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名前のない青春  作者: 梨音
文化祭の企画と過ぎる日々
6/12

第6話「必死に取り繕う」

 あの二人に文化祭の提案をして何日か経ち、五月になった。僕は文化祭を企画したくて生徒会に入った。


思っていたより、生徒会のパワーバランスはそれほどでもない。あくまでも、「生徒委員会」だからだろう。


ほかの保健委員会とか、美化委員会と同じ立場だ。


 通常の生徒会も動き出したが、あの二人には文化祭のことに従事するように言ってある。今日は文化祭についての話し合いという名目で二人を呼んだ。


 放課後、生徒委員会室に僕が向かうと、すでに二人が待っていた。


「あ……。こんにちは」


明が気まずそうに声をかけてくる。


「うん。こんにちは」


もじもじしている彼の隣では心が、やけに笑顔で座っている。


「こいつに敬語禁止令出した。その方がいいでしょ? 感斗センパイ!」


本当に二人は仲が良いのだなと感じる。うらやましい。


「そうだね。距離感、近い方がいいし」


僕もトートバックを床に放り投げ、着席する。


「そうだねぇ。何かやりたいことある?」


二人の顔がポカーンとする。


「やりたいこと、ですか?」


心に視線を合わせる明がそう言った。


 何とか、二人に近づきたい。


「そうそう。ゲームでも、おしゃべりでも」


しばらく沈黙する。考えればあの日以降、廊下ですれ違う程度の関係だった。空気が冷たく、重たくなる。


「私、好きなものとか、教えあいたいです!」


この空気感を破ったのは心だった。僕も少し驚きながら、間をつなぐ。


「いいねぇ。ちなみに僕は……」


好きなものを言おうとしたら、何も思いつかなくなってしまった。僕らしくないと思いながら、何となく言葉を続けた。


「勉強。そう、勉強が好きだな」

「勉強ですか? 夢がないですね」


ズバッと言ってくる明の隣では心がニコッと笑う。


「敬語禁止」


キッパリとそう言い放ち、明が動揺する。


「えー。だって先輩だよ? なんか上下関係とかないの?」


話題が変わったので助かった、個人的には敬語よりかはため口が嬉しい。


「タメでいいよ」


もじもじする明。目を輝かせる心。なんだかムズムズする僕。一体これからどうなるのだろう。


「うーん。勉強は好きになれないな」


キラキラした目が現実的な、ハイライトのない目に変わる。


「勉強……」


そう呟いて黙り込む明。勉強に抵抗がありそうだ。


「二人が好きなものは?」


勉強ネタは話が続かなそうなので、新しく話題提起をする。


「私は推し活が好きです!」


「私……。いや、俺はハンドメイドかな」


明がハンドメイド好きなのは少し意外だった。


「そういえば、もうパーツが無くなりそうだったな」


ぼくから視線をそらし斜め上を見る明。


「じゃあ、今度センパイも一緒に買いに行こうよ」


斜め上を向いている目が見開く。


「買いに行きたいなんて言ってない」


嫌そうに明が答える。でも、もっと距離が近づくためには……。


「いいね。また、予定確認してメッセージ送るね」


喜びがあふれている心と、無理やり同調している明。


「じゃあ。今日は解散! またメッセージ送るから」


早々に関係が歪みそうなので、今日はもう切り上げる。

「どうも」


「センパイ、またね~!」


そそくさ二人が出て行くと、僕はスマホを開く。メッセージアプリには何か月も連絡が来ないままのトーク履歴があった。


――また、壊しちゃうのかな。

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