第98話 商人からの吉報、黄金のプレートと新たなステージ
城塞都市ヴォルテックスを出発して数日。
私たちは西の火山地帯へ向かう中継地点、砂漠の入り口にある宿場町**『オアシス・ポート』**に到着しました。
「ふぅ。ここから先は灼熱地帯か。準備を整えないとな」
カイルさんが額の汗を拭います。
火山地帯は環境そのものが過酷です。耐熱装備やポーションの補充は欠かせません。
「おや? あそこにいるのは……」
私が市場の方を指差すと、見覚えのある恰幅の良い男性が、商隊に指示を出していました。
私たちのスポンサーであり、命の恩人(お互いに)である行商人、マルクさんです。
「マルクさん!」
「おや、ルシアン殿! 皆様も!」
マルクさんは私たちに気づくと、満面の笑みで駆け寄ってきました。
「いやぁ、奇遇ですね! 私も商談でこちらに来ていたのですよ。ヴォルテックスでの活躍、風の噂で聞いておりますよ!」
「風の噂にしては早すぎませんか?」
「商人の情報網を甘く見てはいけませんよ」
マルクさんはニヤリと笑い、「立ち話もなんです、私の宿で積もる話をしましょう」と、高級宿の個室へと案内してくれました。
◇
テーブルには、この地方特産の果物や料理が並べられました。
ジュジュが目を輝かせて飛びつきます。
「改めまして……『雷鳴の塔』完全攻略、そして帝国軍撃退。本当におめでとうございます!」
マルクさんがグラスを掲げました。
「皆様に投資した私の目に狂いはなかった。今や『ブレイク・スルー』の名は、今一番勢いのあるパーティですよ」
「よせやい。俺たちはただ、目の前の壁をぶっ壊してきただけだ」
カイルさんが照れくさそうに笑います。
マルクさんは微笑ましげに頷き、そして懐から包みを取り出しました。
重厚なベルベットに包まれた、四枚の金属板。
「実は、ここでお会いしたのは偶然ではありません。ギルドマスターのガンツ殿から、これを託されましてね」
「ガンツさんから?」
マルクさんが包みを開くと、そこには眩いばかりに輝く**『黄金のプレート』**が収められていました。
「なっ……!?」
「これは……まさか」
エレナさんが息を呑みました。
青銅(Cランク)、白銀(Bランク)の次。
冒険者としての最高位の一つ手前。
『Aランク冒険者』の証。
「ギルド本部での審査の結果、貴方たちの特例昇格が正式に承認されました。本来なら本部で授与式を行うところですが、『あいつらは式典なんて嫌がるだろう』と、ガンツ殿が私に持たせてくれたのです」
「マジかよ……! 俺たちが、Aランク……!」
カイルさんが震える手で金色のプレートを手に取りました。
かつてFランクの落ちこぼれと言われ、追放された男が、ついに超一流の領域へ。
「Sランクへの挑戦権を持つ者は、最低でもAランクでなければならない。……これでようやく、スタートラインに立ったということか」
エレナさんも、感慨深げにプレートを握りしめました。
リンさんは「エレナ様とお揃いです……♡」とプレートに頬ずりしています。
「そしてルシアン殿。貴方にはこれも」
マルクさんは追加で、一枚の羊皮紙を渡してきました。
「**『危険地帯無制限通行許可証』**です。Aランク特権の一つで、国境や封鎖区域をフリーパスで通れるようになります」
「おお! 素晴らしい! これで勝手に立入禁止区域に入って怒られることもなくなりますね!」
私は歓喜しました。
Aランク。
それは名誉や報酬だけでなく、「より危険な場所(死地)」へ合法的に飛び込める権利を意味します。
ドラゴンの巣だろうが、魔王の城だろうが、このプレートがあれば「調査」という名目で突撃できるのです。
「ありがとうございます、マルクさん。最高のプレゼントです」
「いえいえ。私にとっても、Aランクパーティの専属スポンサーというのは大きな宣伝になりますから」
マルクさんは商売人らしく笑いました。
「さて、次は火山ですね。『灼熱の古龍』……伝説の怪物です。装備のメンテナンスや消耗品の補充は、私の商会で全て負担させていただきます」
「助かるぜ! 正直、旅費がカツカツだったんだ」
「遠慮なく使ってください」
マルクさんの温かい言葉に甘えつつ、私はもう一つ、重要な案件について切り出しました。
「マルクさん。ついでといってはなんですが……**『竜の涙』**について、何か情報は入っていませんか?」
教皇様から依頼された、姉さんのブラコン治療薬の材料。
希少な鉱石であることは聞いていますが、具体的な場所や特徴などの情報は少しでも欲しいところです。
「竜の涙、ですか……」
マルクさんは少し考え込み、そして真剣な表情で答えました。
「噂レベルですが、火山の火口へ向かう登山道の途中に、脇道へ逸れた『隠し洞窟』があるそうです。そこに青く輝く結晶が湧き出ているとか。ですが、そこは古龍の眷属たちが巣食う危険地帯。近づいて生きて帰った者はおりません」
「なるほど。つまり、古龍との決戦の前に、少し骨のある寄り道を楽しめるわけですね」
「ええ。まさに命懸けです」
マルクさんは心配そうに眉を寄せ、そして私たちを見回しました。
「……ルシアン殿。商会としての支援も、情報の提供も惜しみません。ですが、私からの願いは一つだけです」
「願い、ですか?」
「ええ。……必ず、生きて帰ってきてください。貴方たちはもう、自分たちだけの命ではありません。多くの人々が、その背中に希望を見ているのですから」
「……ああ。約束する」
カイルさんが力強く頷きました。
Aランクの重み。
それは単なる強さの証明ではなく、背負うものの大きさでもあります。
私たちは黄金のプレートを胸に付け替えました。
輝く金の色は、夕日に照らされてさらに眩しく光りました。
「行きましょう。新しいランク、新しいフィールド。……そして新しい激痛が私を待っています!」
「最後のがなきゃ完璧な締めなんだけどな」
私たちは笑い合い、マルクさんに見送られて宿場町を出発しました。
目指すは灼熱の火山。
Aランク冒険者『ブレイク・スルー』の、最初の仕事が始まります。




