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失踪

後半:侍女マリ視点


穏やかに晴れ渡っていた空は、瞬く間に分厚い雲に覆われた。雨が降りそうだと思ったのも束の間、豪雨と激しい雷が襲った。

雨は激しく降り注ぎ、白く煙って少し前すら見えにくい。肌にあたる雨粒が痛いほどだ。やっと建物の中に入っても、窓の近くでは会話もままならないような激しい雨音。そして、暗い空を光らせ何度も地を震わせる雷の轟音に、これは只事ではないと察する。


どうしてこんなことに。


恐怖が渦巻く中、誰も口にはしなかったが皆が一つのことを思っていた。

…四神と神子に何かがあったのだと。






四神の御所の広間は、外の轟音とは対照的に静まり返っていた。

四神はそれぞれ無表情で椅子に座っているが、今まで感じたことのない恐怖を感じる。

普段から四神の周りの世話をする使用人たちですら、重い空気に押しつぶされそうな肺で呼吸するのがやっとだった。

この麗人達の心をここまで揺さぶれるのは唯一人、彼らの神子だけだ。



その神子が、いなくなってしまったのだ。



発覚したのは、神子がいなくなった際の目撃者がいたからだ。それは、神子付きの侍女の一人であり、その侍女曰く、真っ青な顔の神子が倒れていたため介抱していた。しばらくすると落ち着いた神子は、「こんなところにはいられない。」と言い、侍女に言うことを聞くように脅して衣服を剥ぎ、それを着て使用人出口から出ていったのだと言う。


そのことが四神に伝えられると、たちまち空が暗くなり雷雨が降り注いだのだ。彼らはただ、直接その侍女と話がしたい、すぐに連れてくるようにと命じた。

そうして、今この場が設けられたのだ。



やがて証人がやってきた。


目元の涙を拭いながら入室したのは、神子付き侍女のマリという者だ。目元が赤く、相当泣き腫らしたように見える。

侍従長に促されて、神子がいなくなった時のことを再度説明し始めた。時折嗚咽を漏らしながら話すその姿は痛々しく、彼女もショックを受けている様子だ。



「神子様は、思い詰めていらっしゃいました。四神様と一緒にはいられないと。…言葉を選ばずに言わせていただきますと、嫉妬したのだそうです。」


「…嫉妬?」



この場ではじめて四神が…エンが声を発した。



「はい。四神様方は聖職者の方々を労っていますでしょう?…他のものに目をかけるのが許せないと、神子様はそうおっしゃっていました。」



マリは目元をハンカチで抑えながらそう答えた。


神子様が、そのようなことを?

集まった使用人達は、神子にそのような人間らしい一面があるのかと驚いた。

いつも穏やかに微笑む神子は、自分達とは違うような、それこそ人間離れした雰囲気に包まれている。

神子のそばにいる時間が比較的長い侍女達は、そういえば確かに最近の神子は考え込む様子が多いことを思い出していた。

それは、嫉妬のためだったのか?

神子という神聖な方でも、嫉妬して出ていくなどという年頃の娘のようなことをするのだろうか。



「神子はお前に、確かにそう言ったのか。」



再度、エンが問いかける。その表情からは何も読み取れない。



「はい。神子様は確かに私にそうおっしゃいました。」


「そうか…。」



沈黙が訪れる。

マリは再度目元をハンカチで拭い、目を開けた。


そこには、ライがいた。



「ひっ…!」



瞬きの間に目の前に現れたライに驚き、尻餅をつく。


マリを見下ろすその金色の目は、ギラギラとしながらもどこまでも冷たかった。



「イノリを見つけた。迎えに行ってくる。」



淡々とそう言い放ったライはそのまま扉の方へ一歩踏み出したかと思うと、バチリと一筋の稲妻を残し一瞬にして消えた。






……………………




咄嗟のことに、驚くことしかできない。

今、ライ様はなんと言った?あの子…イノリを見つけた?

探しに行かせた者がもう見つけたというの?いくらなんでも早すぎる。

驚きと焦りで心臓がバクバクと鳴り、落ち着けようと胸元を握りしめる。


ライ様が出ていったと思われる扉の方を見ていたが、ふと影が差して無意識にそちらを向いた。



「ひぃっ」



今度は冷たい紫色の瞳が私を見ている。それはどこまでも暗く、そこの見えない井戸を覗き込んだような根源的な恐怖を沸き起こさせた。

咄嗟に身体が強張ったが、スッと無言で掌を差し出された。


座り込んだ私が立ち上がるのを手伝っていただけるというのだろうか。

…そうよ、大丈夫。四神様は穏やかで優しい方だもの。イノリのそばに控えて、その様子を散々見てきたじゃない。


ほっと息を吐き、トウ様の白い掌に自分の手を重ねようとする。


しかし、掌同士が重なり合う方はなく、突然手首を掴みあげられ、ものすごい力で上に引っ張り上げられた。


身長の高いトウ様に片腕だけ掴まれて、足は床につかず身体は宙ぶらりんだ。

心臓が耳元にあるのではないかと思うくらいに激しく鼓動し、周りから上がった悲鳴が遠く感じる。




「よくもイノリを理解したように口がきけたものだ。」



地を這うようなトウ様の声。

はっはっと短く息をするのが精一杯で、弁明をしなければいけない口はガタガタと震えて動かない。喉が潰されたように声も出ない。



「お前、嘘をついたな。」



真っ暗な瞳に捕まった。

その瞬間、掴まれた手首に激しい痛みが走った。



「いやーーー!ああああー!!!」



激しい痛みと目にした光景に叫ぶことしかできない。


皮膚が次々に紫色に膨れ上がり、シューっと音と煙を立てて溶けていく。

叫び声を上げ、本能的に逃れようともがいて、もがいて…、自分でも訳のわからないことを口にした。



そこからの記憶は私に無い。




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