第11話「闇に触れる」
僕以外の二人が食べ終え、パスタ屋を出る。今日の目的である買い物に付き合いたい。
「おいしかったですね! センパイ!」
心が僕の顔を見る。
「そうだね。明君は、どうだった?」
食事中もほとんど口を開かなかったので問いかけてみる。
「え、普通においしかった」
……敬語が直っている!
駅からそう遠くない雑貨屋に着く。
「かわいい! 私、画材コーナー見てくる!」
あっというまに、どこかに行ってしまう心。明と取り残される。
「えっと。気にしないで、あー。レジンのとこ、行こう」
歯切れの悪いしゃべり方で明が天井の吊り下げ看板を見る。
「いつもあんな感じなの? 心さんって」
距離感を縮めたいので「川田さん」を「心さん」と呼んでみた。
「そうっすね。自由人なので、あの人」
「そっか」
レジンコーナーを見つける明。
「明君はレジンとかやるの?」
レジンを探すくらいだからきっと趣味か何かだろう。
「まぁ。やるけど、好きではない」
――好きじゃないのか!
「じゃあ、それって楽しいの? やっていて」
「つまらないですよ。昔は楽しかったけど」
僕の頭の中に『?』があふれる。
「……なんでやるの?」
つい聞いてしまった。彼にとって触れてほしくないことだろうに。
「…………カゴ、持ってくる」
明が逃げてしまった。ちょっと、深い話をしちゃったかな?
レジン製品が並んでいる棚の前でしゃがみ込む。
シリコンモールド、レジン液、UVレジン用封入パーツ……。種類がたくさんあるな、と思い立ち上がる
「すみません、お待たせしました」
カゴを手にした耳が赤い明と、商品を大量に抱えた心が現れる。
「いや~。すみませんセンパイ! ついテンション上がっちゃって」
「それ、買うの?」
あまりにも商品を抱えているのでつい言葉にしてしまった。
「買いますよ~。久しぶりのショッピングだし」
ムフフと幸せそうな心。カゴに商品を入れていく明。中途半端な僕。
雑貨屋を出ると、もう十六時だった。
「じゃあ、もう解散かな?」
二人の顔色をうかがう。
「はい! もうほんと満足です~」
いつもの笑顔で笑う心のそばでは早く帰りたそうな明がいる。
「じゃあ、また」
明が一瞬で駅に向かう。
「あぁ、行っちゃった」
駅の方面に視線を移す心。彼女の耳では水色の飾りが揺れていた。
「そういえば、耳のそれ、かわいいね」
水色の何かについて触れてみる。
「これですか?」
心が耳から何かを取り外す。
「昔、明からもらったイヤリング。きれいでしょ?」
大事そうにイヤリングを触る。
「もう、あんまりレジン、好きじゃなさそうだけどなぁ」
ぽつりとつぶやく心。イヤリングはキラキラ輝いている。僕も思わず目を奪われる。
明にとって、このイヤリングとレジンはいったい……。
「へぇー。じゃあ、今日はありがと」
「はい! また学校で」
僕はまだ寄りたいところがある。