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第17話 名工の正体は、髭もじゃのマダムでした


「ここか……?」


マルクさんに教えられた住所を頼りに、私たちは街外れの工業区画へとやってきました。

そこには、煙突から黒煙を上げる無骨な石造りの工房が建っていました。

看板には『鉄と炎の工房』と書かれていますが、その文字の隅には、可愛らしい小花のイラストが彫り込まれています。


「偏屈なドワーフの名工がいると聞いていたが、意外と可愛らしい趣味だな」

「人は見かけによりませんからね(私のように)」


私は工房の重い扉をノックしました。


「ごめんくださーい。マルクさんの紹介で来ました」


ドシドシドシ……。

地響きのような足音が近づいてきます。

やがて、ギイィと扉が開き、そこには伝説の生き物が立っていました。


身長140センチほど。

しかし、その横幅は冷蔵庫のように分厚く、腕は丸太のように太い。

顔の半分を覆う立派な髭。

典型的なドワーフ族の男性――に見えましたが。


「あーん、いらっしゃい! マルクちゃんの紹介の子たちね?」


ドワーフは、太い指先を頬に当て、ウインクを飛ばしてきました。

そのエプロンには、ピンク色の糸で『LOVE & STEEL』と刺繍されています。


「……え?」


カイルさんとエレナさんが固まります。

ドワーフは気にせず、私たちを手招きしました。


「立ち話もなんだから入んなさいな。アタシはガルド。この工房の主よ。気軽に『マダム』って呼んでちょうだい」


   ◇


工房の中は、外見とは裏腹に驚くほど整頓されていました。

ハンマーやヤスリなどの道具が、サイズ順に美しく並べられ、床には鉄粉一つ落ちていません。

一流の職人の仕事場です。


「さて、要件は聞いてるわよ。『とびきり硬い素材』を持ち込んだって?」


「もう話が通っているのですか? まだマルクさんの店を出てから数十分しか経っていませんが」


私が驚くと、マダムはニヤリと笑いました。


「マルクちゃんから使いの者が飛んできたわよ。『すぐに面白いお客が行くからよろしく』ってね」

「へぇ……。さすがは敏腕商人ですね。仕事が早すぎて怖いくらいだ」


カイルさんが感心したように唸りました。

商談の直後に根回しを完了させているとは。マルクさんのコネクションと行動力は、私たちの想像以上なのかもしれません。

(これなら、今後の無理難題も安心して頼めそうですね)


マダム・ガルドは、筋肉隆々の腕組みをして、私たちを見回しました。

その目は、さっきまでの愛嬌あるものとは違い、獲物を狙う鷹のように鋭くなっていました。


「見せてごらんなさい。アタシのハートを震わせるような素材じゃなかったら、即刻お帰り願うわよ」


私はニッコリと笑い、マジックバッグから例のモノを取り出しました。

ズドン!

作業台の上に、青白く輝くアダマンタイトの塊が鎮座します。


「……ッ!」


マダムの目が大きく見開かれました。

震える手でルーペを取り出し、その表面を食い入るように見つめます。


「嘘……天然のアダマンタイト……しかも、この魔力の奔流……! あんたたち、これをどこで?」

「廃坑の主、ギガ・クイーンから剥ぎ取ってきました」

「ギガ・クイーンですって!? あの伝説級の変異種を!?」


マダムは興奮のあまり、自身の立派な髭を鷲掴みにしました。


「素晴らしいわ……! こんな極上の素材、一生に一度出会えるかどうかよ! ああ、創作意欲がビンビン湧いてくるわ!」


マダムはうっとりとアダマンタイトを撫で回しました。

どうやら、素材チェックは合格のようです。


「で? これで何を作って欲しいの?」

「彼女の鎧と、彼の剣を」


私はエレナさんとカイルさんを紹介しました。

マダムは二人をジロジロと眺め、ふむ、と鼻を鳴らしました。


「アンタたち、いい体してるわね。特にそっちの嬢ちゃん」


マダムがエレナさんの前に立ち、その肩や腕をペタペタと触診し始めました。


「骨格がしっかりしてるし、筋肉の付き方も美しい。……でも、今の鎧はダメね。無骨すぎて、アンタの『ライン』を殺してるわ」

「ラ、ライン?」

「そうよ! 防具ってのはね、ただ硬けりゃいいってもんじゃないの。着る人の体の動き、そして『美しさ』を引き立ててこそ、真の性能を発揮するのよ!」


マダムは熱く語り始めました。


「アンタみたいな長身の美女が、ただの鉄塊みたいな鎧を着てどうするの! もっとくびれを強調して、可動域を広げて、かつ絶対的な防御力を確保する……それが『機能美』ってやつよ!」

「お、おお……! なるほど、勉強になる!」


エレナさんが感銘を受けています。

確かに、彼女の今の鎧は既製品の男性用を無理やり着ているようなものでした。


「そっちのボウズもよ! 大剣使いなら、もっと『色気』のある剣を持ちなさい! ロマン砲? だったら撃つ時に一番輝くようなデザインじゃなきゃ嘘でしょ!」

「す、すげぇ……! あんた、わかってるな!」


カイルさんも目を輝かせました。

……お見それしました、マダム・ガルド。

ただの陽気なオネェ様ではありません。彼女(彼)は、強さと美しさを同義と捉える、紛れもない超一流のクリエイターなのです。


「気に入ったわ! アンタたちの装備、アタシが最高傑作に仕立て上げてあげる! 報酬はこの余った素材でいいわね?」

「ええ、構いません」


交渉成立です。

マダムは早速、エレナさんの採寸を始めようとしました。


「さあ脱ぎなさい! 全身くまなく測るわよ!」

「こ、ここでか!?」

「恥ずかしがってる場合じゃないわよ。1ミリのズレが生死を分けるのよ!」


ワイワイと騒がしい工房。

これで、二人の装備は最強のものになるでしょう。


しかし。

マダムの視線が、最後に私に向けられました。


「で、アンタはどうするの? そのペラペラのローブ、趣味じゃないけど」

「私は結構です。この服は自動修復機能がついているので」

「あらそう。でも……アンタ、なんか『歪んで』るわね」


マダムは目を細め、私の体をじっと見つめました。


「筋肉の質が異常よ。破壊と再生を繰り返したような……まるで『生きた金属』みたいだわ」

「お褒めいただき光栄です」

「褒めてないわよ、呆れてんの! ……まったく、アンタみたいな変態には、アタシの美学は通用しそうにないわね」


マダムはやれやれと肩をすくめましたが、その口元は楽しそうに笑っていました。


「でも、アンタのおかげでこの素材に出会えたのは感謝するわ。……オマケで、アンタにも何か見繕ってあげる。期待しないで待ってなさい」


こうして。

私たちは最強の職人、マダム・ガルドという強力な味方を得ました。

彼女の手によって、カイルさんとエレナさんがどう生まれ変わるのか。

そして、オマケと言われた私の装備がどうなるのか。


完成は3日後。

それまでの間、私たちはギルドへ戻り、装備の完成祝い(試し斬り)に相応しい「次なる依頼えもの」を物色することにしました。

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