第12話「影の努力」
買い物に行った数日後、作業をするために生徒会室にこもっている。
「これが、こうなって……」
シリコンの型に流し込んだ透明な液体を光で固める。二分間、暇になる。
「このようにすれば、レジン初心者さんでも簡単に作品をつくれます」
スマホから流れる音を聞きながら暇をつぶす僕。
ライトの光が自動で消える。
「あっつ!」
思わず固まったレジンから手をはなす。
「固まったレジンは化学反応で熱くなるので……」
タイムリーな音声がうっとうしいのでスマホの電源を切る。
「うーん。できたのかなぁ?」
合っているのか分からない。次は作品にヒートンを差し込み光にあてる。
「もっと上手にならないと」
僕が小さいとき、必死に努力をすれば誰か、そばにいてくれた。頑張らない自分を認めてほしい、頑張れない自分も見てほしい。実らない努力は努力と言えないだろうか?
高校一年生の時、クラスで仲間はずれが起こった。僕は関係ないと思った。しかし、『その人』と僕が関わっていると、僕も無視されそうな気がした。
心配になってスマホでメッセージを送ったりしたが、既読もつかない。
――もしかして、僕も『その人』のことを無視していたのかもしれない。
ライトの光が消える。意識がふわりとしていた頭を再起動し、そっと作品に触れる。ヒートンにボールチェーンを通し、一応、完成だ。
「意外と、上手にできたかも」
完成品の写真を撮り、トートバックに入っているメモ帳にレシピを書き留める。
「あっ。もう出ないと」
急いで部屋を出る。
急ぎ足で廊下を歩いていると、珍しく髪を結んでいる心に出会う。
「センパイ! 偶然ですね!」
「どうしたの? もう下校の時間だよ」
「部活が終わったところです」
心が部活に入っていることを初めて知る。
「何部?」
僕が問いかけると心はスケッチブックを取り出す。
「あまり上手くないけど……」
スケッチブックを開くと、そこには学校の校舎が描かれていた。
「すご。美術部?」
「はい! まぁ、イラストの方が好きだけど」
買い物に行ったとき、心が画材コーナーに突撃していたのを思い出す。
「そっか。いいもの見せてもらったな」
照れくさそうに笑う心。
二人で下駄箱に進んでいく。