第16話 新人歓迎会と、硬すぎる素材の使い道
「それでは、新生パーティ『ブレイク・スルー』の結成と、エレナさんの加入を祝って……」
「「「乾杯!!」」」
冒険者ギルド併設の酒場。
私たち3人は、ジョッキ(私は特製ミルク)をぶつけ合い、高らかに声を上げました。
「ぷはーっ! うめぇ! やっぱ一仕事終えた後の酒は格別だな!」
カイルさんが豪快にエールを煽ります。
その横で、エレナさんも上品な手つきながら、樽のような特大ジョッキを傾けていました。
「ふぅ……。悪くない味だ。騎士団にいた頃は、規律が厳しくて酒など飲めなかったからな」
「へぇ、エレナさんって元騎士様なんですか? 通りで堅苦しいわけだ」
「む、堅苦しいとは失礼な。私は常に『清く正しく美しく』をモットーにしているだけだ」
エレナさんは少し頬を染めながら言いました。
2メートル近い長身に、整った顔立ち。黙っていればモデルのような美女ですが、中身は生粋の武人(脳筋)です。
「それにしても、まさか私が冒険者になるとはな……。人生、何が起こるかわからんものだ」
「後悔していますか?」
「まさか! むしろ清々しい気分だ! 貴様らのような……その、個性的な仲間と共に、己の腕一つで道を切り拓く。これぞ求めていた冒険だ!」
エレナさんはバン! と私の背中を叩きました。
痛い。背骨が軋む音。最高です。
「ですがエレナさん、一つ問題があります」
私はミルクを置き、真剣な表情になりました。
「貴女のその鎧です。ギガ・クイーン戦で、もうボロボロではありませんか」
指摘されたエレナさんが、自身のフルプレートメイルを見下ろします。
爪で裂かれた傷跡、酸で溶けた跡、そして無理やりこじ開けた時の歪み。
もはや鉄屑寸前です。
「うっ……確かに。愛着のある鎧だったのだが、さすがに限界か」
「修理するより新調した方がいいぜ。これから俺たちが戦うのは、もっとヤバい敵なんだからな」
カイルさんの言葉に、エレナさんがふと疑問を抱いたように首を傾げました。
「ヤバい敵……? 待て、そういえば聞いていなかったな。我々の最終目標は何なのだ? Sランクを目指すとは聞いたが、その具体的な理由は?」
エレナさんのもっともな問いに、カイルさんはジョッキをドンと置き、鼻息も荒く宣言しました。
「決まってんだろ! 俺はSランクになって、名声を轟かせ、あの麗しの『聖女アリス様』にプロポーズするんだよ!!」
「は……?」
「一目惚れしたんだ! 身分違いは承知の上! だからこそ英雄になって、堂々と彼女を迎えに行く! それが俺の野望だ!」
カイルさんのあまりに直球すぎる動機に、エレナさんはポカンと口を開けて固まってしまいました。
私は(姉さんの将来の災難を思い)遠い目をしつつも、心の中で頷きました。
動機は何であれ、Sランクを目指すなら、装備もそれに見合ったものでなければなりません。
私の服(スライム製・防御力ゼロ)は優秀ですが、エレナさんには「鉄壁」でいてもらわないと、私が安心して被弾できませんからね。
「金はある。今回の報酬と、ザイードたちからの賠償金でな。だが……」
エレナさんは気を取り直して悩み顔になりました。
「私の体格に合う既製品がなかなか無くてな。オーダーメイドとなると時間がかかるし、何より素材が……」
「素材なら、ありますよ」
私はマジックバッグ(これもザイードから没収した戦利品です)から、ゴロンと巨大な塊を取り出しました。
テーブルがミシミシと悲鳴を上げます。
青白く輝く、結晶の塊。
**『アダマンタイト・ギガ・クイーンの外骨格』**です。
「おい……それ、さっきギルマスに投げてたやつじゃねえか? 勝手に持ち出していいのかよ」
カイルさんが呆れたように、しかし少し心配そうに尋ねました。
ギルドでの報告時、私は討伐の証拠として外骨格の一部を提出していましたからね。
「問題ありません。あれはあくまで『証拠品』としてのお土産。これは、私たちが倒した魔物からの正当な『ドロップアイテム』です」
私はニッコリと笑いました。
「ギルドに提出したのはほんの一部。残りの大部分は、しっかり頂戴してきました」
「世界一硬い金属の一つ、アダマンタイト。これを加工して鎧を作れば、ドラゴンのブレスだって防げる最強の防具になるはずです」
「す、素晴らしい……! これがあれば、私は不沈艦になれる!」
エレナさんの目が輝きました。
しかし、すぐにカイルさんが現実的な問題を口にします。
「でもよ、アダマンタイトだぞ? 加工できる鍛冶屋なんて、そうそういねえぞ。普通の炉じゃ溶けもしねえ」
「そうですね。並の職人では歯が立たないでしょう」
そこで、私はある人物の顔を思い出しました。
ベルンで一番頼りになる、私たちのスポンサー。
「相談に行きましょう。きっと彼なら、いい職人を知っているはずです」
◇
翌日。
私たちは行商人マルクさんの店を訪ねました。
「おお! ルシアン殿、カイル殿! それにそちらの美しい御婦人は?」
「新メンバーのエレナさんです」
マルクさんは満面の笑みで迎えてくれました。
娘のリーナちゃんもすっかり元気になったようで、店の奥から手を振ってくれています。
「Sランクを目指してパーティを結成されたとか。いやはや、お二人の活躍は街中で噂になっていますよ。『悪徳パーティを成敗した英雄』だとね」
「英雄だなんて。ただの通りすがりの変態と、それに巻き込まれた被害者たちですよ」
「変態の自覚はあったのかよ!」
「誰が被害者だ!」
カイルさんとエレナさんから同時にツッコミが入りました。
私たちは奥の応接室に通され、要件を切り出しました。
机の上に、ドン! とアダマンタイトの塊を置きます。
「……こ、これは……?」
「ギガ・クイーンの素材です。これを加工して、彼女の鎧を作りたいのですが」
マルクさんは商人らしく、即座にモノの価値を見抜きました。
ルーペを取り出し、震える手で表面を確認します。
「純度100%の天然アダマンタイト……! しかも変異種特有の魔力伝導率……! これは国宝級ですよ!」
「加工できる職人に心当たりはありませんか?」
マルクさんは腕を組み、唸りました。
「……普通の街の鍛冶屋では無理ですね。ですが」
彼は顔を上げ、ニヤリと笑いました。
「私にお任せください。この交易都市ベルンには、ドワーフの名工が隠居しているという噂があります。偏屈で有名ですが、この素材を見せれば、職人魂に火がつくかもしれません」
「ドワーフの名工!」
「ええ。私が仲介しましょう。最高の素材には、最高の職人を。それが商人の流儀ですから」
マルクさんは頼もしく請け負ってくれました。
さすがは敏腕商人。持つべきものはコネのある友人ですね。
「それと、カイル殿にも提案があります」
「俺?」
「ええ。貴方のその大剣……少々、貴方の魔力に耐えきれなくなってきているのでは?」
カイルさんがハッとして背中の大剣を見ました。
確かに、度重なる『メテオ・バスター』の負荷で、刀身には微細なヒビが入っていました。
「……ああ。だましだまし使ってたけど、そろそろ限界かもな」
「でしたら、この際です。余ったアダマンタイトで、カイル殿の剣も打ち直してもらいましょう」
「マジか!? いいのかルシアン、エレナ!」
「構わんぞ。私の鎧に使ってもまだ余る量だ」
「ええ。火力が上がれば、私が耐える時間も減りますし(それは少し残念ですが)」
こうして、私たちは次なる目的地――ドワーフの工房へと向かうことになりました。
最強の盾と、最強の剣を手に入れるために。




