表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
87/110

朧Ⅳ

 闇の向こうから声が聞こえる。それは自分に向けたものだと、僕にはすぐ分かった。いつもの場所だ。埃っぽい、古い木の匂いのする、古い蔵の中のようなその空間に僕らはいた。

「お前、自分を偽ったな?」

 椅子に座った、顔の見えない男。

「なにを言ってるのか分からない。全て丸く治った、これで何も問題ないはずだ。僕は幸福だ。あとは、僕の努力次第。もうお前の出る幕はない」

 そいつは、しゃっくりでもするように引きつった声で嗤った。

「お前が本当に好いてるのは若菜じゃないだろう?」

 意味のない揺さぶり。

「僕は彼女を愛してる。それは僕にしか分からないことだ。僕が決めたことだ」

 すっと、奴を纏う空気が変わる。急激に周囲の温度が下がったように錯覚する。

「その言い草が全てを物語ってるんだよ。小賢しい。そういうのはな、()()()()()じゃあないんだよ……お前、代償行為をしたな?」

 何を言ってるのか分からない。

「何の話をしている?」

「お前が愛したのは、若菜の中の面影に過ぎない」

 見透かしたように奴は言う。でもそんな事実はない。惑わされるな。

「やめろ」

「お前はこれから、自分も、愛していると思っている者も、全てを騙して生きていく気か?」

 ……。

「かまわない、それでも。人には分相応というものがある。もちろん、若菜に僕が見合うとは思ってない。でもそれは、努力でどうにかしてみせる」

 苛立ちが伝わって来た。

「俺はそんなことは認めない、人間は欲望に忠実であるべきだ。お前はなんだかんだと言い訳をして逃げているだけだ」

 僕は逃げてなどいない。

「理をもって律するのが人間だ」

「お前の背中を押してやろう、それで事は成就する」

 消えてくれ。

「余計なことはするな。……聞いてるのか?」

 それ以上は何度呼びかけても声は返ってこなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ