第1話「新築の家」
――ふつうって何だろう。誰が決めているのだろう。
朝の六時半。朝日が昇り切ろうとしている空。うるさいアラーム。カーテンを突き破る日差し。……うるさいアラーム。
アラームの音にイライラしながら、スマホに手をのばす。
「もう、朝か」
スマホのアラームを切る。制服に身を包み、髪をセットする。朝食を食べに、一階に降りる。階段を踏み外さないよう慎重に下る。
「この家、階段小さすぎ」
高校への入学を機に引っ越した新築の我が家の不便さを感じる。
「おはよう。母さん」
「あら、おはよう」
母がテーブルにトーストの乗った皿を置く。
「今日、生徒会の集まりらしいじゃない」
俺はトーストにジャムを塗る。
「まぁね。でも……」
どうせ、ゆうれい生徒会メンバーになりそう。という本音をしまう。
「あなた、リーダーシップあるし、大丈夫よ」
母が俺の顔を覗き込む。
「うん。そうだね」
笑顔になる母。俺のその一言をきくと、キッチンに向かっていった。
「あーもう。なんでガスコンロにしなかったのよ」
キッチンから母の文句が聞こえてくる。
何となく、生徒会のイメージを巡らせる。
優しい先輩、意地悪な先生、次々とやってくる困難……。いや、アニメの見すぎかもしれない。こんな展開は現実にはないと考えながらも、想像に胸を膨らませる。
トーストを口に詰め込み、少し頭を休ませる。朝は動く気がしない。
トーストが乗っていた皿をキッチンのシンクに入れる。朝はトーストだけで十分だ。寝起きは食欲がない。キッチンでコンロの説明書を凝視している母を無視して、ごちそうさまと呟き、小さい階段を上がり、自室に戻る。
登校まで時間があるので、スマホでネットニュースを眺める。ふと、人間の発達についての記事が目に留まる。
「アイデンティティ……?」
用語の意味をネットで調べようとしたとき、アラームが鳴る。
それを合図にスクールバックを担いで、学校に向かう。