第65話 聖獣ジュジュの初陣、それは「魔力」という名の献血
「ただいま、ヴォルテックス! ただいま、雷鳴の塔!」
城塞都市ヴォルテックスに戻った私たちは、その足で『雷鳴の塔』へと直行しました。
一ヶ月ぶりの塔。
湿った空気、肌を刺す静電気、そして遠くで響く魔物の咆哮。
ああ、帰ってきたという実感が湧きます。
「……お前、本当に嬉しそうだな」
「ええ。聖都のベッドは柔らかすぎて腰が痛くなりましたから。やはり石畳の上で寝るのが一番です」
カイルさんが呆れる中、私たちは第30階層『中継地点』の転移魔法陣を起動し、一気に中層部へと飛びました。
「さて、ここから再開ですが……」
第31階層『重力迷宮』。
上下左右の感覚が狂う浮遊岩のエリアです。
以前は苦戦しましたが、今の私たちにはリンさんの『影渡りのブーツ(磁力制御付き)』や、カイルさんの『脱力』があります。移動に苦労はしません。
「今回は新戦力のテストも兼ねて、少し手加減して進みましょう」
私は肩に乗っている白い毛玉――聖獣カーバンクルのジュジュを撫でました。
「キュイッ!(任せろ! 腹減った!)」
「はいはい。敵を見つけたらご飯ですよ」
すると、岩陰からエイ型の魔物『スカイ・レイ』の群れが現れました。
以前は重力魔法に翻弄された相手です。
「数は10体。手頃な相手だ」
「ジュジュ、行けますか?」
「キュッ!」
ジュジュが私の肩から飛び上がり、空中に静止しました。
そして、私の方を向き、期待に満ちた目で口を開けます。
「キュイッ!(ご飯(魔力)をください!)」
「どうぞ。遠慮なく」
私は指先をジュジュの口元へ差し出しました。
ガブッ!!
鋭い牙が食い込みます。
「んっ……! ああ、いい吸引力です……!」
ジュジュがストローでジュースを吸うように、私の体から魔力をゴクゴクと飲み干していきます。
全身の魔力回路が逆流し、魂ご吸い出されるような脱力感と喪失感。
貧血に似ていますが、もっと直接的で、甘美な目眩。
「(血管の中を何かが走り抜けていく感覚……ゾクゾクします!)」
私が恍惚としている間に、ジュジュの額にある宝石が赤く輝き始めました。
魔力充填率120%。
私の膨大な魔力(タンク仕様)を吸ったジュジュは、今や小型の戦略兵器と化していました。
「キュイイイイイイッ!!」
ジュジュが敵の群れに向き直り、額から極太の熱線を放ちました。
『ルビー・レイ』。
ズドオォォォォォォンッ!!!
赤い閃光が一直線に走り、スカイ・レイの群れを飲み込みました。
爆音と共に、空中に巨大な火球が発生します。
10体の魔物は、悲鳴を上げる間もなく蒸発しました。
「……は?」
カイルさんとエレナさんが口をあんぐりと開けています。
「おい……今の一撃、俺の『メテオ・バスター』並みじゃなかったか?」
「詠唱なしでこの威力か……! さすがは聖獣!」
凄まじい火力です。
通常、カーバンクルはここまで高出力の魔法を連発できません。魔力が尽きてしまうからです。
ですが、私という「無尽蔵の燃料タンク」がある限り、ジュジュは撃ち放題。
「キュッ! キュ~♡(美味かった! もっと撃つ!)」
ジュジュが私の肩に戻り、頬ずりをしてきます。
可愛いです。魔力を吸われる感覚も最高ですし、敵も倒せる。一石三鳥ですね。
「……なぁルシアン。それ、痛くないのか?」
「痛みというより、精気を吸われる気だるさですね。献血の後のような、ふわふわとした心地よさです」
「お前、そのうち干からびるぞ……」
カイルさんが心配そうですが、問題ありません。
私の『自己再生』は、肉体だけでなく魔力の回復速度も異常ですから。
「次は第32階層『深緑の密林』ですね。リンさん、お願いします」
「はい。先行します」
リンさんが『影渡りのブーツ』を発動させ、天井(逆さまの岩場)に張り付きながら音もなく先行します。
マダムの新装備のおかげで、彼女の機動力はさらに向上していました。
「カイル、私たちも遅れるな」
「おう! 俺の剣も唸ってるぜ!」
カイルさんとエレナさんも、一ヶ月のブランクを感じさせない動きで続きます。
前衛に攻守の要であるカイルさんとエレナさん。
遊撃に神出鬼没のリンさん。
そして、前衛よりもさらに前に飛び出し、敵の攻撃を一心に受けながら肩のジュジュが魔法を乱射する、私という名の最前線移動要塞。
「(完璧です……。以前より隙がありません)」
私たちは破竹の勢いで階層を突破していきました。
かつて苦戦した魔物たちが、まるで紙屑のように散っていきます。
「この調子なら、第35階層まではハイキング気分で行けそうですね」
「フラグを立てるな! ……まあ、今の俺たちなら神域でも通用するはずだ」
私たちは確かな手応えを感じながら、塔の上層部、神域への階段を駆け上がっていきました。
目指すは未踏の第37階層。
そこで待ち受ける新たな試練も、今の『ブレイク・スルー』ならきっと――。
(もっと酷い目に遭わせてくれるはずです!)
私は期待に胸(と被弾した傷)を膨らませ、歩みを進めました。




