第13話 盾が二枚あるということは、快楽も二倍ということです
「ギシャアアアアッ!!」
アダマンタイト・ギガ・クイーンの咆哮が、ドーム状の広間に響き渡ります。
Aランク相当の怪物。
その戦闘能力は圧倒的でした。
「んっ、くぅ……! 速い、そして重い……!」
私は全身から血を吹き出しながら、クイーンの猛攻を受け止めていました。
鋭利な前脚による斬撃。
大顎による噛みつき。
そして、尾による薙ぎ払い。
それら全てを、私は顔面や腹で受け止めています。
「ルシアン! 大丈夫か!?」
「最高ですカイルさん! 骨が砕ける音がBGMのように途切れません!」
私は再生した端から破壊される快感に酔いしれていました。
ですが、戦況は楽観視できません。
ギガ・クイーンは賢い。
何度殺しても死なない私を「捕食対象外」と判断し始めたのか、視線をキョロキョロと動かし始めました。
狙いは、もっと柔らかく、殺しやすい獲物。
「ひっ、ひぃぃ……!」
広場の隅で震えている『新緑の風』の若者たちです。
彼らは腰を抜かし、逃げることもできずに固まっています。
「ギシッ!」
クイーンが私を無視し、若者たちに向かって酸のブレスを吐き出しました。
岩をも溶かす強力な溶解液です。あんなものを浴びれば、彼らは骨も残らず溶けてしまうでしょう。
「いけませんね、浮気は!」
私は地面を蹴り、酸の軌道上に飛び込みました。
ジュワアアアアッ!!
「ぐ、おおおおっ……!!」
背中で酸を受け止める私。
皮膚が焼け、肉が溶け落ちる激痛。
焼印を押されるような熱さと、神経を直接炙られる感覚。
「(ああっ、これです……! 溶解系の痛み、久しぶりですが癖になりそうです……!)」
私は恍惚の表情で膝をつきました。
『回復』をかけますが、酸の効果が持続しているため、再生が追いつきません。
一時的に動けない状態。
そこを、クイーンは見逃しませんでした。
「ギシャッ!」
クイーンが振り返り、今度は別の方角へ跳躍しました。
その先には、大剣を構えて魔力を練っているカイルさんの姿。
「しまっ……!」
カイルさんはチャージ中です。動けません。
私は酸でドロドロになった背中を治すのに忙しく、カバーに入れない。
「カイルさん、逃げ……!」
私が叫ぶより早く、クイーンのアダマンタイトの爪が、カイルさんの首を刈り取ろうと迫ります。
カイルさんの目が見開かれ、死を覚悟したその瞬間。
ガィィィィィンッ!!!
重厚な金属音が響き渡りました。
カイルさんとクイーンの間に、銀色の壁が割り込んでいたのです。
「……させんッ!!」
エレナさんでした。
彼女はフルプレートメイルを軋ませ、巨大なハルバードの柄で、クイーンの爪を受け止めていました。
「ぐ、ぅぅぅ……! な、なんて馬鹿力だ……!」
エレナさんの足元の岩盤が、圧力でひび割れます。
私のように「肉体で受けて治す」のではなく、純粋な「防御力」と「筋力」での拮抗。
ミシミシと鎧が悲鳴を上げ、ガントレットから血が滲みます。
「エ、エレナ……!?」
「遅いぞ、『ロマン砲』……!」
エレナさんは脂汗を流しながら、食いしばった歯の隙間から叫びました。
「貴様が最強の一撃を持っているなら、さっさと撃て! それまでの時間は、この私が稼ぐ!」
「お前……あいつらに騙されてたのに、なんで……!」
「騙されたからだ!」
エレナさんは吠えました。
「私は愚かだった! 悪党の口車に乗り、正義を見誤った! だがな……!」
彼女はハルバードを押し返し、クイーンの体勢をわずかに崩しました。
「目の前の仲間を守ること! それだけは、騎士として決して見誤らん!!」
その言葉に、カイルさんの瞳に火が灯りました。
迷いが消え、魔力の収束速度が一気に上がります。
「……へっ、言ってくれるじゃねえか、堅物女!」
カイルさんはニヤリと笑いました。
「なら頼むぜ! 俺の背中じゃねえ、俺の『前』をよぉ!」
「任された! その代わり、外したら承知しないぞ!」
熱い展開です。
裏切りを乗り越え、本来の役割を取り戻した女騎士と、その覚悟に応える砲台。
私はドロドロの背中をようやく完治させ、立ち上がりました。
「やれやれ。いいところを持っていかれましたね」
私は嫉妬しました。
あんな硬い爪を正面から受け止めるなんて、本来なら私の役目(ご褒美)なのに。
ですが、今の私一人では、若者たちを守りながらカイルさんを守ることはできません。
「仕方ありません。今回は『痛み分け』といきましょう」
私はスライムローブを翻し、エレナさんの隣に並びました。
「エレナさん、右は任せます。左と、あの若者たちへの攻撃は私が吸います」
「フン、指図するな変態! ……だが、助かる!」
「カイルさん、あと何秒ですか!」
「あと30秒だ! 今度は特大のを食らわせてやる!」
30秒。
Aランクの怪物を相手に、二人の盾で支え切る。
「来い、化け物! 騎士の意地を見せてやる!」
「さあクイーン、お仕置きの時間ですよ! 私の体でたっぷりと爪を研いでください!」
鋼鉄の騎士と、狂気の聖人。
二枚の盾が並び立ち、最強の矛のための時間を稼ぎ始めました。




