表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/85

第29話 焦げ臭い再会と、昇格試験への挑戦状



「……なんかお前、焦げ臭くないか?」


城塞都市ヴォルテックスの酒場。

数日ぶりに顔を合わせた私たち『ブレイク・スルー』の再会第一声は、カイルさんのそんな言葉でした。


「気のせいですよ。ただ、数万ボルトの雷撃を浴び続けて、細胞が少し炭化しただけです」

「それを『焦げ臭い』って言うんだよ!」


私は黒焦げになった髪(再生中)を払いながら、仲間たちの様子を観察しました。


カイルさんは、注文したステーキをナイフで切っていましたが、その手つきが異常でした。

肉の繊維に沿って刃を滑らせ、細胞を潰さずにスッと切り分ける。

無駄な力みが一切なく、まるで呼吸をするように自然な動作。


「カイルさんこそ、随分と所作が洗練されましたね。以前のような『力任せ』な雰囲気が消えています」

「ああ。ベルタ婆さんのシゴきのおかげでな。……今は、大剣が羽毛みたいに軽く感じるぜ」


カイルさんが不敵に笑いますが、すぐにその表情を引き締めました。


「もっとも、まだ婆さんには『やっと包丁が持てるようになった赤ん坊』扱いだけどな。剣の道は果てしねえよ」


そして、エレナさんもまた、変わっていました。

彼女は静かに水を飲んでいましたが、その全身から微弱な魔力が揺らめいています。

鎧の表面に薄い魔力の膜を張り、常に防御態勢を維持しているのです。


「食事中も気を抜かないのですか?」

「クラリス教官に叩き込まれたからな。『日常動作に魔力循環を組み込め』とな。……油断すると、どこからメイスが飛んでくるか分からんかったしな」


エレナさんは遠い目をしています。相当ハードな修行だったのでしょう。


「まあ、私もまだ教官の攻撃を十回に一回弾けるようになった程度だ。免許皆伝には程遠い」

「二人とも謙虚ですね。ですが、確かな手応えはあるのでしょう?」

「ああ。少なくとも、以前の俺たちとは違う」


カイルさんが力強く頷きました。

修行はまだ途中。ですが、立ち止まっているわけにはいきません。

今の実力でどこまで通用するか、試す必要があります。


「行きましょう。今の私たちなら、あの門番(受付)を突破できるはずです」


私たちは頷き合い、席を立ちました。

目指すは冒険者ギルド。

以前、門前払いを食らったあの場所へ、リベンジマッチです。


   ◇


「いらっしゃいませ。……おや?」


ギルドの受付カウンター。

以前、私たちを「Dランクのひよっこ」と鼻で笑った強面の男性職員が、怪訝な顔をしました。


「君たちは……先日、『雷鳴の塔』に行きたいと言っていた無謀な連中か。まだ諦めていなかったのか?」

「ええ。諦めるどころか、準備万端です」


カイルさんがカウンターにドン! と手を置きました。


「Cランクへの昇格試験を受けさせてくれ。俺たちは強くなった。塔へ行く資格があるはずだ」


職員はため息をつき、書類仕事を続けようとしました。


「何度も言わせるな。昇格試験を受けるには、相応の実績と期間が必要だ。君たちがここに来てまだ数日……」


職員の言葉が止まりました。

カイルさんが、背中の大剣の柄に手をかけたからです。

抜いたわけではありません。ただ、触れただけ。

ですが、そこから放たれた『気配』に、職員の手がピクリと震えたのです。


以前のカイルさんなら、ただの威嚇でした。

ですが今は違います。

「いつでも斬れる」という静かな殺気と、自信。

そして、後ろに控えるエレナさんの鉄壁の魔力防御と、私から漂う異様な焦げ臭さ(狂気)。


職員は顔を上げ、改めて私たちを値踏みするように見つめました。

その額に、冷や汗が流れます。


「……なるほど。ただの口だけではないようだな」


職員はペンを置き、真剣な表情になりました。

しかし、彼の口から出た言葉は、期待していたものとは違いました。


「だが、ダメだ。規則は絶対だ」

「なんだと!?」

「ヴォルテックス支部は軍規に準じた厳格な規律で動いている。どれほど個人の武勇が優れていようと、特例は認めん。例外は魔術師団長か、塔の管理者の推薦状のみだ」


職員は頑として譲りませんでした。

さすがは城塞都市のギルドマン。個人の恐怖よりも、組織のルールを優先する胆力があります。


「推薦状なら……もらえなかったよ。だから実力で認めさせるしかねえんだ!」

「ならば実績を詰め。地道にな」

「チッ! ……わかったよ。じゃあ、手っ取り早く実績になるデカい依頼をよこせ!」


カイルさんが食い下がると、職員は少し考え込み、奥から一枚の赤い依頼書を取り出しました。


「……いいだろう。君たちの実力が本物なら、薬草採取など時間の無駄だ。これをやってみろ」


彼は依頼書をカウンターに叩きつけました。


「ターゲットは、北の山岳地帯に巣食う**『スパーク・グリズリー(雷熊)』**だ」


スパーク・グリズリー。

Cランク上位の魔物です。

全身が鋼のように硬い剛毛で覆われており、さらに体内で発電した電気を纏って攻撃してくる、攻防一体の猛獣。


「本来はCランクパーティ向けの依頼だが、長期間放置されていてな。これを達成できれば、相当な『実績』として評価してやる。文句はないな?」

「上等だ! 行くぞルシアン、エレナ!」


カイルさんが依頼書をひったくりました。

私たちは職員に不敵な笑みを返し、ギルドを後にしました。


「スパーク・グリズリー……。感電しながらのハグ、楽しみですねぇ」

「お前はまずその性癖をどうにかしろ」

「フッ、私の新しい盾の試し斬り(防御)には不足なしだ」


足取りは軽いです。

昇格試験はお預けとなりましたが、強敵との戦いは約束されました。

いざ、実績作りへ。

私たちの進化した力を見せつける時が来ました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ