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四神と神子

この国は四柱の神を崇拝している。

絶大なる力を持った神によって安寧がもたらされ、民は豊かに暮らすことができている。それは、この国の人々が幼い頃から親や祖父母によって語り継がれ、誰もが知っている事実だ。


四神は国の中央に居を構えている。各地に建てられた教会では、神に忠誠を誓いし聖なる力を持つ者達が四神の名の元に力を行使している。


人々が知っている四神とは、


炎の神エン

深紅の髪と瞳を持つ、四神のまとめ役だ。

水の神スイ

透き通るような水色の髪と瞳。物腰が柔らかく老若男女の人気を集めていた。

雷の神ライ

金色の髪と瞳で、その気性はさながら彼が司る雷のようだと言われている。

薬の神トウ

紫の瞳は白い髪で隠されている。四神の誰よりも大きな体で、口数少ないことから恐れられることも多い。


傍に仕える者や教会の位の高いものしか滅多に目にすることは叶わないが、人々から尊敬と畏怖を集めていた。


しかし彼らは、いつの世でも常にあるものではない。四神の対になる存在がこの世に生を受けたときに目覚めるのだ。それは偏に、四神が対になる者と同じ時を過ごしたいが為だ。対になる者は“神子”と呼ばれ、四神に安寧をもたらす唯一の存在として丁重に扱われる。そして神子は、類い稀なる聖なる力の持ち主で、人々に癒しを与えもする存在だ。

四神の降臨をもって人々は神子の誕生を知り、彼らの在る時代に自分が生きていることに歓喜する。四神と神子が存在する時代は、漏れなく幸多い世になるからだ。


しかし、誰が神子かは四神でなければ見分けられない。四神と仕える者達は神子を探し、今回も出逢えた。

見初められた少女の名はイノリ。

その際の年齢はまだ10に満たなかった。故に神子としての力・器も未完成で、しばらくの間心身を育てる必要があった。

四神に見初められた日に祝福を受けただけで熱を出してしまったこともあり、四神と会うのは成長の様子をみながらとなった。


四神にとって、やっと見つけた唯一の存在と常に一緒にいたい気持ちは痛いほどあったが、大切な存在に負担をかけるのは本望ではない。

白百合の宮と呼ばれる神子のための施設で過ごし、合間に四神に会い親睦を深めた。そして、数年の訓練を経て力を確固たるものとし、神子として民の前へ紹介されることとなった。









神子の御披露目とあって、当日の民衆は熱狂的な騒ぎとなった。神子と、四神を揃って目にすることができる滅多に無い機会なのだ。


そんな外の喧騒とは対照的に、四神の住む御所の内部は静まり返っていた。

広間に白色の正装を纏った四神が揃い、神子を待つ。


御所に勤める使用人や護衛達は、仕事柄四神を目にすることが多い。しかし今日は特別な日とあって、いつもより厳かな雰囲気の麗人達を前に緊張していた。


そこへ、神子付きの侍女が二人、一礼して入室する。ついにこの時が来たと、皆が開け放たれた扉を見つめる。侍女が扉の左右にそれぞれ控えると、その後ろから神子が現れた。


細やかな刺繍が施された、踝まで隠れる真っ白なドレス。繊細なレースがあしらわれたベールからは、艶やかな長い黒髪こぼれ落ちている。

俯き加減の顔は雪のように白く、長い睫毛が頬に影を落としている。


ゆっくりと歩き、四神の前で立ち止まると顔を上げた。


容姿の美しさも然ることながら、日が昇ったばかりの朝のような清廉な雰囲気からは、神子としての器が磨かれたことが分かる。

大人びた雰囲気の中にも幼さが混じり、危うい美しさを持っていた。


やっと自分達のところへ来てくれた。


自分達が見つけてから、神子として成長するために努力してくれた。その合間に幾度か会うことはできたが、これからはいつでも会い、触れることができるところにいる。


四神を癒せるのは神子だけだ。その唯一が自分達の手の届くところにいる幸福に思わず微笑めば、愛しい神子も笑みを返してくれた。











御所の前で行われた御披露目は大盛況に終わった。

四神とは、神子とはどのような方々なのだろうかと期待に集まった信心深い者、野次馬…。様々な思いでやって来た民達は、四神と神子が登場すると皆息を飲んだ。


それこそ神の造形美としか思えない麗しい方々。神子を中心に五人が並び、日の光が後光のように思える。

その清廉な雰囲気も相まって、ここに居られるのは尊い方々なのだと、集まった皆がそう思ったのだった。


暫くの沈黙の後、歓声が沸き起こった。


彼等がいる時代に自分達も生きていることに、そしてこれから訪れるであろう幸福な世に、人々は歓喜したのだった。





____________……



御所に戻り、使用人達たちも下がり五人で過ごす。

右手をエン、左手をスイに引かれて歩き、着いたのはこれからはイノリの部屋となる場所。

そのまま寝台まで近付くと、ライがイノリの腰を引いて自分ごと寝台に座った。

そこへトウが近付き、優しい手つきでイノリの頭を撫でる。



「あの時みたいだわ。」


「うん、僕らもそう思ってる。」



こぼれた言葉にスイが優しく笑って答えてくれる。エンも、ライも、トウも優しい眼差しを向けてくれる。


かつて四神に見初められた日をなぞるような彼等の行動がくすぐったい。あの日を片時も忘れたことはなかったが、彼らもまた覚えていてくれたのだ。


両の手の甲に、頬に、額にそれぞれ口付けが落とされる。

同時に流れ込むあたたかく清らかな力に、彼等が神であることを改めて実感する。この四人に選ばれて本当に嬉しい。身も心も、この愛しい方々を受け入れられることが何より嬉しかった。



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