第6話「必死に取り繕う」
あの二人に文化祭の提案をして何日か経ち、五月になった。僕は文化祭を企画したくて生徒会に入った。
思っていたより、生徒会のパワーバランスはそれほどでもない。あくまでも、「生徒委員会」だからだろう。
ほかの保健委員会とか、美化委員会と同じ立場だ。
通常の生徒会も動き出したが、あの二人には文化祭のことに従事するように言ってある。今日は文化祭についての話し合いという名目で二人を呼んだ。
放課後、生徒委員会室に僕が向かうと、すでに二人が待っていた。
「あ……。こんにちは」
明が気まずそうに声をかけてくる。
「うん。こんにちは」
もじもじしている彼の隣では心が、やけに笑顔で座っている。
「こいつに敬語禁止令出した。その方がいいでしょ? 感斗センパイ!」
本当に二人は仲が良いのだなと感じる。うらやましい。
「そうだね。距離感、近い方がいいし」
僕もトートバックを床に放り投げ、着席する。
「そうだねぇ。何かやりたいことある?」
二人の顔がポカーンとする。
「やりたいこと、ですか?」
心に視線を合わせる明がそう言った。
何とか、二人に近づきたい。
「そうそう。ゲームでも、おしゃべりでも」
しばらく沈黙する。考えればあの日以降、廊下ですれ違う程度の関係だった。空気が冷たく、重たくなる。
「私、好きなものとか、教えあいたいです!」
この空気感を破ったのは心だった。僕も少し驚きながら、間をつなぐ。
「いいねぇ。ちなみに僕は……」
好きなものを言おうとしたら、何も思いつかなくなってしまった。僕らしくないと思いながら、何となく言葉を続けた。
「勉強。そう、勉強が好きだな」
「勉強ですか? 夢がないですね」
ズバッと言ってくる明の隣では心がニコッと笑う。
「敬語禁止」
キッパリとそう言い放ち、明が動揺する。
「えー。だって先輩だよ? なんか上下関係とかないの?」
話題が変わったので助かった、個人的には敬語よりかはため口が嬉しい。
「タメでいいよ」
もじもじする明。目を輝かせる心。なんだかムズムズする僕。一体これからどうなるのだろう。
「うーん。勉強は好きになれないな」
キラキラした目が現実的な、ハイライトのない目に変わる。
「勉強……」
そう呟いて黙り込む明。勉強に抵抗がありそうだ。
「二人が好きなものは?」
勉強ネタは話が続かなそうなので、新しく話題提起をする。
「私は推し活が好きです!」
「私……。いや、俺はハンドメイドかな」
明がハンドメイド好きなのは少し意外だった。
「そういえば、もうパーツが無くなりそうだったな」
ぼくから視線をそらし斜め上を見る明。
「じゃあ、今度センパイも一緒に買いに行こうよ」
斜め上を向いている目が見開く。
「買いに行きたいなんて言ってない」
嫌そうに明が答える。でも、もっと距離が近づくためには……。
「いいね。また、予定確認してメッセージ送るね」
喜びがあふれている心と、無理やり同調している明。
「じゃあ。今日は解散! またメッセージ送るから」
早々に関係が歪みそうなので、今日はもう切り上げる。
「どうも」
「センパイ、またね~!」
そそくさ二人が出て行くと、僕はスマホを開く。メッセージアプリには何か月も連絡が来ないままのトーク履歴があった。
――また、壊しちゃうのかな。