唯一との出会い
そこは、白を基調とした清潔な建物だ。窓から柔らかな光が差し込んだ暖かい廊下を、緊張した面持ちの職員に案内されて進む影が四つあった。
四人全員が、はやる気持ちと期待に高鳴る心を落ち着かせながら歩いていた。
職員が扉の前で立ち止まり、ノックでその先へと合図を送ると扉がゆっくり開いた。
その隙間からは楽しげな声が聞こえてくる。
開けられた扉の先を進むと、そこは木々や花々が鮮やかな中庭だ。赤いレンガの道に小さな噴水、休憩用のベンチもある。そんな可愛らしい庭でまだ幼い子ども達が遊んでいた。
職員が一礼して道を開けると、四人の青年達は並んでゆっくりと歩き出した。
ゆったりと子ども達一人一人を見て行く。
青年達を見て頬を染める子、きらきらと目を輝かせる子、きょとんと見つめる子。様々な反応があるなかで、子ども達に共通しているのは整った容姿と生まれ持った聖なる力だった。
そんな子ども達が多く遊ぶこの庭は、清らかさで満ちていた。
四人の青年達は、今日ここに、彼等にとっての唯一を探しに来たのだ。
それはこの国の一大事。故に、この場所を守る大人達はこの日、歴史的出来事を見守る者として緊張していた。
四人はゆっくりと庭を歩く。我等が唯一はどこに、と。すると突然。
「ほら、てんとう虫いたわ!」
明るい声が響き、ガサリと生け垣を揺らしてその子が現れた。
他の子ども達はママゴトや花で装飾品を作るなど、淑やかな遊びをしていたが、その子はどうやら小さな生き物を生け垣の中まで追っていたらしい。
艶やかな黒髪には葉っぱが付いてしまっていて、近くにいた子がクスクス笑いながら取ってあげている。
お転婆なその子は、可笑しそうにふふふ、と笑うと、その白い掌から捕まえたばかりのてんとう虫を地面へそっと逃がした。
その子を見て、四人の青年達は確信した。全員がその少女の前まで行くと、跪いた。
その光景に大人達はハッと息を飲む。
てんとう虫に夢中になっていた少女は、赤髪の青年に差し出された手をキョトンと見つめ、それから四人を視認すると頬を真っ赤に染めた。
ああ、可愛らしい。
この子だ。この子が我等の唯一だ。
「初めまして、我等が神子。」
差し出されたあたたかな手を、少女は受け入れた。
職員達に連れられて子ども達は庭を出ていき、中庭に残されたのは四人の青年達と一人の少女だけ。
右手は赤い髪の青年と繋いだまま、左手はそっと水色の髪の青年が握った。
三人の後ろに二人の青年が続き、光差す庭を歩く。そこに言葉は無く、聞こえるのは、柔らかい風に吹かれた植物達の擦れ合う音だけだった。
噴水の前まで行くと、後ろを歩いていた金髪の青年がおもむろに少女を膝に乗せて座った。驚いてその顔を見上げると、イタズラっぽく笑うので少女まで楽しい気持ちになって笑ってしまう。
そこへ白髪の青年が近付き、少女の髪を耳にかけるとそっと白い花を差した。
四人の青年達が手の甲に、頬に、額に、それぞれキスを落とす。蝶がとまるような、小鳥の羽で撫でられるようなくすぐったさ。それと同時にあたたかさが流れ込んできて…。
「…あったかい。」
少女は頬を染めて幸せそうに微笑むと、くったりと体の力が抜けてしまった。
「あ。」
「やり過ぎちゃった。」
まだ幼い少女に、四人の青年達…四神の力は受け止めきれなかったようだ。ほんのり赤い顔で眠るあどけない顔を見つめながら、四人は幸せに目を細めた。