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第24話 城塞都市の門番と、暴走する愛(フェロモン)のスイッチ



空を黒雲が覆い、絶え間なく雷鳴が轟く地。

私たち『ブレイク・スルー』は、ついに雷竜の住処『雷鳴の塔』を擁する城塞都市ヴォルテックスに到着しました。


高い城壁に囲まれた、軍事拠点のような重厚な街並み。

ですが、感動する間もありませんでした。


「ワンッ! ギャウッ!!」

「カアァァァッ!!」


街門をくぐるなり、警備兵が連れていた軍用犬が鎖を引きちぎらんばかりに私に向かって吠えかかり、空からはカラスの大群が急降下爆撃を仕掛けてきたのです。


「痛い痛い! ついばまないで! ああっ、軍用犬の噛む力……素晴らしい!!」

「ルシアン! お前いい加減にしろ!!」


カイルさんが犬を引き剥がし、エレナさんがカラスを追い払います。

原因は明白。私の首にある**『挑発のチョーカー』**です。

これのフェロモン効果が強すぎて、魔物だけでなく、街中の動物たちまで興奮させてしまっているのです。


「これじゃ宿にも泊まれねえぞ! 街中がパニックだ!」

「困りましたね。ハエや蚊まで寄ってくるので、私の周りだけ生態系が濃すぎるのですが」

「知るか! とにかく何とかしろ!」


私たちは逃げるように路地裏へと駆け込みました。


   ◇


「まずはギルドだ。塔への立ち入り許可をもらって、さっさと街を出よう」


カイルさんの提案で、私たちはヴォルテックスの冒険者ギルドへ向かいました。

目的は『雷鳴の塔』の攻略申請。

しかし、受付で待っていたのは、冷ややかな現実でした。


「Dランク? お断りです」


受付の強面な男性職員は、私たちのプレートを見るなり鼻で笑いました。


「『雷鳴の塔』はBランク指定の危険地帯だ。立ち入りが許可されるのはCランク以上のパーティのみ。Dランクのひよっこが迷い込んでいい場所じゃない」

「待ってくれ! 俺たちは特別なんだ! ギガ・クイーンだって倒したし、実力なら……!」

「口だけなら何とでも言える。実績が欲しければ、地道に依頼をこなしてランクを上げることだ」


取り付く島もありません。

ベルンのガンツさんのような融通の利くギルドマスターがいれば話は別ですが、ここは軍人気質の強い街。

規則ルールは絶対なのです。


「クソッ! ここで足止めかよ!」

「地道にランクを上げるとなると……数ヶ月はかかりますね」


私たちはギルドを追い出され、途方に暮れました。

ランクの壁。

実力があっても、社会的な信用がなければ挑戦すらさせてもらえない。冒険者社会の世知辛さです。


「……とりあえず、ルシアンの首輪をどうにかするのが先決だ」


エレナさんが、私の周りを飛び回るハエを手で払いながら言いました。


「そういえば、マダム・ガルドが言っていたな。『調子が悪くなったら、ヴォルテックスにいる私の弟子を訪ねなさい』と」

「おや、調子ならすこぶる良いですが?」

「お前の頭の調子の話じゃねえよ! 周囲の環境が悪化してんだよ! 行くぞ、強制連行だ!」


私は「えー」と不満げな声を上げましたが、カイルさんとエレナさんに両脇を抱えられ、マダムから貰っていた紹介状を頼りに、街の職人街へと連行されました。


   ◇


「ここ……ですか?」


辿り着いたのは、煙突だらけの奇妙な建物でした。

中からは爆発音や、謎の機械音が聞こえてきます。

看板には**『天才魔導具工房・ミント』**と、殴り書きのような文字が。


恐る恐る扉を開けると、中はガラクタ……いえ、部品の山でした。

その奥で、ゴーグルをかけた小柄な少女が、怪しげな機械をいじり回しています。


「あーもう! 出力が安定しない! なんで爆発するのよこのポンコツ!」


ドカン! と小爆発が起き、少女のアフロヘアがさらに膨らみました。


「あ、あの……ごめんください」

「んあ? 客? 今は忙しいんだけど……って、何その禍々しい魔力反応!?」


少女――ミントは、私を見るなりゴーグルをずらし、目を輝かせて飛びついてきました。

正確には、私の首元へ。


「すっげえええ! 何これ! 幻の『誘惑石』じゃん! しかも配列が狂ってる! 誰が作ったのこんなイカれた装備!?」

「マダム・ガルドです」

「師匠かよ! 納得!!」


ミントさんはマダムの愛弟子でした。

性格(マッドサイエンティスト気質)も受け継いでいるようです。


事情を説明すると、彼女は二つ返事で修理を引き受けてくれました。


「ON/OFF機能ね。簡単だよ。魔力回路にバイパスを作って、スイッチ一つで遮断できるようにすればいい」

「お願いします! このままだと、俺たちが寝不足で死んじまうんです!」


カイルさんが涙ながらに懇願します。私は横で「別にネズミに齧られながら寝るのもオツなものですが……」と呟いて、エレナさんに小突かれました。


「ついでに、出力調整機能もつけとく? 『微弱(虫除け)』から『最大(ドラゴンも発情)』まで調整できるようにしとくよ」

「ぜひ『最大』をお願いします!」


ここぞとばかりに私が食いつくと、ミントさんは「いい趣味してるねぇ!」と笑い、工具を取り出しました。

私の首につけたままカチャカチャと弄り始めます。手際の良さはマダム譲りです。


「……よし、できた! これがスイッチだ!」


チョーカーの側面に、小さなダイヤルがつきました。

試しにカイルさんが強引にOFFにすると、周囲を飛んでいたハエたちが、魔法が解けたように去っていきました。


「おお……! 静寂が戻った!」

「すげぇ! これでやっとまともに街を歩ける!」


カイルさんが涙ぐんでいます。

私は少し残念ですが、まあ『最大』モードが追加されたので良しとしましょう。

これで日常生活の問題は解決しました。

残るは、ランクの問題だけです。


「お兄さんたち、塔に行きたいんでしょ? ランクが足りなくて困ってるって?」


作業を終えたミントさんが、オイルで汚れた手を拭きながら聞いてきました。


「ええ。何か裏道とか知りませんか?」

「裏道はないけど……**『抜け道』**ならあるかもね」


ミントさんはニヤリと笑いました。


「この街のギルドは頭が固いけど、**『推薦状』があれば話は別よ。有力者のコネさえあれば、特例で昇格試験を受けさせてくれる場合がある」

「有力者……?」

「例えば、この街の領主とか、あるいは……『塔の管理責任者』**とかね」


ミントさんは窓の外、雷雲に覆われた塔を指差しました。


「実はボク、塔の管理をしている魔術師団に、魔導具を卸してるんだ。今度、新型の避雷針を納品しに行くんだけど……荷物持ちが足りなくて困ってたんだよねぇ」


彼女はチラリと、私たちの(特にエレナさんの)筋肉を見ました。


「なるほど。貴女の荷物持ち(護衛)として同行すれば、塔の近くまで行けるし、あわよくば責任者に実力をアピールできる……ということですね?」

「話が早くて助かるよ。どう? ボクの実験……じゃなかった、納品の護衛依頼、受ける?」


これは千載一遇のチャンスです。

正規ルートがダメなら、コネを利用して裏口入学。

私の得意分野(搦め手)です。


「受けましょう! 我々『ブレイク・スルー』にお任せを!」

「よし決まり! 出発は明日! 最高の痺れ(感電事故)が待ってるよ!」


こうして、私たちは変人発明家ミントさんという新たなコネを手に入れ、難攻不落の『ランクの壁』に風穴を開けることになりました。

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