第15話 悪徳パーティへの断罪は、拳骨(げんこつ)と社会的死で
「いやぁ、残念です! 彼らは勇敢でしたが、魔物の数に圧倒され……我々が助けようとした時にはもう手遅れで……!」
冒険者ギルドのカウンター。
『黒蛇』のリーダー、ザイードが大袈裟な身振り手振りで報告をしていました。
その足元には、廃坑の裏ルートから持ち出したであろう、金目の財宝が入った袋が置かれています。
「我々も命からがら逃げ出すのが精一杯でした。これは、せめてもの彼らの遺品……ではなく、ギルドへの回収品です」
「そうですか……。『新緑の風』も、あの二人組も全滅と……」
受付嬢が沈痛な面持ちで記録を取ろうとしています。
周囲の冒険者たちも、「あいつら、やっぱり無理だったか」「可哀想にな」と噂しています。
ザイードは悲しそうな顔を装っていますが、その口元は隠しきれない笑みで歪んでいました。
(へっ、チョロいもんだ。あいつらが全滅すれば死人に口なし。俺たちは財宝の一部を懐に入れ、残りをギルドに納めて評価アップだ)
「では、報酬の手続きを……」
ザイードが手を伸ばした、その時でした。
「おや、私が死んだことになっているとは。葬式にしては花が足りませんね」
ギルドの扉が蹴破られる勢いで開き、ボロボロ(私以外)の集団が入ってきました。
「なっ……!?」
ザイードが目を見開き、幽霊でも見たかのように後ずさりしました。
「お、お前ら……!? 生きて……!?」
「ええ、ピンピンしていますよ。貴方たちが『親切にも』結界で閉じ込めてくれたおかげで、アダマンタイト・ギガ・クイーンと濃厚な時間を過ごせました」
私がニッコリと笑うと、ギルド内が騒然となりました。
「ギガ・クイーンだと!? Aランク相当の変異種だぞ!」
「あいつら、それを倒して生還したのか!?」
「バ、バカな……! ありえねえ!」
「疑うのでしたら、これをご確認ください」
私は背負っていた袋から、ひときわ大きく青白く輝く物体を取り出しました。
それは、ギガ・クイーンの背中を覆っていた**『アダマンタイトの外骨格』**の一部です。
鋼鉄よりも遥かに重く、ダイヤモンドよりも硬い希少素材。
(これを加工すれば、エレナさんのボロボロになった鎧よりも数段硬い、素敵な防具が作れそうですね)
「ギルドマスター! お土産です!」
私はその重たい塊を、紙飛行機でも飛ばすような軽さで、吹き抜けになっている2階へ向かって放り投げました。
ヒュンッ!
放物線を描いて飛んだ外骨格は、2階の手すりから身を乗り出していた白髭の老人――ギルドマスターのガンツさんによって、パシッと片手で受け止められました。
「ふむ……。見事な純度のアダマンタイトじゃ。それにこの断面、相当な高熱で焼き切られとる。……『メテオ・バスター』か」
ガンツさんはニヤリと笑い、眼下のザイードを見下ろしました。
「これで討伐の事実は確定じゃな。ザイードよ」
「ひっ……! ガ、ガンツさん……!」
ザイードが狼狽えます。
そこに、怒りに燃えるカイルさんとエレナさんが歩み寄りました。
「ザイード! よくもぬけぬけと嘘を!」
「仲間を囮にして逃げた挙句、死んだことにして報酬を独占しようとはな……!」
さらに、後ろから『新緑の風』の若者たちも声を上げました。
「僕たちは見ました! ザイードさんたちが、僕らを突き飛ばして逃げるところを!」
「彼らは魔物よりタチが悪い裏切り者です!」
次々と浴びせられる告発。
ザイードの顔色が青から赤、そして土色へと変わっていきます。
しかし、彼はまだ諦めていませんでした。
「う、うるせぇ! 討伐の証拠はあるかもしれねえが、裏切りの証拠はあるのかよ!?」
ザイードは開き直りました。
「俺たちが逃げた? 違うね、戦略的撤退だ! 結果としてお前らは生きてるし、依頼も達成された。文句言われる筋合いはねえ! 俺たちにも報酬を受け取る権利があるはずだ!」
苦しい言い逃れですが、ギルドの規約上、「現場の判断」と言い張られれば、完全な犯罪として立証するのは難しいグレーゾーン。
ザイードはそれを利用して、少なくとも罰則だけは逃れようとしていました。
「……騒がしいのう」
ガンツさんが、受け取った外骨格を小脇に抱え、階段をゆっくりと降りてきました。
その一歩ごとに、ギルド内の空気が重くなるような威圧感。
「ギ、ギルマス……」
「ザイードよ。貴様の言い分はわかった。『裏切りの証拠がない』じゃったな?」
「そ、そうです! 俺たちは正当な判断を……」
ドォォォォンッ!!
轟音と共に、ザイードの横にあった頑丈な木製カウンターが粉砕されました。
ガンツさんが、拳を振り下ろしたのです。
木片が飛び散り、ザイードが腰を抜かしてへたり込みます。
「……わしの耳は地獄耳でな。『黒蛇』の悪評は以前から届いておった。だが、決定的な証人がいなくて泳がせていたんじゃが……」
ガンツさんは、私とカイルさん、そしてエレナさんを見ました。
「今回の作戦は、わしが仕組んだ『試験』じゃよ」
「し、試験……?」
「うむ。お前たちが本当に腐っているなら、必ずこの土壇場で尻尾を出すとな。そのために、あえて実力のある『特攻聖人』たちを混ぜたのじゃ」
ガンツさんの目が、猛禽類のように細められました。
「『新緑の風』の証言。そして何より、現場を見てきた彼らの言葉。これ以上の証拠が必要か?」
ガンツさんの拳から、湯気が立ち上っています。
かつて素手で城壁を砕いたという伝説の拳。
それが今、ザイードの鼻先に突きつけられています。
「ひっ……!」
「ザイード、並びに『黒蛇』のメンバー全員に告ぐ」
ガンツさんは、判決を下す裁判官のように厳かに宣言しました。
「ギルド規約第13条『著しい背信行為』に基づき、貴様らの冒険者ライセンスを即刻剥奪する」
「は、剥奪!?」
「さらに、今回の依頼で得た財宝は全て没収。加えて、過去の悪行に対する違約金として、貴様らの全財産をギルドが差し押さえる」
「そ、そんな! 俺たちが命がけで貯めた金が!」
「命がけ? 笑わせるな。他人の命を金に換えていただけだろうが」
ガンツさんのドスの効いた声に、ザイードたちは震え上がりました。
冒険者資格の剥奪。それはこの世界において、社会的信用を完全に失うことを意味します。
さらに全財産没収。
彼らに残るのは、裏切り者の烙印と、無一文の生活だけです。
「連れて行け」
ガンツさんが指を鳴らすと、屈強なギルド職員たちが現れ、抵抗するザイードたちを取り押さえました。
「待ってくれ! 悪かった! もうしねぇから!」
「エレナ! お前からも言ってくれ! 仲間だろ!?」
往生際悪く叫ぶザイードが、エレナさんに助けを求めました。
エレナさんは冷ややかな目で見下ろし、静かに告げました。
「……仲間? 私はそんな名前のゴミを知らないな」
「あがぁッ!?」
最後にエレナさんから強烈な鉄拳制裁を顔面に食らい、ザイードは白目を剥いて気絶しました。
ズルズルと引きずられていく元『黒蛇』たち。
ギルド内からは、割れんばかりの拍手と歓声が沸き起こりました。
「せいせいしたぜ!」
「さすがギルマス! 粋な裁きだ!」
ガンツさんは「ふん」と鼻を鳴らし、私たちに向き直りました。
「……さて。お前さんたちには、迷惑をかけたな」
「いいえ、素晴らしい采配でした。おかげで極上のモンスターと戦えましたから」
「(お前は黙っとれ)」
ガンツさんは苦笑し、報酬袋を二つ、カウンターに置きました。
一つは本来の依頼報酬。
もう一つは、没収した財宝の一部が含まれた特別ボーナスです。
「今回のMVPはお前たちじゃ。受け取れ」
「ありがとうございます!」
カイルさんが嬉しそうに袋を受け取ります。
そして、ガンツさんはエレナさんを見ました。
「エレナ。お前も災難じゃったな。これからどうする? パーティは解散じゃが」
エレナさんは少し考え、そして決意に満ちた目で私とカイルさんを見ました。
「……ギルドマスター。申請があります」
彼女は自身のプレートを取り出し、私たちのプレートの上に重ねました。
「私、エレナ・ガードナーは、本日付けでパーティ『特攻聖人とロマン砲(仮)』への加入を希望します!」
「ぶっ」
カイルさんが噴き出しました。
私も驚きました。
「よろしいのですか? 私たちは、貴女が思うようなまともなパーティではありませんよ?」
「構わん! 私は見たのだ。貴様らの戦いの中に、歪ではあるが、確かな『信頼』と『強さ』を!」
エレナさんは私の手を(痛いくらい強く)握りしめました。
「それに、貴様が勝手に前に出るのを止める役が必要だろう! 私が貴様の盾となり、同時に貴様の監視役となる!」
「(監視役……。新しい拘束プレイですね。悪くありません)」
「よし! ならば今日から、我々は最強のパーティだ!」
カイルさんも、頼もしい前衛が増えたことに満更でもなさそうです。
(何より、エレナさんがいれば、自分がターゲットにされる確率が減りますからね)
「承認しよう」
ガンツさんが満足げに頷き、書類にハンコを押そうとしました。
が、そこで手が止まります。
「……おい待て。いつまで『仮』なんじゃ?」
「え?」
「パーティ名じゃよ。二人ならまだしも、3人になるならちゃんとした名前を決めろ。書類に書けんだろ」
言われてみれば、私たちは正式な名前を決めていませんでした。
カイルさんが腕を組みます。
「そうだな……。俺たちは魔王を目指すんだ。Sランクにもふさわしい、かっこいい名前がいいな」
「では『苦痛の聖域』でどうでしょう」
「却下だ!! なんでパーティ名に性癖入れてんだよ!」
カイルさんとエレナさんが即座に否定しました。
エレナさんも考え込みます。
「ならば、騎士らしく『白銀の誓い』などはどうだ?」
「悪くねえけど、ルシアンが真っ黒(ローブも腹の中も)だからな……」
「むぅ」
名前が決まりません。
カイルさんが頭を抱え、そしてハッとした顔で私たちを見ました。
「……俺たちの共通点って何だ?」
「死にたがり?」
「騙されやすい?」
「違ぇよ! ……いや違くもねえけど!」
カイルさんはため息をつき、ニヤリと笑いました。
「常識外れ、ってことだろ。どんな硬い敵も、理不尽な状況も、無理やりこじ開けて進む。俺たちにぴったりな言葉があるぜ」
「ほう?」
「**『ブレイク・スルー(突破者)』**だ」
ブレイク・スルー。
限界突破。現状打破。
「……ふふ、いいですね。肉体の限界を超えて再生する私に相応しい」
「逆境を打ち砕くか。騎士道精神にも通ずるな」
「決まりだな!」
三人の意見が一致しました。
ガンツさんも「ふん、悪くない名前じゃ」と笑い、書類に力強くハンコを押しました。
「新パーティ『ブレイク・スルー』、結成じゃな。……まあ、お前らならSランクも夢ではないかもしれんの」
こうして。
悪徳パーティは裁かれ、私たちの懐は潤い、そして新たな仲間が加わりました。
重戦士エレナ。
生真面目で、堅物で、そして私と「どっちが殴られるか」を競い合うライバル。
「さあ行きましょう、エレナさん、カイルさん! いただいた報酬で、新しい服を買いに行きますよ!」
「また服かよ!」
「次はもっと露出度の高い……いえ、防御力の低い服を探さねば!」
「貴様、いい加減にしろ!」
ベルンの街に、私たちの賑やかな声が響き渡りました。
目指すSランクへの道は、まだ始まったばかりです。




