第32話 雷帝への再挑戦 ~書類よりも重い、実力の証明書~
再び、雷雲轟く『雷鳴の塔』の前。
私たち『ブレイク・スルー』は、以前と同じ場所に立っていました。
背中にはミントさん特製の避雷針。胸には新品のCランクプレート。
そして心には、確かな自信と覚悟を宿して。
「……来たか」
塔の鉄扉が開き、紫紺のローブを纏った男――『雷帝』ヴォルグ団長が姿を現しました。
彼は私たちを一瞥し、鼻を鳴らしました。
「ギルドから連絡は来ている。『Cランクに昇格した期待の新人』だとな。形式上は、お前たちに塔への立ち入り許可を出さねばならん」
ヴォルグ団長はつまらなそうに言いました。
「だが、私は認めん。書類上のランクなど、この塔では紙切れ同然だ。……以前言ったはずだぞ。『私の雷撃を受けても平然と立っていられるようになってから来い』と」
「ええ、覚えていますとも」
カイルさんが一歩前に出ました。
その手には、大剣『紅蓮のイグニス』が握られています。
「だから来たんだよ。書類を見せに来たんじゃねえ。アンタに俺たちの『今』を見てもらうためにな」
「ほう?」
ヴォルグ団長の口元が、わずかに吊り上がりました。
それは嘲笑ではなく、猛獣が獲物を見つけた時の笑み。
「いいだろう。ならば試してやる。……死ぬ気で防げ」
団長が指を弾きました。
予備動作なし。詠唱なし。
以前、私たちを一撃で葬ったあの雷撃が、再び放たれました。
ドォォォォンッ!!
音速の雷。
標的は、前回反応すらできなかったエレナさん。
「甘いッ!!」
エレナさんは動きませんでした。
回避行動を取る代わりに、白銀のガントレットを雷撃の軌道上に突き出したのです。
全身の魔力を循環させ、一点に集中させる。
シスター・クラリス直伝、『対魔パリィ』。
パァンッ!!
乾いた炸裂音と共に、雷撃が四方へと弾かれました。
エレナさんの足元の地面が焦げ付きますが、彼女自身は無傷。一歩も引いていません。
「……何?」
ヴォルグ団長が初めて驚きの声を上げました。
「魔力で雷を弾いたか。……面白い。だが、これはどうだ?」
団長が両手を広げました。
空の雷雲が渦巻き、無数の雷球が生成されます。
単発ではなく、面制圧の弾幕。
『サンダー・ストーム』。
「これなら弾けまい!」
雨のように降り注ぐ雷撃。
パリィでは防ぎきれません。
ですが、私たちにはもう一人の盾がいます。
「お待たせしました! ご指名ありがとうございます!」
私がスライムローブを広げ、エレナさんとカイルさんの前に飛び出しました。
チョーカーのダイヤルを『最大』にし、全ての雷撃を自分へと誘導します。
バリバリバリバリッ!!
「ぎゃああああ! ああっ、この味! ヴォルグ団長の雷は格別です!」
数万ボルトの電流が私を焼き、神経を蹂躙します。
ですが、私の神経は既に「麻痺」という概念を捨て去っていました。
焼けた端から再生し、遮断された信号を魔力で繋ぎ直す。
私は黒煙を上げながらも倒れず、それどころか団長に向かって一歩踏み出しました。
「っはぁ……! どうですか団長! まだまだ立っていられますよ!」
「貴様……! 化け物か!」
団長が舌打ちし、さらに出力を上げようとしたその時。
私の背後から、赤い影が飛び出しました。
「よそ見してる暇はねえぞ、雷オヤジ!」
カイルさんです。
雷撃の雨を私が吸い寄せている間に、彼は無傷で距離を詰めていました。
大剣を振りかぶります。
チャージはありません。放つのは、魔力に頼らない純粋な剣技。
「ベルタ婆さん直伝……『落牙』!!」
カイルさんは力を抜き、大剣の重さだけを利用して振り下ろしました。
団長はとっさに雷の障壁を展開します。
高密度の魔力壁。並の攻撃なら触れただけで弾き返されますが――。
ズンッ!
カイルさんの剣は、障壁を「切断」するのではなく、その重みで「押し潰し」ました。
魔力の流れを物理的な質量で断ち切り、団長の鼻先数センチでピタリと止まりました。
「…………」
静寂。
団長の額から、一筋の冷や汗が流れ落ちました。
カイルさんの剣先が、わずかに彼の前髪を揺らしています。
「……合格だ」
団長は雷を収束させ、ふぅと息を吐きました。
「魔力防御、状態異常耐性、そして対魔術師への近接戦闘術。……短期間でよくここまで仕上げてきたな」
「へへっ、死ぬほどシゴかれたからな」
カイルさんが剣を収め、ニカっと笑いました。
私も黒焦げの顔(再生済み)でサムズアップし、エレナさんも兜を脱いで汗を拭いました。
「フン。書類など見る必要もなかったな」
ヴォルグ団長は背を向け、塔の巨大な鉄扉に手をかざしました。
ゴゴゴゴゴ……と重い音を立てて、閉ざされていた扉が開いていきます。
「入れ。この先は未知の領域だ。私の雷撃など序の口と思え」
「ありがとうございます!」
私たちは深く一礼し、開かれた門へと足を踏み入れました。
書類上の許可ではない。
実力で勝ち取った、正真正銘の挑戦権。
「さあ、行きましょう! この塔の最上階には、どんな素敵な痛みが待っているのでしょうか!」
「お前はブレねえな……」
「気合を入れろよ。ここからが本番だ」
雷鳴轟く塔の内部。
そこは、Sランクへの道が続く、過酷で魅力的なダンジョンでした。




