慰労
トウの手はあたたかい。大きな身体とあまり笑わないことが、民にとっては少し怖く感じるみたいだけれど、彼は穏やかであたたかい人だ。
四神に触れた時に、彼らにまとわりついていた他の誰かの気配を感じるようになってからだいぶ経つ。しかしそれに慣れることはなく、徐々に気持ち悪さが増している。
彼らにそれを気取られないように、心を動かさないようにと平静を装っているが、やはり違和感には気付かれている。
夜に目覚めた時には無意識に涙を流してしまい、それを心配させていることも心苦しい。
けれどどうしても、気持ち悪さが拭えない。
だがトウは、トウだけは、まとわりつくような気持ち悪さを感じないのだ。
四神のなかでは一番民に対して冷たく見える彼は、民に触れて彼等を労うことが少ないのだろう。他の四神と同じように民や神職者を労う義務はあるから、民と接触することはあれど、その機会は少ないのだ。
愛すべき民の気配を嫌悪することは神子として相応しくないと分かっている。ましてや、四神への態度に差があるなんてあってはならないことだ。
分かってはいるが、どうしても、落ち着けるトウの側を離れられないでいた。
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今日は多くの神職者が集まり、それを神子が労うという行事が行われていた。
各地の代表が集まり、それぞれが神に仕えるものらしい清廉な白を纏っている。
わたしも白地に金の刺繍が入ったベールを纏ってその場にいるが、とても清浄な空気だ。
この行事が執り行われるにあたり、四神からは無理をしなくて良いと言われ、行事の取り止めがやんわりと決められそうになっていた。
でも、それではいけないと思ったのだ。
四神を通して感じた気配は、この行事で集まるような神職者が大半のはずであり、また気持ち悪さを感じることが正直怖い。
だからといって拒否すれば、理由を知らない神職者達はがっかりするだろうし、神子としての務めを果たしていないことにもなる。
気持ちをしっかり持って、乗り越えよう。
わたしが神子であるために。大好きなエン、スイ、トウ、ライと一緒にいるために。
代表の挨拶が終わり、それぞれの神職者を労うこととなった。
私が座る高座の前にひとりひとり来て、感謝の言葉や祈りを述べられる。そして、差し出された手に触れ、浄化の力を流すのだ。
はじめは穏やかそうな男性だ。穏やかな目からは怖さは感じない。差し出されたシワの多い手に、ゆっくりと自分の手を重ねた。
うるさいくらいに心臓がドキドキとしたが、触れた手は暖かく、わずかに相手の力を感じる程度だった。
大丈夫、大丈夫。
自分を落ち着かせて、一連の流れを繰り返していく。私の不安や緊張を感じさせないように、穏やかな笑みを浮かべるのだ。
そうして浄化をかけ続け、何人になっただろうか。
差し出された白い手に自分の手を重ねた瞬間、その違和感に思わず顔を上げた。
この雰囲気は感じたことがある。嫌な感じはせず、むしろそれは自分に似た清浄な力。
綺麗な金髪をまとめた綺麗な女性がそこにいた。
わたしが突然目を合わせたことに、その人は戸惑いながらも柔らかく笑って返してくれた。
ハッと我に帰って浄化の力を流せば、他の聖職者達と同じように元いた場所へと戻っていく。
その後も労いを続けながら、あの綺麗な女性のことを忘れられずにいた。
この感覚は、何だろうと。