第28話 麻痺耐性特訓 ~リクエストは「最大電圧」でお願いします~
「カイルさんは包丁、エレナさんはシスターに殴られる。……ふむ、皆さん楽しそうですね」
城塞都市ヴォルテックスの大通り。
私は一人、仲間たちの充実した修行風景を思い浮かべながら歩いていました。
二人がそれぞれの課題に向き合っている間、私も指をくわえて待っているわけにはいきません。
私の課題。
それは『雷鳴の塔』攻略の鍵となる、雷属性(および麻痺)への耐性です。
ヴォルグ団長の雷撃を受けた際、私は麻痺によって回復魔法の発動を一瞬遅らされました。
これは由々しき事態です。
「痛いのに治せない」という状況は、私にとって死活問題なのです。
「というわけで、実践あるのみですね」
私は足取りも軽く、街の中央にある巨大な尖塔――『ヴォルテックス魔術師団』の本部へと向かいました。
◇
魔術師団の演習場では、数十人の団員たちが雷魔法の訓練を行っていました。
的に向かって雷撃を放ち、威力や精度を競い合っています。
「すみません、少々よろしいでしょうか」
私がフェンス越しに声をかけると、近くにいた若い魔術師が振り返りました。
「ん? なんだ君は。ここは一般人の立ち入り禁止だぞ」
「いえ、素晴らしい雷魔法だなと思いまして。……どうです? その魔法、私に撃ってみませんか?」
「は?」
魔術師がポカンと口を開けました。
私はニッコリと笑い、さらに畳み掛けます。
「実は私、雷に打たれるのが三度の飯より好きでして。特に神経を直接焼かれるあの痺れ……たまりませんよね? ぜひ貴方の魔法で、私を黒焦げにしていただきたいのです」
「……頭、大丈夫か?」
「はい、物理的には(まだ)大丈夫です」
魔術師たちは顔を見合わせ、「変なのが来たぞ」とヒソヒソ話しています。
どうやら、言葉だけでは私の熱意は伝わらないようです。
ならば、少し刺激を強めましょう。
私は首元のチョーカーのダイヤルを『微弱』から『中』へと回しました。
途端に、魔物を引き寄せるフェロモンが周囲に拡散します。
人間には効果が薄いですが、それでも本能的な「敵意」や「攻撃衝動」を刺激するには十分です。
「……なんだ? こいつ、なんかムカつくな」
「ああ。ニヤニヤしやがって……生意気だ」
魔術師たちの目に、険しい光が宿り始めました。
いい傾向です。
「どうしました? 貴方たちの魔法は、止まっている的しか狙えないのですか? 生きた標的を前にして指一本動かせないとは、ヴォルグ団長の教育も大したことありませんね」
「なんだと貴様……!」
「雷帝の部下が聞いて呆れます。私の静電気の方がまだ痛そうですね」
バチバチバチッ!!
魔術師たちの杖に、激しいスパークが走りました。
挑発成功です。
「後悔するなよ小僧! 全員、構え!」
「『サンダー・ボルト』!!」
数十人の魔術師が一斉に杖を振り下ろしました。
四方八方から、無数の雷撃が私に殺到します。
「来ました! これです!」
私は両手を広げ、全ての雷撃を真正面から受け止めました。
ドガガガガガガッ!!
「ぎゃあああああっ!! ああっ、いい! ビリビリ来ます! 脳味噌がシェイクされるぅぅぅ!!」
全身を駆け巡る高圧電流。
筋肉が収縮し、皮膚が焼け焦げ、内臓が煮えるような熱さ。
そして何より、神経伝達を阻害する強烈な『麻痺』。
「(指が動かない……! 喉が引きつる……!)」
私は地面に転がり、痙攣しながら思考を加速させました。
麻痺とは、神経信号の遮断。
ならば、遮断された回路を魔力で無理やりバイパスし、脳からの命令を強制的に通せばいい。
「動け……! 回復……!」
ガクガクと震える指先で印を結び、自分自身に回復魔法をかけます。
焼けた神経を修復し、ショートした回路を繋ぎ直す。
「ふぅ……。なんとか動きましたね」
黒煙を上げて立ち上がる私を見て、魔術師たちが悲鳴を上げました。
「な、なんだこいつ!? 死んでない!?」
「あれだけの集中砲火を受けて、なぜ立っている!?」
「アンコールです! 次はもっと出力を上げてください! まだ指先が動いてしまいます!」
私は焦げた服が修復されるのを待ちながら、満面の笑みで叫びました。
魔術師たちは恐怖に顔を引きつらせながらも、私の挑発(とチョーカーの効果)に抗えず、再び杖を構えます。
「化け物め! 今度こそ消し炭にしてやる!」
「『ライトニング・ストーム』!!」
演習場は、雷光と私の歓喜の悲鳴に包まれる地獄絵図と化しました。
◇
数時間後。
私は地面に大の字になって寝転がっていました。
周囲の魔術師たちは、魔力切れ(ガス欠)で全員へたり込んでいます。
「ハァ……ハァ……。もう……無理だ……」
「なんで……死なないんだよ……」
彼らの目は虚ろでした。
いくら撃っても、焼いても、焦がしても、ゾンビのように復活して「もっと!」とねだる狂人を相手にして、心が折れてしまったようです。
「ありがとうございました。おかげさまで、だいぶ『慣れ』ました」
私は起き上がりました。
体にはまだ微弱な電流が残っていますが、麻痺はありません。
度重なる感電によって、私の神経系は「麻痺信号」をノイズとして処理し、無視する適応(進化)を遂げたようです。
あるいは、単に神経が図太くなっただけかもしれませんが。
「騒がしいと思えば……貴様か」
その時、演習場の入り口から、冷ややかな声が響きました。
ヴォルグ団長です。
彼は惨状(魔力切れの部下たちと、ピンピンしている私)を見て、呆れたようにため息をつきました。
「私の部下を実験台にするとは、いい度胸だ」
「すみません。ヴォルグ団長の雷撃に耐えるための予行演習が必要でしたので」
「……予行演習だと?」
ヴォルグ団長が目を細めました。
「私の雷は、あんな児戯とは次元が違うぞ」
「存じています。だからこそ、まずは『質』より『量』で体を慣らしました」
私はチョーカーのスイッチをOFFにし、団長に向き直りました。
「団長。一つお願いがあります」
「断る」
「まだ何も言っていませんが」
「貴様の考えていることなどお見通しだ。『私にも雷を撃ってください』だろう?」
ご明察。さすがは雷帝です。
「だが、今は撃たん。貴様ごときに私の魔力を割くのは無駄だ」
団長は冷たく言い放ち、背を向けました。
「……だが、貴様のその『異常性』だけは認めてやろう。魔術師団の連中が束になっても殺せなかったのだからな」
団長は歩き去りながら、最後に一言だけ残しました。
「塔に来い。そこまで辿り着けたなら、その時は本気で相手をしてやる」
それは、実質的な挑戦権の付与でした。
私は深々と頭を下げました。
「ありがとうございます! 必ず、貴方の最強の雷を浴びに行きます!」
私は黒焦げになった体を『全回復』させ、演習場を後にしました。
麻痺耐性は獲得しました。
カイルさんもエレナさんも、それぞれの修行を終えている頃でしょう。
準備は整いました。
いざ、『雷鳴の塔』へ。




