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第58話 雷鳴の街との一時休戦、そして戦場への行軍



「……行くのか」


魔導具工房の前。

マダム・ガルドが腕組みをして、私たちを見送ってくれました。

その足元には、工具で汚れたミントさんが「行っちゃうの?」と寂しそうにしています。


「ええ。実家(教皇庁)からの呼び出しですので、無視すると国ごと消されかねません」

「アンタの実家、どうなってんのよ……」


マダムは呆れつつも、一つの包みをリンさんに手渡しました。


「ほら、約束のブツよ。アンタたちが戻ってくるまでに仕上げるつもりだったけど、徹夜で間に合わせたわ」


包みの中に入っていたのは、黒く艶やかなブーツでした。

ベヒーモスの磁力結晶を加工し、重力制御の術式を組み込んだアサシン専用装備。

『影渡りのブーツ(シャドウ・ウォーカー)』。


「ありがとうございます、マダム……! これでエレナ様を頭上からもお守りできます!」

「使い方はアンタ次第よ。……死ぬんじゃないわよ」


マダムはぶっきらぼうに言いましたが、その目には心配の色が滲んでいました。

私たちは深く頭を下げました。


「必ず戻ってきます。貴女の夢(雷神の心臓)を叶えるために」

「待ってるわよ。……せいぜい派手に暴れてきなさい!」


   ◇


次は、定食屋『ベルタ』。

開店前の店先で、ベルタ婆さんが煙管をふかしていました。


「師匠! 行ってきます!」


カイルさんが元気よく声をかけます。

婆さんは紫煙を吐き出し、興味なさそうに手を振りました。


「おう。肉の焼き加減を忘れるんじゃないよ」

「剣の腕だろ! ……へへっ、任せとけ。戦場でナマクラになるつもりはねえよ」


カイルさんは背中の大剣を叩きました。

ベルタ婆さんはニヤリと笑い、懐から干し肉の包みを投げ渡しました。


「餞別だ。腹が減っては戦はできねぇからな」

「ありがとよ、婆さん! また美味い肉食わせに来るぜ!」


不器用な師弟の別れ。

言葉は少なくても、そこには確かな絆がありました。


   ◇


最後に、魔術師団の本部。

ヴォルグ団長は、いつもの執務室で窓の外を眺めていました。


「……戦争か。くだらん」


団長は吐き捨てるように言いました。


「人間同士の領土争いなど、魔法の探求に比べれば塵ごとき価値もない。だが、降りかかる火の粉というなら話は別だ」


団長が振り返り、私たちを見据えました。


「貴様らがいない間、塔の管理は私が続ける。誰にも荒らさせん」

「ありがとうございます。……戻ったら、また雷撃の味見をさせてくださいね」

「二度と来るなと言いたいところだが……フン」


団長は口元を緩めました。


「貴様らの席(挑戦権)は空けておく。帝国の兵士ごときに後れを取るなよ」

「了解です! 団長の雷に比べれば、人間の魔法など静電気みたいなものですから!」


   ◇


ヴォルテックスの大門。

私たちは、見送りに来てくれたギルドのゲイルさんや職員たちに手を振り、雷鳴轟く街を後にしました。


「いい街だったな」

「うむ。最初は門前払いされたが、気づけば多くの師と友を得た」


カイルさんとエレナさんが感慨深げに振り返ります。

この街での特訓と冒険は、私たちを大きく成長させてくれました。

Cランクへの昇格、新装備、そして信頼できる仲間たち。


「さあ、行きましょう。感傷に浸っている暇はありません」


私は北の空を見上げました。

そこには、雷雲とは違う、どす黒い戦雲が立ち込めていました。


「待っていてください、帝国軍の皆さん。私の体が、貴方たちの殺意を歓迎しますよ」

「お前のそのセリフだけは、いつ聞いても鳥肌が立つな……」


私たちは馬車を使わず、自分たちの足で駆け出しました。

その方が速いからです。

目指すは北の国境要塞。

敵は5万(情報修正で3万)。味方は8千。

絶望的な戦力差を覆すため、異色のパーティ『ブレイク・スルー』が戦場へと介入します。


「急ぐぞ! 遅れたら美味しいところ(被弾)が減ってしまう!」

「だから言い方!」


私たちの新たな戦いが、幕を開けました。

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