第35話 雷鳴の塔、攻略開始 ~ストーカーの愛は魔法(物理)を超える~
「……まさか、本当に連れてくるとはな」
『雷鳴の塔』の入り口。
雷帝ヴォルグ団長は、私たちの新メンバーである小柄な少女――リンを見て、呆れたように呟きました。
「しかも、よりによって『アレ』か」
「お知り合いですか、団長?」
「知らん。だが、私の行く先々で、常に何者かの視線を感じていた時期があってな……。トイレに入っている時ですら、背筋が寒かったものだ」
ヴォルグ団長が忌々しそうに肩を震わせました。
どうやらリンさんのストーキング能力は、この国最強の魔術師に「幽霊か?」と錯覚させるレベルだったようです。
「ふふっ。光栄ですわ、団長様。貴方の魔法、とても勉強になりました(盗ませていただきました)」
リンさんはエレナさんの影に隠れながら、不気味に微笑みました。
彼女の手には、どこで調達したのか、魔術師用の杖(先端にナイフが付いている改造品)が握られています。
「行くぞ。私の背中から離れるなよ」
「了解です! さあ、行きましょうエレナ様!」
私たちはヴォルグ団長の冷たい視線に見送られ、塔の内部へと足を踏み入れました。
◇
塔の内部は、外観からは想像できないほど広大な迷宮になっていました。
壁や床には古代の魔法陣が刻まれ、空気中には常にバチバチと静電気が走っています。
「キシャアアアッ!」
早速、お出迎えです。
天井から降ってきたのは、雷を纏った石像の怪物『サンダー・ガーゴイル』の群れ。
物理防御が高く、魔法耐性もあり、さらに麻痺攻撃をしてくる厄介な敵です。
「カイル、ルシアン! 私が前を固める!」
「おうよ! 俺が後ろから……」
エレナさんとカイルさんが構えるより早く、黒い影が走りました。
「邪魔です」
ヒュンッ!
リンさんです。
彼女は音もなくガーゴイルの背後に回り込むと、杖(物理)を振り抜きました。
ズドンッ!!
「ギ……?」
ガーゴイルの首が、一撃で粉砕されました。
魔法? いいえ、ただの打撃です。杖の先端についたナイフで、石像の脆い関節部分を正確に破壊したのです。
「『サンダー・ボール』!」
リンさんが詠唱(?)すると、杖から雷撃が放たれ、別のガーゴイルを黒焦げにしました。
確かに雷魔法です。ヴォルグ団長のそれと酷似しています。
ですが、よく見ると――。
「(……あれ、魔法の発動と同時に、反対の手で『雷の魔石』を握りつぶして魔力を増幅させていませんか?)」
私は見てしまいました。
彼女は自身の魔力だけでなく、道具を併用して、無理やり高火力の魔法を再現しているのです。
なんという力技。なんという執念。
「すごいなリン! 魔法と体術のコンビネーションか!」
「はい、エレナ様! 全ては貴女様をお守りするために!」
エレナさんが褒めると、リンさんは頬を染めてクネクネしました。
そして、次の瞬間には真顔に戻り、残りのガーゴイルを瞬殺して回ります。
「……なぁルシアン。あいつ、本当に魔法使いか?」
「『魔法(物理)使い』ですね。頼もしい限りです」
私たちはドン引きしつつも、先へと進みました。
◇
第5階層。
ここには、クラリスさんが懸念していた「物理無効の敵」が現れました。
『プラズマ・ゴースト』。
実体を持たない電気の精霊です。剣や槍はすり抜け、触れれば感電します。
「くそっ、斬れねえ! 俺の攻撃が透ける!」
「私のパリィも、実体がない相手には効果が薄い!」
カイルさんとエレナさんが苦戦します。
私はといえば、ゴーストにわざと取り憑かれて「ああっ、中から痺れますぅぅ!」と楽しんでいましたが、それでは攻略になりません。
「下がっていてください」
リンさんが前に出ました。
彼女は懐から小瓶を取り出し、ゴーストに向かって投げつけました。
パリーン!
瓶が割れ、中から透明な液体が飛散します。
「『絶縁オイル』……!」
液体を浴びたゴーストが、ジジジ……と音を立てて実体化し始めました。
特殊な錬金術アイテムで、霊体の電気を中和し、強制的に物質化させたのです。
「今です、カイル様!」
「お、おう! よくわからねえが、実体があるなら斬れる!」
カイルさんが大剣を振るい、実体化したゴーストを一刀両断しました。
「すげぇ……。魔法使いっていうか、なんでもアリだな」
「勝てばいいのです。エレナ様の道を塞ぐものは、石ころだろうが幽霊だろうが排除します」
リンさんは平然と言い放ちました。
その目は据わっています。
さらに、行く手を阻む「魔法の扉」。
複雑なパズルと魔力認証が必要な古代の封印ですが――。
「……構造解析完了。セキュリティホール発見」
リンさんは扉の隙間に極薄のナイフを差し込み、魔力の流れる配線を物理的に切断しました。
ガコン、と音がして、封印が解除されます。
「開きました」
「ピッキングで魔法の扉を開ける奴、初めて見たぞ……」
私たちは戦慄しました。
彼女は、魔法使いではありません。
魔法も使える、暗殺もできる、罠も解除できる、そして何より愛が重い、万能ストーカーです。
「どうですか、エレナ様! 私、お役に立っていますか!?」
「あ、ああ。すごいぞリン。君がいれば百人力だ」
「はひぃっ♡(昇天)」
エレナさんに頭を撫でられ、リンさんは恍惚の表情で倒れかけましたが、すぐに復活して次の階層への階段を指差しました。
「さあ、行きましょう! この調子なら、最上階まで一直線です!」
こうして。
私の「被弾」、カイルさんの「火力」、エレナさんの「防御」。
そこにリンさんの「解決力(と狂気)」が加わった『ブレイク・スルー』は、破竹の勢いで『雷鳴の塔』を駆け上がっていきました。
ですが、私たちは忘れていました。
この塔には、雷帝すら警戒する『本当の脅威』が眠っていることを。




