第2話「ニマニマ」
学校に向かう。電車に乗り、学校の最寄り駅までスマホをいじる。
――さっき調べようとしたの、何だっけ。
不意に思い出した。でも、調べる内容を忘れるくらいだから、どうでもよいことだろう。気が付かなかったことにした。
最寄り駅に近づくにつれ、制服を着た人が増えてくる。
「まもなく、王林高校前、王林高校前。お出口は左側です」
電車の速度が緩やかになってくる。
ドアが開くと改札口へ足早に向かう。混雑している空間は嫌いだ。
やたらときれいな校舎の正門を通過する。
「おはよー。明」
誰かが俺をめがけて走ってくる。
「心、声でかい。恥ずかしいっていう感情無いの?」
声の正体は心だった。心と俺は中学校時代、同じクラスだったのだ。
心がニマニマしている。
「無いよ。てか、今日、生徒委員会でしょ! よろしく」
生徒会のことを、この高校での正式名称で呼んでいるのは違和感がある。
「おう。よろしく」
「明って、何組だっけ」
「三組。心は?」
表情がさらにニヤニヤする心。
「へぇー。覚えてないのかぁ」
口調がウザいので話題を変える。
「俺、教室こっちだから」
別れの挨拶のつもりだったが、そううまくいかなかった。
「私もこっちだよ~!」
「あっそ」
「教室となりだしね! まじ、よろしく!」
心の声が弾んでいる。俺にとっては、どうでもいいことだ。
「今度こそ、じゃあな」
一年三組の前で心と目を合わる。
「じゃあ。また」
心がリュックサックを肩から降ろす。