神像ヴァジュラ・スタチュー』の咆哮と共に、背中から展開された魔力の腕が一斉に襲いかかってきました。

その数、百……いや、千。

黄金の拳の雨が、視界を埋め尽くします。


「くっ、数が多いッ!」


カイルさんが大剣を振り回し、迫りくる拳を弾きますが、迎撃が追いつきません。

一発一発が岩盤を砕く威力。それを絶え間なく連打してくるのです。


「危ない、カイル!」

「ぐわっ!?」


防御の隙間を抜け、拳の一撃がカイルさんの横腹を捉えました。

『白銀の城壁』に匹敵する強度を持つ武神の拳は、カイルさんを軽々と吹き飛ばします。


「リンさん、下がってください! 貴女の装甲では即死です!」

「ですが……!」


リンさんも『影渡りのブーツ』で回避に専念せざるを得ません。

死角のない全方位攻撃。隠密すら意味をなさない「面」の制圧。


「(……なら、私が引き受けるしかありませんね!)」


私はチョーカーを最大にし、一番密度の高い弾幕の中へ飛び込みました。


「私です! 私を殴ってください! 千発全部、私の体で受け止めますよぉぉぉッ!」


ドガガガガガガガガッ!!!


「あべっ、ぶべっ、ぎゃあああ! 早い! 重い! 全身がタコ殴りです! 骨が粉になるぅぅぅ!」


一秒間に数十発の拳を受け、私の体は原形を留めないほど変形しました。

再生速度と破壊速度が拮抗し、私は肉塊となって空中に固定されます。

これぞ究極のサンドバッグ。


「ルシアン……! 無茶を!」


エレナさんが叫びます。

私は再生しかけた口で、血を吐きながら叫び返しました。


「無茶じゃありません! ご褒美です! ……それに、見えますかエレナさん! 奴の攻撃が私に集中している今、奴の『核』が!」


私の捨て身(と欲望)の集敵により、武神像の胸部にあるコアの守りが手薄になっていました。

千の拳の多くが、私という「柔らかくて殴り心地の良い肉」に向けられているからです。


「……見えた」


エレナさんの瞳が、静かに澄み渡りました。

彼女は武器を持っていません。盾も捨てました。

あるのは、己の肉体と、マダム・ガルドの傑作『白銀の城壁』のみ。


「カイル、リン! 私の道を作ってくれ!」

「おうよ! 任せろ!」

「承知いたしました!」


カイルさんが痛む体を押して立ち上がり、大剣に魔力を込めました。

リンさんが影から飛び出し、爆破の魔石を握りしめます。


「こじ開けるぞ! 『熱砂・崩撃』ッ!!」

「『ブラスト・マイン』ッ!!」


カイルさんの炎の斬撃と、リンさんの爆発が、私の周囲で暴れ回る魔力の腕を強引に弾き飛ばしました。

一瞬だけ生まれた、武神像への直線ルート。


「今だッ!!」


エレナさんが踏み込みました。

全力疾走。

ですが、武神像もただではやられません。私を殴っていた腕の一部を戻し、エレナさんに向けて迎撃の拳を放ちました。

正面からのクロスカウンター。


「(避けられない……!)」


いいえ、避ける必要はありません。

エレナさんは走る速度を緩めず、迫りくる拳に対し、スッと全身の魔力を循環させました。


フワッ。


武神の拳が、エレナさんの肩を掠めます。

当たったはずの衝撃が、まるで水のように後ろへと流れていきました。

極限の『対魔パリィ』と『循環パリュス』の融合。

彼女は鎧の表面に展開した魔力で、敵の拳を滑らせたのです。


「届くッ!」


エレナさんは武神の懐に入り込みました。

ゼロ距離。

彼女は腰を落とし、大地を踏みしめ、全身のバネを使って右拳を突き上げました。

握られた拳は、ただの打撃ではありません。

これまでの苦戦、仲間たちの援護、そして自身の騎士としての誇り。

全てを乗せた、一点突破の矛。


「砕け散れェッ!! **『白銀・粉砕撃シルバー・クラッシュ』**ッ!!!」


ズゴオォォォォォォォォンッ!!!


エレナさんのガントレットが、武神像の胸部――黄金の装甲を貫き、その奥にあるコアを直撃しました。

衝撃波が武神の背中から突き抜け、神殿の壁を吹き飛ばします。


「ガ、ア……!?」


武神像の動きが止まりました。

千の腕が空中で霧散していきます。

胸に空いた大穴から、光が漏れ出し――。


パァァァァンッ!!


武神像は全身に亀裂を走らせ、砕け散りました。

黄金の破片が雨のように降り注ぎます。


「……ふぅ」


エレナさんは拳を下ろし、残心しました。

そのガントレットは砕け、拳からは血が流れていましたが、彼女の表情は晴れやかでした。


「勝った……のか?」


カイルさんが呆然と呟きます。

肉塊から元の姿に戻った私が、パチパチと拍手を送りました。


「お見事です、エレナさん。武器を失ってなお、貴女自身が最強の武器でしたね」

「フン。貴様が体よく殴られてくれたおかげだ」


エレナさんは照れくさそうに鼻を鳴らしましたが、すぐに痛そうに拳をさすりました。


「しかし、素手で殴るのも痛いものだな……。それに、見てくれ」


エレナさんが自身の右腕を掲げました。

マダム・ガルドの最高傑作『白銀の城壁』のガントレット部分は粉々に砕け散り、素肌が露出しています。

さらに、カイルさんの大剣も刃こぼれが酷く、私のローブも(再生中ですが)限界です。


「第47階層、突破はしましたが……装備がボロボロですね」

「ああ。この状態で次の階層へ行くのは自殺行為だ。一度戻って、マダムに泣きつくしかねえな」


「残り3階層。……いよいよ、神域の深奥ですが、焦りは禁物ということですね」


リンさんが、武神の残骸からドロップアイテム(黄金の欠片)を回収しながら言いました。


「そうだな。万全の状態で挑んでこそ、最強への敬意だ」


私たちは傷だらけの体で笑い合い、転移魔法陣を使ってヴォルテックスの街へと帰還しました。

塔の頂まで、あとわずか。

最後の戦いに向けて、つかの間の休息です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ