第60話 たった4人の援軍が、3万の軍勢を蹂躙する理不尽
「ひるむな! 撃て! あの変態を撃ち落とせ!」
帝国軍の指揮官が声を枯らして叫んでいました。
城壁の上に立ち、矢の雨を全身で受け止めながら笑い続ける男――私、ルシアン・セイントに対し、彼らは恐怖と殺意を集中させています。
「素晴らしい……! 3万人分の殺意、肌が粟立つほど濃厚です!」
私は全身から血を流し、そして光を放ち続けていました。
『被虐の聖域』。
私が傷つけば傷つくほど、その苦痛が魔力となり、癒やしの光となって味方に降り注ぐ。
要塞を守る8千の兵士たちは、今や「不死身の軍団」と化していました。
斬られても即座に塞がり、疲労は吹き飛び、力は倍増する。
私の痛みが、彼らの燃料となっているのです。
「行けぇぇぇッ! ルシアン様が俺たちを守ってくれている!」
「痛みなど恐れるな! あの御方に比べればかすり傷だ!」
兵士たちが狂信的な叫びを上げ、城門から打って出ました。
本来なら自殺行為です。
ですが、今の彼らには「死」という概念がありません。
「ば、馬鹿な……! ゾンビか奴らは!?」
帝国兵が恐れおののきます。
そこへ、私たちの仲間が突っ込みました。
「道を開けろォッ!!」
先陣を切ったのは、白銀の戦車ことエレナさんです。
『白銀の城壁・改』の重量と、私のバフによる筋力強化、さらに自身の魔力循環を乗せた突進。
それはもはや、人の形をした砲弾でした。
ドガァァァンッ!!
盾を構えたエレナさんがぶつかるだけで、帝国兵の重装歩兵たちがボウリングのピンのように吹き飛びます。
槍で突こうが剣で斬ろうが、アダマンタイトの装甲と『対魔パリィ』の前には無意味。
「私の背中には、最強の『盾』がいる! ならば私は、最強の『矛』となって突き進むのみ!」
エレナさんがハルバードを一閃させると、数十人の兵士がまとめて薙ぎ払われました。
彼女が切り開いた道を、カイルさんが駆け抜けます。
「密集してくれてありがとな! まとめて消し飛びやがれ!」
カイルさんが跳躍し、大剣『紅蓮のイグニス』を振りかぶりました。
戦場という広大な空間。
チャージを邪魔する障害物は何もありません。
「『流星・落牙』ッ!!」
赤い彗星が敵陣の中央に落下しました。
重力と熱線による広範囲攻撃。
着弾点を中心に巨大なクレーターが生まれ、数百人の兵士が一度に蒸発しました。
「ひぃぃッ!? なんだあの威力は!?」
「魔法使い部隊、迎撃しろ!」
敵の後方から、魔法部隊がカイルさんを狙って詠唱を始めます。
ですが、その詠唱が完了することはありませんでした。
「……隙だらけです」
影が走りました。
リンさんです。
彼女は乱戦の騒音と砂煙に紛れ、誰にも認識されることなく敵陣深くまで浸透していました。
『虚無』の隠密。
彼女が通り過ぎた後には、喉を掻き切られた魔術師たちが、声もなく倒れていくだけ。
「指揮官はどこですか? エレナ様の勝利宣言のために、静かにしていただきます」
リンさんは踊るように指揮官クラスを暗殺して回ります。
指揮系統の寸断。
前線はエレナさんに崩され、中核はカイルさんに吹き飛ばされ、後方はリンさんに攪乱される。
そして、唯一の希望である「敵の司令塔の撃破」も、私の異常な耐久力の前に絶望へと変わっていました。
「し、死なない……! なんで死なないんだあいつは!」
「矢が尽きるぞ!?」
帝国兵たちの心が折れる音が聞こえました。
3万の大軍勢が、たった4人(と彼らに強化された守備隊)によって、蹂躙されているのです。
「ふふっ。どうしました? 攻撃の手が緩んでいますよ!」
私は城壁の上で、自身に刺さった槍を引き抜きながら叫びました。
「もっと激しく! もっと情熱的に! 貴方たちの全力を私にぶつけてください! そうでなければ、この『救済』は止まりませんよ!!」
私の狂った挑発に、帝国軍の士気は完全に崩壊しました。
勝てない。
殺しても死なない。
そして、自分たちが攻撃すればするほど、敵が元気になっていく理不尽。
「て、撤退だーッ!!」
「化け物だ! ここには魔王がいるぞ!」
一人が武器を捨てて逃げ出すと、それは雪崩のように広がりました。
3万の軍勢が、我先にと背を向けて逃走を始めます。
「おや? もう終わりですか? まだ私の体は半分も壊れていませんが」
私は残念そうに呟きましたが、横にいた守備隊長が震える声で言いました。
「か、勝った……。本当に、勝ってしまった……」
要塞全体に、勝利の歓声(と私への畏怖の叫び)が響き渡りました。
『鉄壁の牙』防衛戦、勝利。
それは後に、帝国軍の歴史において「最も理不尽な敗北」として語り継がれることになる戦いでした。
「おーい、ルシアン! 生きてるかー?」
戦場から戻ってきたカイルさんが、血と煤にまみれた笑顔で手を振りました。
エレナさんも、リンさんも無事です。
「ええ、ピンピンしていますよ。……ただ、少し『痛み』足りませんが」
「お前は一生満足すんな」
私たちは笑い合いました。
戦争という最大級のイベントすらも、私たち『ブレイク・スルー』にとっては、ただの通過点に過ぎなかったようです。
さあ、邪魔者は排除しました。
教皇庁への報告を済ませたら、いよいよ本来の目的――『雷鳴の塔』攻略の再開です。




