第14話 狂気と鉄壁のアンサンブル ~そして流星は輝く~
「ギシャアアアアッ!!」
カイルさんの魔力が臨界点に達しようとするのを察知したのか、ギガ・クイーンが猛り狂いました。
全身のアダマンタイト結晶を青白く発光させ、暴風のような連続攻撃を繰り出してきます。
「ぐ、ううううっ……!!」
エレナさんがハルバードを旋回させ、重い斬撃を弾きます。
彼女の防御技術は本物でした。
真正面から受ければ吹き飛ばされる衝撃を、鎧の角度と足捌きで受け流し、致命傷を避けています。
「(これが正統派のタンクですか……。美しい所作です)」
私は感心しながら、エレナさんが弾き損ねた攻撃や、死角からの酸ブレスに飛び込みました。
「はい、そっちは私です!」
ジュワッ! ドスッ!
「痛っ……最高! 酸のシャワーと爪のマッサージ、同時に来るなんて贅沢すぎます!」
「貴様……! よくその体で笑っていられるな!?」
エレナさんが驚愕しながら叫びます。
私は穴だらけになった腹を瞬時に塞ぎながら答えました。
「笑いますよ! だって、貴女がいるおかげで、私は『一番おいしい攻撃』だけを選んで受けられるのですから!」
「意味がわからん! だが……!」
エレナさんは一歩踏み込み、クイーンの足をハルバードの柄で打ち据えました。
「背後は気にするな! 私が壁になる!」
「ええ、信じていますよ!」
奇妙な信頼関係(連携)が生まれました。
物理的な衝撃はエレナさんが、搦め手や被弾覚悟の攻撃は私が。
互いの欠点を補い合う、鉄壁の布陣。
「あと10秒だ! どけよお前ら!!」
後方からカイルさんの叫び声。
大剣の輝きが太陽のように強まり、周囲の空気がビリビリと震えています。
準備完了です。
しかし。
「ギシシシッ!」
ギガ・クイーンが賢い動きを見せました。
カイルさんの攻撃が来ることを悟り、体を丸めて防御態勢に入ったのです。
頭部や腹部などの弱点を、強固なアダマンタイトの脚と甲殻で完全に覆い隠す『球体形態』。
「しまっ……! 防御態勢かよ!」
カイルさんが焦ります。
『メテオ・バスター』は強力ですが、相手はAランクのアダマンタイト。
あのように密度を高めて防御されれば、直撃しても耐えきられるか、あるいは光線が拡散して仕留めきれない可能性があります。
「チッ、あの装甲をこじ開けなきゃ、決定打にならねえぞ!」
「こじ開ける……?」
エレナさんが絶望的な顔をしました。
あの硬度は、彼女の怪力でも傷一つつきません。
ですが、私には天啓が閃きました。
こじ開ける?
ええ、簡単なことではありませんか。
「エレナさん! 私が合図をしたら、クイーンの頭を固定してください!」
「なに!? どうするつもりだ!」
「内側から『ドア』を開けてきます!」
私はスライムローブを翻し、丸まったクイーンの懐へと滑り込みました。
そして、堅く閉ざされた前脚の隙間に、自分の腕をねじ込みました。
「ギッ!?」
「失礼しますよぉぉぉッ!」
私はありったけの筋力と魔力、そして再生能力をバーストさせました。
筋肉繊維がブチブチと千切れる音。
骨がミシミシと砕ける音。
それら全てを『即時再生』で補いながら、無理やりクイーンの防御をこじ開けにかかります。
「開け……ゴマァァァッ!!」
メキョメキョメキョ……ッ!
私の狂気的な怪力に、クイーンのアダマンタイト装甲が悲鳴を上げ、わずかに開きました。
そこに見えたのは、驚愕に見開かれた黄金の複眼と、醜悪な大顎。
「今だ、エレナさん!」
「承知ッ!!」
エレナさんがハルバードを捨て、その剛腕でクイーンの頭部を鷲掴みにしました。
「ぬんんんんッ!!」
全身のバネを使ったプロレス技のようなホールド。
ギガ・クイーンが暴れますが、私とエレナさん、二人のバカ力(と私の再生する肉体)がそれを許しません。
ついに、クイーンの口が真上に向かって強制的に開かれました。
そこは装甲のない、唯一の弱点。
「カイルさん! ここへシュートしてください!」
「お前ら……マジでイカれてやがる!!」
カイルさんは最高の笑顔(と若干の引きつり)を見せ、大剣を振りかぶりました。
狙うは、私がこじ開け、エレナさんが固定した、クイーンの口腔。
「ルシアン、エレナ! 巻き込まれても知らねえぞ!」
「望むところです!」
「早く撃てバカ者がァ!!」
カイルさんが大剣を一閃させました。
「これで終わりだァッ! 『メテオ・バスター』!!」
カッッッ!!!
廃坑内が白一色に染まりました。
極太の熱線が、私の鼻先数センチを通過し、ギガ・クイーンの口内へと吸い込まれていきます。
「ギ、ギシャアアアアアア――……」
断末魔は一瞬でした。
内部から焼かれたクイーンの体が、内側から膨張し、光となって弾け飛びました。
圧倒的な熱量が、アダマンタイトの殻ごとすべてを蒸発させていきます。
私は熱線の余波で全身の皮膚を焼かれながら、エレナさんと共に爆風で吹き飛ばされました。
ドガァァァン!!
◇
数分後。
砂煙が晴れた広間には、黒い煤と、キラキラと輝くアダマンタイトの破片だけが残っていました。
ギガ・クイーンは跡形もなく消滅しています。
「……ッ、はぁ、はぁ……」
カイルさんが大剣を杖にして、フラフラと立っていました。
魔力枯渇(ガス欠)寸前です。
「か、勝った……のか……?」
「ええ、完勝です」
瓦礫の山から、黒焦げになった私が這い出しました。
全身炭化していましたが、ペリペリと焦げた皮膚が剥がれ落ち、下からツルツルの肌が現れます。
スライムローブも魔力を吸って元通り。
「ふぅ。危うく私もメテオの具材になるところでした。……惜しいことをしました」
「お前は一回死んでこい……」
カイルさんが脱力して座り込みます。
そして、私の隣で瓦礫に埋もれていたエレナさんも、ガシャンと瓦礫を退けて起き上がりました。
鎧はボロボロですが、中身は無事なようです。
「……信じられん」
彼女は消滅したクイーンの跡地を見つめ、呆然と呟きました。
「Aランク相当の怪物を、たった三人で……」
「三人じゃありませんよ」
私は指を振りました。
「カイルさんの火力、貴女の防御、そして私の耐久力。三つの要素が奇跡的に噛み合った結果です。特にエレナさん、貴女がいなければカイルさんは死んでいました」
私が手を差し出すと、エレナさんはハッとして私を見上げました。
その目から、涙がこぼれ落ちました。
「私は……役に立てたのか? 騙され、利用された愚かな私が……」
「ええ。貴女は立派な『タンク』でしたよ。……まあ、私の方が良い音をさせて殴られていましたがね」
「ふふっ……ふふふっ!」
エレナさんは泣き笑いしながら、私の手を強く握り返しました。
ガントレット越しに伝わる体温は、戦闘の熱さとは違う、確かな仲間の温もりでした。
「おーい! 生きてるかー!」
結界が解除された入り口から、『新緑の風』の若者たちが駆け寄ってきました。
彼らも無事です。
ですが、そこにいるはずの人物たちの姿がありません。
「ザイードは……『黒蛇』はどこだ!?」
エレナさんが叫びながら周囲を見回します。
しかし、彼らの姿は影も形もありませんでした。
その代わり、広間の隅にあった「裏ルート」へと続く隠し通路の扉が開け放たれており、その奥にあったはずの宝物庫が空っぽになっていました。
「逃げたか……!」
カイルさんが悔しそうに拳を地面に叩きつけました。
「あの野郎ども、俺たちが戦ってる隙に、金目のもんだけ根こそぎ持ってトンズラしやがった!」
「くっ……! どこまで腐っているんだ……!」
エレナさんが唇を噛み締め、怒りに震えます。
仲間を捨て駒にし、自分たちだけ利益を得て逃亡する。
冒険者として、いや人としてあるまじき所業です。
しかし、私は冷静に空っぽの宝物庫を見つめ、ニヤリと笑いました。
「逃がしませんよ」
私は血の付いた手で髪をかき上げました。
「彼らは大きな間違いを犯しました。私たちを敵に回したことではありません。『タンク役(私)』の楽しみを邪魔し、あまつさえ神聖な信頼を踏みにじり、仲間を騙したことです」
「ルシアン……?」
「行きましょう、皆さん。嘘と裏切りは、聖職者として最も許しがたい大罪……。逃げ場所など一つしかありません」
私は出口の方角――ギルドのある街の方角を指差しました。
「彼らは間違いなく、この成果を自分の手柄として報告し、報酬を受け取ろうとするはずです。そこで待ち構えて、徹底的に『贖罪』させてあげようではありませんか」
私の提案に、エレナさんがバキボキと拳を鳴らして頷きました。
カイルさんも、獰猛な笑みを浮かべて大剣を担ぎ直します。
さあ、クエスト完了です。
次はギルドで、人間相手の狩りの時間です。




