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第23話 道中の宿場町と、引き寄せすぎる呪いのチョーカー



交易都市ベルンを出発して数日。

私たち『ブレイク・スルー』は、西の空に常時雷雲が渦巻く危険地帯――『雷鳴の塔』を目指して旅を続けていました。


「おいルシアン。お前のその首輪……本当に大丈夫なのか?」


街道を歩きながら、カイルさんが呆れたように私を見ました。

私の首には、マダム・ガルドから頂いた『挑発のチョーカー』が巻かれています。

赤く怪しく光る宝石が、周囲にフェロモン(魔物用)を撒き散らしているのです。


「大丈夫ですよ。今のところ、特に問題は……」


ドスッ!!


「ぐっ!?」


突然、草むらから飛び出してきた『角ウサギ(Fランク)』が、私のスネに頭突きをかましてきました。

普段なら逃げ出すはずの臆病な草食獣です。


「またかよ! これで今日10回目だぞ!」

「すごいですね……。ウサギすらも殺意に目覚めさせるとは。このチョーカー、効果抜群です」


私はスネから血を流しながら(ウサギの角、意外と鋭いのです)、ニッコリと笑いました。

どうやらこの装備、魔物だけでなく、野生動物の闘争本能すら刺激してしまうようです。


「問題は大有りだ! 宿場町についても休まらねえぞこれじゃ!」


   ◇


その言葉通り、私たちが経由したいくつかの町では、小さな騒動が絶えませんでした。


最初の農村『ミドリ村』では、放牧されていた牛が一斉に私に向かって突進してきました。

「モオォォォッ!!(殺す!!)」

「素晴らしい突進力! 肋骨が3本いきました!」

村人たちが慌てて取り押さえる中、私は牛の角に刺さりながら恍惚の表情を浮かべ、村長さんに「早く出て行ってくれ」と涙目で頼まれました。


次の宿場町『ロック・リバー』では、夜中に街の下水道から大量のドブネズミが這い出してきて、私の部屋だけを埋め尽くしました。

「ルシアン! 部屋から変な音が……うわああああ!!」

朝、カイルさんが私の部屋を覗くと、そこにはネズミの山に埋もれて安眠する(全身を齧られながら再生し続けている)私の姿が。

宿の主人には「害獣駆除ありがとう」と感謝されましたが、二度と泊めてはもらえませんでした。


そして現在。

私たちは『雷鳴の塔』の手前にある最後の砦、**城塞都市『ヴォルテックス』**に向かう山道を進んでいました。


「……そろそろ出るぞ。この辺りは魔物の質が変わる」


エレナさんが、新調した白銀の鎧『白銀の城壁』を鳴らして警戒を促します。

彼女の読み通り、前方の岩場から、青白い火花を散らす狼の群れが現れました。


『サンダー・ウルフ』。

電気を帯びた体毛を持つ、Cランク相当の魔物です。群れでの連携攻撃を得意とし、麻痺効果のある電撃で獲物を弱らせてから食らいます。

数は10体以上。


「グルルルル……ッ!」


ウルフたちは、カイルさんとエレナさんには目もくれず、全員が私だけを凝視しています。

口からヨダレを垂らし、目は血走っています。

チョーカーの効果は絶大です。


「来るぞ! 構えろ!」


カイルさんが『紅蓮のイグニス』を抜刀します。

ですが、私が一歩前に出ると、ウルフたちの視線が私に合わせて動きました。


「カイルさん、エレナさん。テストに丁度いい相手です」


私は両手を広げました。


「私が引きつけます。新しい装備の性能、存分に試してください!」


「ワオオオオオオンッ!!」


遠吠えと共に、ウルフたちが一斉に飛びかかってきました。

四方八方からの同時攻撃。

電撃の牙が私の腕を噛み砕き、爪が背中を引き裂きます。


バリバリバリッ!!


「ぎゃあああああっ!! 痺れる! 熱い! 神経が焼き切れる音、聞こえますか!?」


全身に高圧電流が走り、私の体はポップコーンのように痙攣しました。

ですが、意識は飛びません。

苦痛が脳を覚醒させ、再生能力が焼き切れた細胞を瞬時に作り変えていきます。


「相変わらずエグい絵面だな……! だが、隙だらけだ!」


カイルさんが大剣を構えます。

以前なら10秒かかっていたチャージ。

しかし、新しい剣の魔力伝導率は桁違いでした。


「うおおおおッ! チャージ完了、5秒!」


早い!

カイルさんの剣が赤熱し、魔力が奔流となって溢れ出します。

群がっているウルフたちは、私を食べることに夢中で、背後の高エネルギー反応に気づいていません。


「消し飛べ! 『メテオ・バスター・ショート(短縮版)』!!」


カイルさんが剣を振り下ろしました。

フルパワーではありませんが、それでもCランクの群れを焼き払うには十分な火力。

熱線がウルフたち(と私)を飲み込みます。


ドオオオオオンッ!!


数体のウルフが消滅し、残りが吹き飛ばされました。

生き残った個体が、黒焦げになりながらも反撃しようと起き上がりますが――。


「逃がさん!」


そこへ、銀色の閃光が走りました。

エレナさんです。

彼女の新しい鎧は、関節部分に特殊なスライド機構が組み込まれており、重装備とは思えない速度での踏み込みを可能にしていました。


「はぁッ!」


ハルバードが一閃。

残りのウルフたちの首が、一瞬で胴体から離れました。

美しい。

以前の「受け止めるだけ」の戦い方とは違う、攻撃的な防御。


「ふぅ……。軽いな、この鎧は。まるでドレスを着て踊っているようだ」


エレナさんが涼しい顔で残心をとります。

その足元には、黒焦げでピクピクしている私が転がっていました。


「……素晴らしい連携でしたね」


私は再生した口で称賛しました。


「カイルさんのチャージ短縮のおかげで、私が『死ぬ直前』で助かりました。あと数秒遅かったら、感電死の向こう側に行けたのですが」

「行かせてたまるか。回復しろ」


カイルさんが呆れながら手を貸してくれました。


新装備の性能は上々。

特に私のチョーカーは、パーティの戦術を根本から変える(私への負担を極大化する)革命的なアイテムであることが証明されました。


「見えてきたぞ。あれが『雷鳴の塔』だ」


峠を越えると、遠くの空に、黒雲を突き刺すようにそびえ立つ巨大な石塔が見えました。

周囲には常に落雷が降り注ぎ、近づく者を拒んでいます。


「あそこに、雷のドラゴンがいるのですね」

「ああ。Sランク昇格試験の必須討伐対象、『サンダー・ドラゴン』だ」


私たちは顔を見合わせ、頷きました。

道中の町での騒動も、ウルフの群れも、ただの前座。

本番はこれからです。


「行きましょう。最高の痺れ(ビリビリ)が待っています!」


私たちは最後の宿場町、城塞都市ヴォルテックスへと足を進めました。

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