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第61話 教皇聖下との謁見、そして最強の「軟禁」生活



北の国境での防衛戦から数日後。

私たち『ブレイク・スルー』は、セバスチャンさんの案内で、聖教国の首都**『聖都セント・アーク』**を訪れていました。


「うわぁ……。すげぇ街だな」

「ここが大陸の信仰の中心か。空気が張り詰めている」


カイルさんとエレナさんが、馬車の窓から見える白亜の街並みに圧倒されています。

巨大な大聖堂を中心に広がるこの都市は、清浄な結界に守られ、塵一つ落ちていないほど整備されています。


「綺麗すぎて落ち着きませんね。ドブネズミの一匹でもいれば安心するのですが」

「お前の感性が一番不安だよ」


私たちは大聖堂の奥深く、一般人は立ち入り禁止の『教皇の間』へと通されました。

重厚な扉が開くと、そこには荘厳な空間が広がっていました。

高い天井、ステンドグラスから降り注ぐ光。

そして、祭壇の最奥に置かれた玉座に、その人物は座っていました。


この国の宗教的頂点にして、私の実の父。

教皇グレゴリウス・セイント。


「……面を上げよ」


重低音の声が響きました。

私たちは一斉に顔を上げました。

父さんは、長い白髪と髭を蓄え、豪華な法衣に身を包んでいましたが、その体躯は老いを感じさせないほど頑強でした。

目は鋭く、覗き込むだけで心を射抜くような威圧感。


「久しいな、愚息よ。……生きていたか」

「はい、お父様。残念ながら、まだ死ぬほどの快楽には出会えておりません」


私が答えると、父さんはフンと鼻を鳴らしました。


「報告は聞いている。国境要塞での防衛戦……3万の軍勢を相手に、貴様が『的』となって勝利へ導いたとな」

「はい! 素晴らしい体験でした。数万の殺意を一身に浴びるあのアゾル……いえ、高揚感。聖職者として、人々の盾になれたことを誇りに思います」


私がうっとりと語ると、隣でカイルさんとエレナさんが「(こいつ、教皇の前でもブレないな……)」と冷や汗を流しています。


「ふむ」


父さんは玉座から立ち上がり、ゆっくりと階段を降りてきました。

そして、私の目の前に立ち、ジロジロと私の体を見回しました。


「……で、その格好は何だ?」

「え?」

「スライムの服に、魔物寄せの首輪だと? 聖教国の品位を疑われるわ!」


ゴチンッ!!


父さんの杖が、私の脳天に振り下ろされました。

いい音。そして脳髄に響く鋭い痛み。


「あぐっ……! さ、さすがはお父様! 急所の打ち方を心得ていらっしゃる!」

「戯け者が。……だが、よくやった」


父さんの手が、私の頭にポンと置かれました。

不器用で、重たい手。


「貴様のやり方は狂っているが、結果として多くの民が救われた。……褒めて遣わす」

「あ、ありがとうございます……」


少し照れくさいです。

父さんは厳格ですが、結果を出せば認めてくれる人なのです。


「さて、カイル、エレナ・ガードナー、そしてリンと言ったか」


父さんが仲間たちに向き直りました。

三人は直立不動で敬礼します。


「愚息が世話になっているな。特にカイルよ、貴様がアリス(聖女)に一目惚れした命知らずか?」

「は、はいッ! 命に代えても彼女を幸せにしたいと思っております!」

「……フン。娘に近づく羽虫は全て消してきたが、貴様のような『石頭』は初めてだ。せいぜい精進せよ」


父さんはカイルさんを睨みつけましたが、処刑命令は出しませんでした。

どうやら、彼らのことも(一応は)認めてくれたようです。


「これで報告は終わりですね。では、私たちはこれにて……」


私がそそくさと帰ろうとすると、セバスチャンさんが扉の前に立ちはだかりました。


「お待ちください、ルシアン様」

「へ?」

「教皇聖下より、**『褒美』**がございます」


父さんがニヤリと笑いました。

嫌な予感がします。この笑顔は、私が幼い頃に「修行」と称して猛獣の檻に放り込んだ時と同じ顔です。


「今回の功績により、貴様らは『救国の英雄』として祭り上げられることとなった」

「えっ」

「よって、来月行われる**『戦勝記念式典』および『聖誕祭』**の主役として、パレードに参加してもらう」


パレード。

式典。

つまり……。


「それまでの約一ヶ月間、貴様らはこの聖都に滞在し、式典の準備とリハーサル、そして貴族たちへの挨拶回りを義務付ける」

「な、なんですって!?」


私は叫びました。


「一ヶ月も!? 困ります! 私たちは早く『雷鳴の塔』に戻らなければならないのです!」

「ならん。これは決定事項だ」


父さんは杖を床に突き立てました。


「逃亡は許さん。聖都の結界を最大出力で展開し、さらに王宮騎士団と聖教騎士団の精鋭を警護(監視)につける。……アリスも、貴様が帰ってきたと聞いて張り切っておるぞ」


「姉さんが……!?」


終わりました。

姉さんが絡んでくるということは、この聖都は要塞プリズンと化します。

脱出不可能。

しかも、毎日「安全で健全な生活」を強制される日々。


「そ、そんな……! 私は冒険がしたいんです! 痛い目に遭いたいんです!」

「諦めろ。たまには『平穏』という名の猛毒を味わうのも修行だ」


父さんは残酷に宣告しました。


「カイル、エレナ、リン。貴様らには特別室を用意した。最高級のベッドと食事、そして何もしなくていい贅沢な時間を与えよう」

「えっ、マジっすか!? やったー!」

「ふむ……。たまには休息も悪くないな」

「エレナ様とお泊まり……♡」


仲間たちが喜んでしまっています。

裏切り者たちめ!


こうして。

私たちは国賓待遇という名の**「最強の軟禁生活」**を送ることになりました。

塔の攻略は一時凍結。

待ち受けるのは、魔物よりも恐ろしい「退屈」と「姉の愛」、そして逃げ場のない「平和な日常」でした。


「(……出たい。今すぐ塔に帰って、雷に打たれたい……!)」


私の切実な願いは、聖都の鐘の音にかき消されていきました。

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