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第66話 竜戦士と聖獣の邂逅、そして星の海へ



第35階層。

黒曜石の神殿には、今日も荘厳な静寂が満ちていました。

玉座に座る守護者、**『雷轟の竜戦士ドラゴニュート・ヴォルト』**は、私たちが足を踏み入れると静かに目を開けました。


「……戻ったか、人間たちよ」


ヴォルトが立ち上がります。

以前のような殺気はありません。そこにあるのは、試練を乗り越えた者に対する静かな敬意。


「またせたな、ヴォルト。約束通り、準備万端で帰ってきたぜ」


カイルさんが大剣を担ぎ、不敵に笑います。

ヴォルトは私たちを一瞥し、そして――私の肩に乗っている白い毛玉に視線を釘付けにしました。


「……ほう」


ヴォルトが玉座を降り、私たちの目の前まで歩み寄ってきました。

3メートルの巨体が、私の目の前で片膝をつき、視線の高さを合わせます。

私に、ではありません。ジュジュにです。


「まさか、聖獣『カーバンクル』を従えて来るとはな」

「キュイッ!(従えてない! 対等な契約!)」


ジュジュが胸を張り、偉そうにふんぞり返りました。

ヴォルトはその態度を咎めるどころか、深く頷きました。


「失礼した。高貴なる獣よ。……その瞳の輝き、只者ではないな。膨大な魔力を内に秘めている」

「キュッキュ〜!(わかるか! お前もなかなか強そうだな!)」


ジュジュがヴォルトの鼻先に手を伸ばし、ペシペシと叩きました。

カイルさんとエレナさんが「おいバカ! 何してんだ!」と青ざめますが、ヴォルトは微動だにしません。


「フッ……。我の雷撃を受けても平然としていられそうな面構えだ」


ヴォルトは満足げに立ち上がりました。


「よい仲間を得たな。聖獣は、資格なき者の側には留まらない。貴様らの魂の色が、それだけ鮮烈だということだ」


どうやら、ジュジュがいるだけで私たちの評価がさらに上がったようです。

聖獣という存在は、それ自体が「勇者の証明書」のようなものなのかもしれません。

(実際は魔力というエサにつられているだけですが、黙っておきましょう)


「行け。第37階層への扉は開かれている」


ヴォルトが道を譲りました。


「この先は、重力や魔力のことわりすら歪む世界だ。……星の彼方に消えぬよう、足元には気をつけることだな」


意味深な忠告を残し、守護者は再び玉座へと戻っていきました。


「ありがとな! 今度こそ塔のてっぺんまで行ってくるぜ!」

「うむ。騎士の誇りにかけて、必ずや踏破の報告を持ち帰ろう」


私たちは一礼し、神殿の奥へと進みました。


   ◇


第36階層『天空庭園』を(ジュジュの砲撃で雑魚を蹴散らしながら)抜け、ついに私たちは未踏の領域、第37階層の扉の前に立ちました。


「ここから先は、未知の世界ですね」

「ああ。ヴォルトの言っていた『星の彼方』ってのが気になるが……」


カイルさんが重い扉を押し開けました。

そこから溢れ出したのは、冷たく乾いた空気と――圧倒的な**「闇」**でした。


「うわっ、暗っ!?」

「いや……見ろ、足元を」


エレナさんの声に、私たちは下を見ました。

そこには地面がありませんでした。

あるのは、無限に広がる宇宙のような空間と、そこに煌めく無数の星々。

私たちは、星空の上に浮かぶ、頼りないクリスタルの足場の上に立っていたのです。


第37階層**『星屑の回廊』**。


「き、綺麗ですけど……これ、落ちたらどこまで行くんでしょう?」

「考えたくもねえよ! 宇宙の果てまでさよならだろ!」


足場は飛び石のように続いており、その先は闇に溶けて見えません。

そして、周囲には重力が希薄なためか、岩の破片や氷の塊がフワフワと漂っています。


「空気が薄いですね。少し動いただけで息切れしそうです」

「ああ、長時間の戦闘は命取りになりそうだ。……おい、何か来るぞ」


カイルさんが鋭く警告しました。

暗闇の奥から、青白い光の尾を引いて接近してくる物体。

一つではありません。数え切れないほどの光が、こちらに向かってきます。


「流れ星……?」


私が呟いた瞬間、その光の一つが足場のクリスタルに着弾しました。


ズドォォォォンッ!!


凄まじい衝撃と爆発。足場が大きく揺れます。

それはロマンチックな流れ星などではなく、高密度の魔力質量弾――**『スター・ボム』**でした。


「敵襲だ! 迎撃しろ!」


闇の中から現れたのは、星の光を宿した半透明の巨人**『スターダスト・ゴーレム』**の群れ。

彼らは自身の体を構成する星屑を、弾丸として射出してきているのです。


「くそっ、遠距離攻撃かよ! ジュジュ、やれるか!?」

「キュッ!(任せろ!)」


私が魔力を供給すると、ジュジュの額が輝きました。

赤き熱線『ルビー・レイ』が闇を切り裂き、ゴーレムの一体を粉砕します。


「よし! いけるぞ!」

「油断しないでください! 敵は全方位にいます!」


リンさんの言う通り、上下左右、360度すべての闇の中から、無数のゴーレムが現れました。

ここは宇宙。地平線などありません。

あらゆる角度から『星の弾丸』が降り注ぐ、全方位包囲網。


「素晴らしい……! まるでプラネタリウムの処刑台ですね!」


私はチョーカーを全開にし、空中に飛び出しました。

無重力に近い空間。

私は泳ぐように移動し、降り注ぐ星屑の弾丸をその身で受け止めました。


ドガガガガガガッ!!


「あぐっ、重い! 一発一発が隕石のようです! 骨が砕ける音が宇宙に響きます!」


私がデコイとなって弾幕を引き受けている間に、カイルさんとエレナさんが突撃します。


「足場がないなら、作ればいい!」


エレナさんが魔力で鎧をブーストさせ、浮遊する岩を蹴って加速しました。

三次元機動による強襲。


「砕け散れ、星屑ども!」


ハルバードと大剣が閃き、ゴーレムたちを破壊していきます。

神域の深層。

そこは、美しくも過酷な、星と死の舞踏会場でした。


「さあ、もっと輝いてください! 私たちの冒険を照らすように!」


私の狂った叫びが、真空の闇に吸い込まれていきました。

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