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第4話 その一撃を、私にください

轟音と共に、ミスリル・ゴーレムの上半身が蒸発しました。 残った下半身が、ズズン……と重い音を立てて崩れ落ちます。

圧倒的な破壊力。 誰も傷つけられなかった最強の硬度を、一撃で無に帰す火力。 洞窟内には、金属が焼け焦げた独特の臭いと、熱気が充満していました。



「はぁ……はぁ……どうだ、ルシアン! これが俺の『メテオ・バスター』だ!」



力を使い果たしたカイルさんが、大剣を杖代わりにして立ち、誇らしげに親指を立てて笑いました。 私は、破れた法衣ローブから覗く、再生したばかりの無傷の肌を撫でながら、震える声で答えます。



「……素晴らしいです。芸術的アートですね」


「だろ? これなら、どんな敵だってイチコロだ」


「ええ。あの硬い装甲が、まるでバターのように溶けて……」



私は想像しました。 あの熱線が、私の体を貫く瞬間を。

全身の細胞が一瞬で炭化し、消滅しようとする力。 それを私の『超速自己再生』が必死に巻き戻そうとする治癒の力。 破壊と再生がコンマ一秒でせめぎ合う、究極の拮抗状態。 そこから生じる脳内麻薬の量は、きっと致死量を超えるでしょう。

想像しただけで、膝が震えてしまいます。



「カイルさん」


「ん?」



私はふらりと歩み寄り、カイルさんの手を両手で包み込みました。 できる限り丁寧に、誠心誠意、心を込めてお願いしなければなりません。 これは、私の一生に関わる願いなのですから。



「今の攻撃、次は私にお願いできますか?」


「…………はい?」



カイルさんの笑顔が凍りつきました。



「えっと……ごめん、よく聞こえなかった。今なんて?」


「ですから、貴方のその『メテオ・バスター』を、私に向けて撃ってほしいのです」


「なんでだよ!!」



カイルさんが私の手を振り払って後ずさりしました。



「お前、頭の傷が治りきってねえのか!? 死ぬぞ!?」


「死にません。直前で再生すればいいのです」


「そういう問題じゃねえよ! なんで味方を消し飛ばさなきゃなんねえんだよ!」


「手加減は無用です。私の再生能力と、貴方の破壊力。どちらが勝つか……いえ、私がどれほどの『快楽』に耐えうるか、試してみたいのです!」



私は一歩踏み出しました。 カイルさんは二歩下がりました。



「貴方の火力は素晴らしい。世界一です。その火力を、ただモンスターに向けるだけなんて勿体ないと思いませんか? 私なら、その威力を全身全霊で受け止め、感想を語ることができます!」


「いらねえよそんな感想!!」


「お願いします! 一発でいいんです! 骨まで焼かれる感覚を、一度味わってみたいんです!」


「来るな! 寄るな変態!!」



カイルさんは涙目で大剣を構え……ようとしましたが、魔力切れで持ち上がらず、そのまま背を向けて脱兎のごとく逃げ出しました。



「うわあああ! 助けてくれえええ!」


「あ、待ってくださいカイルさん! まだドロップアイテムを拾っていませんよ!」



私はゴーレムの残骸から、キラキラと輝く『ミスリルの核』を拾い上げ、愛しい相棒の背中を追いかけました。



   ◇



その後。 私たちは街の冒険者ギルドへ戻りました。



「……え? ミスリル・ゴーレムを討伐した?」



受付嬢のお姉さんが、私たちが提出した『核』を見て、目を丸くしています。 酒場にいた他の冒険者たちも、ざわつき始めました。



「おい、あれってダンジョンの主だろ? あんな新人コンビが倒したのか?」


「あの『ロマン砲』が当たったのか……?」


「いや、それより見ろよ。あの『特攻聖人』……無傷だぞ」



周囲の視線が私たちに集まります。 カイルさんは少し誇らしげですが、私を見る目には若干の恐怖(と諦め)が混じっていました。



「おめでとうございます! これほどの功績なら、お二人のパーティランクを一気に昇格させることができますよ!」



受付嬢が新しいパーティ登録用紙を取り出しました。 そこにサインをすれば、私たちは正式な固定パーティとして認められます。



「カイルさん」



私はペンを取り、隣のカイルさんに微笑みかけました。



「最高の初陣でしたね。これからも、私の『盾』としての体と、貴方の『矛』としての火力で、もっと深い階層へ行きましょう」


「……はぁ」



カイルさんは深いため息をつきました。 ですが、彼はペンを取り、サインを拒否しませんでした。 彼も分かっているのです。 自分の長すぎるチャージ時間を稼げるのは、世界で私しかいないということを。



「……条件がある」



カイルさんはボソッと言いました。



「なんでしょうか?」


「俺に向けて『撃ってくれ』とか言うな。それと、街中での奇行は慎め。あと、俺の目の前で自分の骨を折って遊ぶな」


「善処します(約束はしません)」


「……チッ。まあ、背中を任せられるのは確かだからな。……よろしく頼むぜ、相棒」



カイルさんはぶっきらぼうに言い、私のサインの横に自分の名前を書きました。

こうして。 死にたがりの『特攻聖人』ルシアンと。 一発屋の『ロマン砲』カイル。 誰とも組めなかった二人の異端児による、凸凹パーティが結成されました。


(ふふ……今は断られましたが、いつか必ず、あの熱線を浴びてみせますからね)


私が野望に燃えていると、寒気を感じたのか、カイルさんが「なんか背中がゾクッとした」と身震いしていました。

私たちの冒険は、まだ始まったばかりです。 この世界のどこかにあるという、ドラゴンのブレスや、魔王の極大魔法……そんな素敵な『痛み』を求めて。 私の肉体が砕け散るその日まで、旅は続くのです。


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