第6話 「危険な護衛依頼」だなんて、ワクワクが止まりませんね
「Dランク、ですか」
冒険者ギルドのカウンター。
更新されたばかりのギルドカードを受け取り、私は少し残念そうに呟きました。
本来、駆け出しの冒険者はFランクからスタートします。
しかし、私たちは初陣で『ミスリル・ゴーレム』を討伐するという実績を上げたため、飛び級でDランクに認定されました。
「なんだよルシアン、不満か? 異例の大出世だぜ?」
カイルさんは銀色に光るDランクのプレートを嬉しそうに磨いています。
「いえ。ただ、ギルドマスターの話では『ミスリル・ゴーレムは物理耐性こそ高いが、動きは遅い。Cランク以上のパーティなら対処法を知っていれば楽勝』とのことでしたので」
「うっ……。ま、まあな」
カイルさんの手が止まりました。
そうです。あのゴーレムは、あくまで「初心者殺し」の番人。
世界基準で見れば、中級者が準備運動で倒す程度の相手なのです。
「Sランクへの道のりは、果てしなく遠いですね」
「……言うな。わかってるよ」
カイルさんは遠い目をしました。
Sランクになるには、国家規模の災害級モンスターを単独パーティで狩る実力が必要です。
今の私たちでは、姉さん(聖女)の足元にも及びません。
「それに、この街周辺のめぼしい魔物は狩り尽くしてしまいました」
私はギルドの掲示板を見上げました。
並んでいるのは『薬草採取』や『下水道のネズミ退治』ばかり。
そんな生ぬるい依頼では、私の体は満たされません(カイルさんのランク上げにもなりません)。
「次の街へ行くしかないな」
「ええ。もっと凶悪で、残虐で、理不尽な暴力が支配する土地へ行きましょう」
「言い方! ……まあ、王都方面に向かうのがセオリーだな」
私たちが地図を広げ、旅立ちの相談をしていた、その時でした。
「おや、そこのお若いお二人。少々お耳を拝借しても?」
声をかけてきたのは、恰幅の良い中年の男性でした。
上質な服を着ていますが、その表情には焦りと疲労が滲んでいます。
商人でしょうか。
「私は行商人のマルクと申します。……失礼ですが、先日ミスリル・ゴーレムを討伐されたというのは、貴方たちですかな?」
「ええ、そうですけど」
カイルさんが答えると、マルクさんはパァッと顔を輝かせ、私たちの手を握りしめました。
「おお! やはり! 実は折り入ってお願いがあるのです!」
「お願い?」
「私の護衛をお願いしたいのです! 次の街『交易都市ベルン』まで、荷馬車を守っていただきたい!」
護衛依頼。
冒険者の基本的な仕事の一つです。
しかし、私は首を傾げました。
「ベルンまでの街道なら、定期馬車も通る安全なルートでは? わざわざ私たちのような『戦闘狂(とロマン砲)』を雇わなくても……」
「それが、違うのです!」
マルクさんは声を潜め、震える声で言いました。
「実は……急ぎの商談がありまして、通常の街道ではなく、**『死神峠』**を通る近道を行きたいのです」
――死神峠。
その物騒な名前に、私の耳がピクリと反応しました。
「そこは切り立った崖道で、盗賊団も避けて通るほどの**『ワイバーン(飛竜)』**の巣窟なのです」
「ワイバーン……!」
カイルさんが息を呑みました。
空を飛び、鋭い爪と牙で獲物をさらう空のハンター。
Dランク冒険者が相手にするには荷が重すぎる相手です。
「他の冒険者には断られ続けていましてな……。ですが、ゴーレムを倒した貴方たちなら、あるいはと思いまして」
マルクさんはチラリと、カイルさんの背負う大剣と、私の(無傷の)体を見ました。
「報酬は弾みます! 通常の3倍……いや、5倍出しましょう! どうか、私の命と商品をベルンまで届けてはいただけませんか!」
カイルさんが悩みます。
金払いはいい。だが、相手は飛竜。空からの攻撃には、カイルさんのチャージ攻撃は相性が悪い(当てにくい)のです。
「どうするルシアン? 正直、今の俺たちじゃ空中の敵はキツイぞ。逃げ場のない崖道だしな」
カイルさんは常識的な判断で断ろうとしました。
しかし。
「受けましょう」
私は即答しました。
食い気味に。
「は?」
「ワイバーンですよ、カイルさん! 空から急降下して、人間を鷲掴みにして上空100メートルから落とすという、あのワイバーンです!」
私はマルクさんの手を両手で包み込み、キラキラした瞳で見つめました。
「素晴らしい依頼です、マルクさん! その『死神峠』、ぜひ通りましょう! なんなら私が囮になって、巣ごと刺激して差し上げます!」
「い、いえ、囮までは……守ってくだされば結構ですので……」
マルクさんが若干引いていますが、気にしません。
上空からの落下ダメージ。
全身の骨が砕ける衝撃と、内臓が浮き上がる浮遊感。
想像しただけで、ご飯が3杯はいけます。
「おい待てルシアン! 俺のチャージじゃ飛んでる敵には……」
「大丈夫です。私が空中で捕まっている間に、貴方が狙い撃てばいいのです」
「お前が捕まる前提かよ!?」
「当たり前です。餌(私)がなければ魚は釣れません」
私はカイルさんにウインクしました。
Dランクだからといって、安全な道を行く必要はありません。
むしろ、身の丈に合わない危険に飛び込んでこそ、Sランクへの近道(と私の快楽)があるのです。
「はぁ……。わかったよ。お前がそこまで言うなら」
カイルさんは諦めたように溜息をつき、マルクさんに向き直りました。
「引き受けます。あんたの命と荷物、俺たちが必ず守り抜いてみせる」
「おお! ありがとうございます! 恩に着ます!」
こうして、私たちは次の街への旅立ちを決めました。
行き先は『死神峠』。
空の支配者が待ち受ける、素敵なデスマーチの始まりです。




