第33話 脳筋パーティへの業務改善命令 ~知性が足りません~
「よし! ヴォルグ団長の許可も出た! いざ『雷鳴の塔』へ突入だ!」
カイルさんが大剣を掲げ、雄叫びを上げました。
目の前には、重厚な鉄扉が開かれた巨大な塔。
中からは濃密な魔力と、湿った風が吹き出してきます。
「行きましょう。私の新しいチョーカーが、中の魔物たちを誘惑したくてウズウズしています」
「私の新しい鎧もだ。どんな攻撃が来ても弾き返して見せる!」
私たち『ブレイク・スルー』の士気は最高潮でした。
Cランク昇格、新装備、そして対魔法特訓。
全ての準備は整った――はずでした。
「お待ちください」
塔へ足を踏み入れようとした瞬間、頭上から鈴を転がすような声が降ってきました。
その声には聞き覚えがあります。
「……シスター・クラリス?」
見上げると、塔の入り口にあるガーゴイルの石像の上に、巨大な十字架を背負ったシスターがちょこんと座っていました。
教皇庁の掃除屋、クラリスさんです。
「おめでとうございます、ルシアン様。あの偏屈な雷帝に実力を認めさせるとは、正直見直しました」
「ありがとうございます。では、通していただけますか?」
「いいえ。通行止めです」
クラリスさんはふわりと飛び降り、私たちの前に立ちはだかりました。
その顔は、珍しく真剣(眠そうではない)でした。
「なぜだ? ギルドの許可も、管理者の許可も得ているぞ!」
エレナさんが抗議しますが、クラリスさんは冷ややかな目で見返しました。
「許可の問題ではありません。**編成**の問題です」
クラリスさんは懐から羊皮紙を取り出し、ペンでサラサラと何かを書き込みながら言いました。
「貴方たちのパーティ構成を分析しました。
ルシアン様:回復&変態タンク。攻撃力は物理のみ。
カイルさん:大剣&ロマン砲。攻撃力は物理寄り(メテオは連発不可)。
エレナさん:重装甲タンク&物理アタッカー。
……結論を言います」
クラリスさんは羊皮紙を私たちに突きつけました。
そこには大きく、赤字でこう書かれていました。
『脳筋』
「ひどい言われようです!」
「事実です。貴方たち、**魔法使い(ソーサラー)**がいませんよね?」
私たちは顔を見合わせました。
「魔法? 俺のメテオ・バスターは魔力を……」
「あれはただの魔力放出です。私が言っているのは、属性魔法による弱点攻撃、広範囲の殲滅、そして何より**『魔法的ギミックの解析と解除』**ができる人材のことです」
クラリスさんは塔を指差しました。
「『雷鳴の塔』は古代の遺跡です。内部には物理攻撃が効かない霊体や、魔力で封印された扉、魔法陣によるトラップが山ほどあります。
ルシアン様、貴方、魔法の鍵をどうやって開けるつもりですか?」
「それはもちろん、体が千切れるまで体当たりを……」
「却下です」
即答でした。
「低ランクのダンジョンならそれでも通じましたが、Bランク以上は『理不尽』の質が変わります。物理で解決できない問題に直面した時、貴方たちは詰みます」
ぐうの音も出ません。
確かに、私たちは「耐える」「殴る」ことに関してはプロフェッショナルですが、「知的な解決」に関しては素人集団です。
「教皇聖下への報告書に『脳筋すぎて全滅』とは書きたくありません。……悪いことは言いませんから、まともな魔法使いを一人入れてきなさい」
「まともな……ですか」
私は遠い目をしました。
私たちのパーティに入れるような「まとも」な魔法使いが、果たしてこの世に存在するのでしょうか。
「とにかく、4人目のメンバーが見つかるまで、塔への侵入は禁止です。これは命令ですよ」
クラリスさんは有無を言わさぬ圧力を放ち、再びガーゴイルに飛び乗りました。
監視モード続行のようです。
「……言われてみれば、確かにそうだな」
カイルさんが頭を掻きました。
「物理無効の敵が出た時、俺のメテオ頼みじゃガス欠になる。エレナも魔法防御はできるが、魔法攻撃はできねえし」
「うむ。探索や罠解除のできる斥候もいないが、それはルシアンが体を張るとして……魔法使いは必須か」
(罠解除は私の役目として定着しているのですね。光栄です)
「仕方ありません。街へ戻って、メンバー募集をかけましょう」
私たちは踵を返し、来た道を戻りました。
塔は目の前だというのに、まさかの「求人活動」からのリスタートです。
◇
ヴォルテックスの冒険者ギルド。
私たちは掲示板の前に立ち、募集の張り紙を作成していました。
【急募! パーティメンバー】
役割: 攻撃魔法使い(ソーサラー)
ランク: Cランク以上希望(実力があれば不問)
待遇: 報酬は完全歩合制+危険手当
条件:
強力な攻撃魔法が使えること。
魔法の知識が豊富であること。
多少の理不尽(主にメイン盾の奇行)に耐えられる精神力を持っていること。
「……最後の一行、必要か?」
「必須です。これを隠して採用するのは詐欺になります」
「待て、そこではない!」
エレナさんが張り紙を指差して声を荒げました。
「なぜ『メイン盾の奇行』と書く! メイン盾は私だ! 貴様はただの『被弾係』だろう!」
「おやおや。一番敵の攻撃を受けているのは誰でしたっけ?」
「ぐぬぬ……! だが、盾としての誇りは譲れん!」
カイルさんは深い溜息をつきつつ、私は張り紙を掲示板の一番目立つところに貼り付けました。
「さあ、どんな魔法使いが来るでしょうか。できれば、私を実験台にして新しい魔法を試したがるような、マッドな方がいいのですが」
「お前基準で選ぶなよ! 俺は普通の、常識的な人がいい!」
「私は……そうだな、背中を預けられる強い覚悟を持った者がいい」
三者三様の希望を抱きつつ、私たちは待つことにしました。
この「雷の街」に、私たちの常識外れなパーティに馴染める(あるいは振り回されてくれる)魔法使いがいることを祈って。




