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第45話 雷帝の激励と、副団長の大人げない嫉妬



第30階層『中継地点』の転移魔法陣を使い、私たちは一時的に城塞都市ヴォルテックスへと帰還しました。

目的は休息と、物資の補給。

そして何より、ここまでの成果を報告するためです。


「……ほう。ストーム・キマイラを討伐したか」


魔術師団の本部。

執務室のデスクで報告書に目を通していた『雷帝』ヴォルグ団長が、感心したように顔を上げました。


「あやつは中層の番人だ。並のCランクパーティでは全滅もあり得る相手だが……まさか初見で突破するとはな」

「へへっ、俺たちも成長してるってことですよ」


カイルさんが鼻の下をこすります。

ヴォルグ団長はフンと鼻を鳴らしましたが、その表情は以前のような冷たいものではありませんでした。


「悪くない。お前たちのその『出鱈目な強さ』は、あるいは本当に塔の深淵に届くかもしれん」


団長が立ち上がり、私の肩に手を置きました。

バチッ、と静電気が走ります。


「期待しているぞ。私の雷に耐え、私の試練を超えた者たちよ。……死ぬなよ」

「はい! 団長の雷より痛い攻撃が来るまでは、死んでも死にきれません!」

「……相変わらずだな、貴様は」


団長は呆れつつも、口元を緩めました。

雷帝からの激励。

それは私たちにとって、何よりの勲章でした。


ですが、その光景を面白く思わない人物がいました。


「――お待ちください、団長」


執務室のドアが開き、神経質そうな男が入ってきました。

細身の体に、仕立ての良い魔術師のローブ。

眼鏡の奥の目は、私たちを品定めするように細められています。


「副団長のゼロスだ。……団長、いくらなんでも彼らを買いかぶりすぎではありませんか?」


ゼロス副団長は、私たちを蔑むように見下ろしました。


「たかがCランクに上がりたての新人たちです。キマイラ討伐といっても、どうせまぐれか、卑怯な手を使ったに違いない」

「ゼロス。彼らの実力は私が保証する」

「団長の目は確かですが、彼らは……品がない」


ゼロス副団長は、私のチョーカーや、カイルさんの骨の棍棒(予備武器)を指差しました。


「魔術師団の神聖な塔を、このような無法者たちに任せておくのは我々の沽券に関わります。ここは一つ、彼らの実力が本物かどうか、私が確かめさせていただきたい」

「……どうするつもりだ?」

「模擬戦です」


ゼロス副団長は、歪んだ笑みを浮かべて宣言しました。


「私が率いる**『精鋭魔導小隊』**と、彼ら『ブレイク・スルー』。どちらが強いか、演習場で勝負といきましょう。もし彼らが負けたら、塔への立ち入り許可を取り消していただきます」


「おいおい、喧嘩売ってんのか?」


カイルさんが眉をひそめます。

エレナさんも不快そうに腕を組みました。


「我々は既に実績を示したはずだ。今さら試験など……」

「逃げるのですか? やはり、実力がないと認めるのですね?」


安い挑発です。

ですが、こういう挑発に一番乗りやすいのが、私たちのパーティです。


「いいでしょう、受けますよ」


私が一歩前に出ると、ゼロス副団長は「かかった」という顔をしました。


「ルシアン様、よろしいのですか?」

「ええ、リンさん。売られた喧嘩は、利子をつけて買うのが商売の基本……マルクさんの教えですから」


私がドヤ顔で言い切ると、横からカイルさんが即座にツッコミを入れました。


「お前、いつから商人になったんだよ! しかもマルクさんはそんな物騒なこと言ってねえだろ!」

「(おかしいですね、商人の本質を突いたつもりなのですが)」


私はニッコリと笑い、ゼロス副団長を見据えました。


「ただし、ただの模擬戦ではつまらないですね。もし私たちが勝ったら、魔術師団の倉庫にある『最高級のポーション』と『魔石』を、好きなだけ頂戴します」

「……ふん、いいだろう。どうせ負けるのだからな」


交渉成立。

ヴォルグ団長は、やれやれと溜息をつきながらも、止めることはしませんでした。


「好きにしろ。ただし、演習場を壊すなよ」


   ◇


場所を移して、魔術師団の演習場。

以前、私が雷撃の雨を浴びて喜んでいた場所です。


対面に陣取るのは、ゼロス副団長と、彼が選抜した5人の魔術師たち。

全員が統一された装備と杖を持ち、整然と隊列を組んでいます。

対する私たちは、装備もバラバラ、立ち位置も適当な4人組。


「見せてやるぞ、組織の力を! 連携魔法『サンダー・ジェイル(雷の牢獄)』展開!」


ゼロス副団長の号令と共に、5人の魔術師が一斉に詠唱を開始しました。

個人の力ではなく、集団で一つの巨大な魔法を構築する儀式魔法。

空に巨大な魔法陣が展開され、逃げ場のない雷の檻が形成されていきます。


「へぇ……。綺麗に揃っていますね」

「感心してる場合か! 囲まれるぞ!」


カイルさんが大剣を構えますが、相手は空中に結界を張っており、物理攻撃が届きにくい位置にいます。


「ふははは! 我々魔術師団の連携は鉄壁だ! 貴様らのような野良冒険者に破れる道理はない!」


ゼロス副団長が高笑いします。

確かに、教科書通りの完璧な布陣。隙がありません。

常識的な相手なら、手詰まりでしょう。


ですが。


「リンさん。あれ、崩せますか?」

「造作もありません」


私の問いに、リンさんは無表情で答えました。

彼女の手には、いつの間にか『磁界撹乱手榴弾マグネ・ジャマー』の改造版――**『魔力撹乱マナ・ジャマーくん』**が握られていました。


「教科書通りということは、予測可能ということです」


リンさんが投擲しました。

ジャマーは放物線を描き、展開中の魔法陣の中心へと吸い込まれます。


「なっ、なんだそれは!?」

「プレゼントです」


カッ……! キィィィン!!


嫌な高周波音と共に、構築されかけていた魔法陣が歪み、ノイズが走りました。

魔力回路の強制遮断。

儀式魔法はバランスを崩し、行き場を失った魔力が逆流します。


「うわあああっ!?」

「制御不能!?」


部下の魔術師たちが杖を取り落とし、慌てふためきます。

鉄壁の連携が、たった一つのアイテムで崩壊しました。


「今です! エレナさん、カイルさん!」

「行くぞッ!」


エレナさんが魔力を込めた脚で地面を砕き、一気に距離を詰めました。

混乱する魔術師たちの懐に飛び込み、盾で吹き飛ばします。


「陣形崩壊! カイル、本命(副団長)はお前にやる!」

「サンキュー!」


カイルさんが跳躍しました。

ゼロス副団長は、まだ状況が飲み込めていない様子で呆然としています。


「ば、馬鹿な……! 魔術師団の連携が……!」

「連携ってのはな、ただ揃えることじゃねえ! 互いの背中を預け合うことだ!」


カイルさんの大剣が、ゼロス副団長の目の前に振り下ろされました。

寸止め。

風圧だけで副団長の眼鏡が吹き飛び、彼は腰を抜かしてへたり込みました。


「ひぃっ……!」

「勝負あり、ですね」


私が歩み寄ると、観戦していたヴォルグ団長が腹を抱えて笑い出しました。


「わはははは! 傑作だ! ゼロス、お前の負けだ!」

「そ、そんな……」


ゼロス副団長は、プライドも自信も粉々に砕かれ、地面に突っ伏しました。

私たちは約束通り、倉庫から高級ポーションと魔石をたっぷりと戦利品としていただきました。


「またいつでも挑戦待ってますよ、副団長!」

「二度と来るなぁぁぁッ!」


捨て台詞を残して逃げ去る副団長。

これもまた、私たちにとっては良い「息抜き」になりました。


さあ、補給も完了。邪魔者も排除。

次はいよいよ、塔の後半戦です。

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