第9話「選択」
明とセンパイが提案したパスタの店に行く。
「センパイってパスタ好きなの?」
歩きながら隣にいるセンパイに尋ねる。
「えーっと。めん、よく食べるからさ」
『好きなの?』と聞いたのに『好き』という言葉を使わないセンパイ。
そういえば、好きなものの話をしたときのことを思い返す。センパイは勉強が好きと言っていた。
「ここかな?」
明がスマホを見ながら信号の先にある建物を指さす。
「へ~。こんなところにあるんだ」
パスタをよく食べるセンパイも知らないところみたいだ。
信号を渡り、白を基調とした、おしゃれなパスタ屋に入っていく。幸いにも店はすいている。そしてお腹もすいている。
「いらっしゃいませ。何名様でしょうか」
丁寧に対応をしている店員さんにセンパイが人数を伝える。
窓辺にある景色の良い席に案内されると、明がため息をつく。
「どうしたの? 明」
明の表情がかたくなる。
「いや、外食なんてひさしぶりで、緊張が」
明の言葉にうなずきながら、私にメニューを渡してくる。
「でも、あこがれていたのかな。友達との外食」
かたい表情が少しゆるむ。
「んー。僕は……。カルボナーラで」
まるで話を聞いていないように注文を決めるセンパイ。
「明君は?」
メニューを明の前に差し出す。
私も何を食べるか決めなければ。メニューを端から見ていくが、どれもおいしそうだ。
「センパイのおすすめはありますか?」
「そうだなぁ。和風パスタかな」
「え! 気になる!」
そんな会話をしていると店員さんが水を出してくる。
「ごゆっくりどうぞ」
店員さんが去っていく。
「俺、たらこパスタで」
「じゃあ、注文しちゃうよ?」
「はい! お願いします!」
思わず店の雰囲気に合わない大きな声で返事をしてしまった。