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怒り


降り頻る雨も、天を割いて地を震わせる雷も、四神の怒りの証である。

しかしそれと同時に、愛しい唯一を探すための手段でもあった。


スイが降らせる雨は、その雨粒が風景を反射し、世界を見る目となっていた。

ライが落とす雷は、天や地を張って、まるで手足のように世界をなぞっていた。

彼らにとって唯一の神子を探すための、神の感覚器として機能していたのだ。


そして彼らは、唯一を見つけた。




………………………




暗い室内を小さな蝋燭の火だけが照らしていた。室内には男が二人と、木箱だけがある。

木箱の蓋を開けて絨毯の上に中身を置き、それに巻かれた質素な布をゆっくり捲っていく。緊張からか、その手は震えていた。

パサリと最後の布が捲れ、その中身が顕になった。


白い陶器のような滑らかな肌、こぼれ落ちる艶やかな髪。目を閉じて規則正しく呼吸するその顔は、思っていたよりも幼く見える。

目元だけは少し赤くなっていて、これは泣いた跡だろうか。小さな鼻も、薄い唇も、その造形全てが美しい。



「…綺麗だ。」



男の一人がポツリと呟く。蝋燭の灯りに照らされた少女は危うげな美しさで、ゴクリと生唾を飲み込んだ。



「馬鹿なことは考えるなよ。中身を確認しただけだ。…しばらく地下に隠して様子を見よう。教会に知らせる手紙を用意しなくては。」



片方の男がもう一人に厳しく言うが、男の目は目の前の少女を見て離さなかった。



「……。」



静止の声が聞こえていないのか、引き寄せられるように少女の頬に手をあてようとしたその時。



バチンッ



「ぐっ……!」



少女に触れようとした男は右手を抑えて転がり、呻き声を上げた。



「おい!…」



どうした、と続けようとした言葉は喉に引っかかって出てこなかった。

自分達以外の、蝋燭に照らされた影が一つ増えていることに気付いたからだ。

どっと汗が吹き出し、心臓が早鐘を打つ。

はっはっ、と短く呼吸を繰り返し、ゆっくりと後ろを振り向いた。


先も見えないような暗闇に金色の双眸が光っている。それはまっすぐに自分を捉えていて、金縛りにあったように身体は動かず声も出ない。


男の後ろにはライが立っていた。男は後ろの人物を見た瞬間にライだと気付いたが、まるで自分の知っているライではないような様子に動揺し、また恐怖を抱いていた。

かつて遠くから見たその人は神というだけあって神聖な雰囲気に包まれていた。国を守る神というだけの存在感があった。


しかし今、目の前にいるのは本当に神なのか。


青白く見える顔は氷でできているかのように無表情でぴくりとも動かない。金色の目だけはギラギラとしていて、そこに滲むのは明らかな憎悪だ。

男は、目の前にいるのは獣で、いつ喉を食いちぎられてもおかしくないような錯覚に陥る。

男の本能が警告する。殺されてしまうと。


音もなく、ライは片足を踏み出した。その時に男ははっきりと死を覚悟した。



しかし、恐れていた瞬間は訪れなかった。



「ライ。」



眠っていたはずの神子が間に立ち、ライから男を守るように両手を広げていた。神子は優しい声音で呼びかけ続ける。



「ライ、大丈夫よ。もうやめましょう?」



相変わらず空気は張り詰めていたが、ライのギラギラと冷たく光る瞳は少しずつ穏やかさを取り戻していった。

男は、目の前の救いの神のような存在を見ていることしかできなかった。自分に背中を向けてライに向き合い、まるで自分をその小さな背で守るように立つ少女。暗い室内のはずだが、少女のまわりだけは明るいような、空気が違うような…。

この少女は偽物の神子のはず。なのにどうしてこんなにあたたかいのか。



「…殺しはしない。」



ライがポツリと呟いたかと思うと、バチリと稲妻が走った。男は痛みを感じる間もなく、視界が真っ白に染まった。




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