第22話 義弟(予定)への尋問と、マダムからの危険なプレゼント
「……で? 説明してもらおうか、ルシアン」
宿屋の一室。
私はカイルさんとエレナさんに挟まれ、ベッドの上で正座させられていました。
二人の顔は腫れ上がり、あちこちに包帯が巻かれています。
姉さんの騎士団にボコボコにされた名誉の負傷です。
「説明と言われましても……。父が教皇で、姉が聖女。それだけのことです」
「それだけなわけあるか!!」
カイルさんが叫びました。
「この国の宗教トップの息子だぞ!? 超VIPじゃねえか! そんな奴を俺たちは『囮にして空から落とした』り、『アリの群れに放り込んだ』りしてたのか!? 不敬罪で死刑だぞ!」
「大丈夫です。我が家の教育方針は『獅子は我が子を千尋の谷に突き落とす』ですので。むしろ父は喜んでいるはずです」
「どんな家庭環境だよ!」
カイルさんは頭を抱えました。
一方、エレナさんは真面目な顔で唸っています。
「教皇聖下の御子息……。ならば、私は騎士として貴方をお守りせねば……」
「やめてください。今まで通り『変態』と呼んで、雑に扱ってください。それが一番落ち着きます」
「むぅ……。貴様という男は……」
エレナさんは困惑していますが、徐々にいつもの調子を取り戻してくれたようです。
問題はカイルさんです。
彼はブツブツと何かを呟いた後、カッと顔を上げ、私の両肩をガシリと掴みました。
「……待てよ。ルシアン」
「はい」
「お前がアリス様の弟ってことはだ。もし俺がアリス様と結婚したら、お前は俺の**『義理の弟』**になるってことか?」
「論理的にはそうですが、その前に貴方は物理的に消滅させられますよ」
姉さんのあの冷ややかな目。
カイルさんを「害虫」と呼んだ時の殺気。
普通なら心が折れるところですが……。
「上等だ……! むしろ燃えてきたぜ!」
カイルさんの瞳に、不屈の炎が宿りました。
「今日のことで顔は覚えられた! 『生意気な虫』としてな! 無関心よりよっぽどいい! ここからSランクに成り上がって、彼女を見返してやるんだ!」
「(ポジティブすぎて怖いです……)」
どうやら、姉さんの殺意すらも「愛の試練」へと変換してしまったようです。
このロマン砲、メンタルだけはオリハルコン級かもしれません。
「よし! そうと決まれば準備だ! 聖女様騒ぎで受け取りが遅くなっちまったが……マダムのところへ『最高の切り札』を受け取りに行くぞ!」
◇
私たちは再び、マダム・ガルドの工房を訪れました。
中に入ると、マダムが腕組みをして仁王立ちしていました。
「遅いじゃないの。首を長くして待ってたわよ」
「すみません。少々、家庭の事情(聖女襲来)でゴタゴタしていまして」
「ふーん? まあいいわ。……見なさい。アンタたちの新しい相棒よ」
マダムが指差した作業台の上には、神々しい輝きを放つ二つの武具が置かれていました。
まずは、カイルさんの大剣。
ギガ・クイーンのアダマンタイトを刀身に組み込んだ、青白く輝く巨大な剣。
刀身には赤いラインが走り、魔力を通すと脈打つように発光します。
「**『紅蓮のイグニス』**よ」
マダムが説明します。
「素材の魔力伝導率を極限まで高めてあるわ。アンタの『メテオ・バスター』のチャージ時間を、従来の3分の2まで短縮できるはずよ」
「マジか!? 10秒が7秒弱になるのか!?」
カイルさんが震える手で剣を手に取ります。
ずっしりとした重み。しかし、体の一部のように馴染むバランス。
「すげぇ……! これなら、もっと撃てる!」
次に、エレナさんの鎧。
以前の無骨なフルプレートメイルとは違い、女性らしい曲線美を活かした、白銀の流線型アーマー。
要所要所にアダマンタイトが使用され、防御力と可動域を完璧に両立させています。
「『白銀の城壁』。アンタの長身と美しさを引き立てつつ、ドラゴンの爪すら弾き返す強度を持たせたわ」
「美しい……! これが私の新しい鎧……!」
エレナさんが頬を染めて鎧を撫でます。
着装してみると、その姿はまさに戦場の女神。
動くたびに装甲が滑らかにスライドし、一切の隙間を作りません。
「ありがとう、マダム! これで私は、誰よりも前に出て仲間を守れる!」
「ふふん、感謝しなさい。アタシの最高傑作よ」
マダムは鼻高々です。
カイルさんとエレナさんは、新しい力を手に入れて興奮状態。
これで戦力は大幅にアップしました。
「さて。……アンタにもあるわよ、ルシアンちゃん」
マダムが私を見ました。
手には、小さな小箱を持っています。
「オマケって言ったけどね。アンタのその『歪んだ性癖』……じゃなくて、特殊な戦い方に合わせて、ちょっとしたアクセサリーを作ってみたの」
渡された箱を開けると、そこには一つの**『チョーカー』**が入っていました。
黒革のベルトに、赤い宝石が埋め込まれたシンプルなデザイン。
ですが、その宝石からは何やら禍々しい魔力が漂っています。
「それは?」
「『挑発のチョーカー』。埋め込まれてるのは、魔物を興奮させるフェロモンを発する魔石よ」
マダムがニヤリと笑いました。
「これを着けてるとね、周囲の魔物が理性を失って、**『一番最初にアンタを狙いたくなる』**わ」
「……ッ!!」
私は息を呑みました。
なんという素晴らしいアイテムでしょう。
私が前に出なくても、敵の方から私を選んで殺しに来てくれる。
タンクとしてのヘイト稼ぎの手間が省ける上に、常に攻撃の的になれる。
「防御力はいっさい上がらないわよ。むしろ、集中砲火を浴びて死ぬ確率が跳ね上がる呪いの装備ね」
「最高です、マダム! 私の求めていたものはこれでした!」
私は即座にチョーカーを首に巻きました。
ピタリと吸い付くような感触。
これでもう、敵が他の二人に浮気する心配はありません。
「アンタ……本当に嬉しそうね。作った甲斐があるというか、呆れるというか……」
マダムは苦笑いしましたが、その目は優しかったです。
「さあ、行きなさい『ブレイク・スルー』。最強の武器と防具、そして最高の変態が揃ったんだから、Sランクだろうが魔王だろうが、ぶち抜いてきなさい!」
「「「はいッ!!」」」
私たちはマダムに礼を言い、工房を後にしました。
新たな装備。
新たな目標。
そして、公認された冒険への切符。
「行くぞ! 次の目的地は……」
カイルさんが地図を広げました。
教皇である父からの指令は「各地の調査」。
つまり、どこへ行ってもいいということです。
「西にある**『雷鳴の塔』**はどうだ? 前に話してた、雷ドラゴンがいる場所だ」
「いいですね! 感電死体験、楽しみにしていました!」
「私は雷への耐性はあまりないが……この新しい鎧なら耐えられるはずだ!」
意見は一致しました。
私たちはベルンの街を出て、西へと歩き出しました。
目指すは雷雲轟く塔。
新生『ブレイク・スルー』の、最初の冒険が始まります。




