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剛腕経営者:リュミエッタ⑤

『ということなのだけれど』

「なぁんですって!?」


 ばぁん! と応接室のテーブルに手を打ち付けてリュミエッタは腰を浮かす。


 ヘリヤが聞き込みから帰宅し、セリスに報告を終えた後……レオスから聞いたと前置きして話した今回の相談についての話。それはほぼほぼヘリヤが思い描いた物と合致した。


「盗賊団の解散時期とリュミエッタ嬢が事業を手伝い始めた時期が合致しますし、各所での窃盗について場当たり的な犯行でないことも確認できました……」


 テーブルの上に揃えられたお茶とクッキーのお皿を気にしながらヘリヤが補足する。

 なにせ辞めた従業員の殆どが消息不明だったのだ。

 何人かは話せたが、いずれも出産や家庭の事情でやむなく退職した者で……話を掘り下げると問題が解決した際の復職までリュミエッタは約束していた事まで判明する。


 つまり、消息不明者が元盗賊団……というかそもそも盗賊のままである可能性が非常に高いということだ。


『先日の万引き犯のお二人も元盗賊団でしたわ』

「よりにもよって……お父様を傷つけた盗賊団じゃありませんの!! なんて恥知らず!!」


 事業拡大に伴い、リュミエッタは人手を欲し招き入れたものの……その素性まではろくに調べていなかった。


『お父様もその辺りを気にされてリュミエッタさんにお話をしていたようですが……耳を貸してもらえなかったと』

「だって! ここは王都よ! 犯罪者風情がそんな簡単に入り込めないじゃない」

『だからこそ、盗賊団を解散したのですわ。表向き』


 おそらくこういうことだろう、と前置きをしてセリスが説明する。


『お父様を襲った盗賊団は貴女がお父様に代わり事業を広げることを知って、また襲おうとしたのでしょうが……大々的に繰り返して目をつけられるより人気の品が高く転売できると考えたのでしょう。リュミエッタさんの商才は確かで、短期間で急成長を遂げましたから……』


 そこからはおそらく簡単だっただろう、街に盗賊団解散の噂を流し……街に潜り込んでリュミエッタの店に新人として入る。人の配置やシフトを把握して品物の盗難ルートを見定めたら辞めて、顔が割れていない店に共有したルートや手法を使い盗みを働いた。


 そんなところではなかろうかと。


「確かに、あなた達が先日捕まえた2人は元従業員でしたわ! でも!」

『リュミエッタさん、一度従業員の皆さまを信用するためにも身元を確認する事をおすすめいたします。まだ誰がそうなのかがわかりませんので』

「そんな事したら疑われていると不快になって辞めるものも出ますわ!!」

『このままではイタチごっこになって、その内被害が増えるだけです。そうすれば真っ当な働き手の皆様も苦労されることになりますよ』


 現状、どの程度その盗賊団がリュミエッタの商会に潜り込んでいるのかはわからない。しかし、今はコソコソと盗んでいる状態だが大きな盗みに発展する可能性も少なからずある。


「リュミエッタ様」

「何よ! 侍女風情が口を挟まないで! 今は彼女と話してるのよ!」

「私の同僚であるフットマンのレオスからですが……おそらく、そう遠くない内にただの万引きから大きな強盗に発展する可能性があると推測があります。お聞きしたほうが良いかと」

「黙れって言ってるのよ!!」


 再びテーブルを叩き、恫喝するリュミエッタだが……ヘリヤは眉一つすら動かさず涼しい顔だ。

 なにせ……ヘリヤは人類最強の勇者ヘイズと戦い、その重圧を何度も経験している猛者である。


「……」


 どうします? 無理っぽいですが。

 そう目で問いかけるヘリヤに、内心ため息をつきながらもセリスは言葉を紡ぐ。


『リュミエッタさん、貴女がお店の大黒柱だと従業員の皆さんも認めています。それは短期間で貴女の商売に対する真摯さが伝わっているからだと思います……ですが』

「何よ!」

『ここは相談所です。貴女はどうにかしたいと思ってここに来ているのですよね?』

「そうよ! 当たり前じゃない」


 だから高いお金を払ったんでしょうが!! とヒステリックに声を荒げる彼女に、セリスは淡々と告げる。


『であれば、一度落ち着いて私達の話も聞いていただけませんか? 私達は貴女の部下でもなければ従う理由もないのです。このままですと申し訳ありませんがここへの出入りを禁止させていただくしかなくなりますが』

「はあ!? 何を言ってるのよ!! 良いから解決しなさいよ金払ってるのよ!?」

『ではお返しします。ヘリヤ、先日の金貨をリュミエッタ様にお返しして……』

「ふざけ……」


 リュミエッタが右手を振り上げ、セリスをひっぱたこうとした時……静かな声が響く。


 ――やめなさい。


 ガチャリ、と。

 リュミエッタが叫ぶ前に応接室のドアが開かれる。その声に、リュミエッタも思わず口を閉じて目を向けた。


 そこに立っているのは……少し小太りの中年男性。


「お父様……」

「やめるんだリュミエッタ」


 杖をついて応接室に入るリュミエッタの父に、セリスはソファーを勧める。


「ありがとうございます、セリス様。 そして……娘の非礼、大変申し訳ありません」


 座る前に頭を深々と下げる父に困惑の目を向けるリュミエッタ。何が起きているのか全然わかっていない様子だった。


『いいえ、気にしておりませんから。どうぞお座りになってくださいませ。ヘリヤ、メイにお願いして紅茶とクッキーを』

「ご安心を、メイ?」


 ――はいっ!


 開いたままのドアから聞こえる声に、ヘリヤがフフンと胸を張る。そのままぱたぱたとキッチンへ向かう足音が響いた。


『あら……言うまでもなかったのね。助かるわ』

「多分控えていると思いました」

『いい子ね、メイは』

「鍛えがいがあります」


 程なくしてワゴンに載せられた紅茶とクッキーと共に戻ってきたメイがテーブルに並べる。

 リュミエッタの冷めた紅茶も一旦下げて、新しいものに変えて……その気遣いにリュミエッタの父は改めてお礼を述べてようやく座った。


「リュミエッタ、座りなさい」


 呆然として立ったままのリュミエッタに声を掛ける父親は、硬い声だった。


「なんでお父様が……」

「私が頼んだ……いや、相談したのだ。お前について」

「だから、なんで……」

「心配だからだ」

「なによ、ちゃんとお店は繁盛してるわ」


 目を泳がせてソファーに座り直すリュミエッタに、疲れたような声で返す父親。

 

「そういうことではないのだ。今のセリス様とのやり取りを見ていて私は肝が冷えた……言うことがあるだろう?」

「無いわ、私は悪くない……お金の分働くのは当たり前のことよ。その分のお金は払っている」

「そこだ、そこが心配なのだ私は」


 そういう父親に、リュミエッタはようやく視線をちゃんと向ける。少し白髪が増えた髪に……こんなに小さかったっけ? と思えるほどこじんまりとした背中。


『どうぞ、冷めない内に』


 セリスは湯気を立てる紅茶を二人に勧め、静かに見守る。


「ありがとうございます。リュミエッタ、いつからお前はそんなに偉くなったんだい?」

「……」

「商売でいちばん大切なのはお金、そのお金は自分たちの暮らしを良くするためであって他人を使役するためのものではない。そう教えたはずだ……なのに、いつからお前はお金を他人に言うことを聞かせるための道具にしてしまったんだい?」


 静かに、通る声でリュミエッタに問いかける。

 その言葉に、リュミエッタは拳を握り……震え始めた。


「商売をするお前は確かに優秀だ。しかし、その分普段はそんなにも攻撃的になっていった……お金を出したものが神だとでも言うのかい? 権力を得るそんなことに使うお金ではないのだよ」

「だって……」

「言いたいことは山ほどあるが、まずはセリス様。強盗の計画についてお聞かせいただけませんか?」


 こくり、と首を下げ。セリスは詳細を話し始める。


『まずは、ヘリヤが捕まえた二人組から衛兵の方が取り調べた結果ですが。どうやら売上を盗む計画があるみたいです……品物を盗んで売りさばくのは衛兵の目を中心街から遠ざけるつもりだったようで、計画の第一段階だという話ですわ』

「なるほど、だからオーダーメイドや高級店では被害がないのですね……こちらがここ半年でその店で辞めた者のリストと、現在の所在についてです」


 綺麗に纏められたリストをリュミエッタの父より受取り、セリスは目を通す。

 ほぼ全員が現在街に住んでいて、現状も確認できていた。

 しかし、予想通り数人だけ記載されている住所には誰も住んでおらず。一人は別な人物が長く住んでいる事が判明した。


『多分この人が盗賊団の人だと思いますわ。所在が確かな人たちはちゃんと理由がお有りでお辞めになられたのですよね?』

「はい、それぞれ確認いたしました」

『では……ここ半年で同じ様に辞めた方たちのリストを作って衛兵の詰め所と盗賊討伐について騎士団の方へ取り繋ぎましょう……』

「そうですね、念の為明日から信を置ける従業員だけを集めて話し合い、売上の保管場所を変えることにします」


 時折、リュミエッタが声を上げようとするのを父親に遮られ不満そうにしているが。セリスは一旦見ないことにして話を進める。相談内容から派生した問題の解決がまずは優先事項だと思うからだ。


『でしたら一時的にではございますが、当事務所の保管庫をご提供できますよ。警護についてはヘリヤもおりますから』

「ご配慮いただきありがとうございます」

『早く捕まる事、お祈り申し上げますわ』


 本当に心からそう思うセリス、このままでは離職の話どころではないからだ。


「はい、では早速……しかし……この紅茶はいい香りですね」

『ふふ、リュミエッタさんのお店で購入したものですわ』

「本当に商才については文句がないのですが……」


 はあ、とため息交じりに苦笑いを浮かべる父親にヘリヤは苦労してそうだなぁと脇に控えたまま思う。

 なにせずーーっとしかめっ面のリュミエッタなのだ。

 雑談に移ったヘリヤと父親の会話に興味など無い、と言わんばかりにソワソワして行動を起こそうをしている。


 結局、クッキーと紅茶を全て食べ終えた父親が引きずるような形でリュミエッタをつれていき……後味の悪いままこの件は幕を降ろすかに見えた。

代表作

『長女は家族を養いたい! ~凍死から始まるお仕事冒険記~』

 不憫可愛い3きょうだいのドタバタ冒険記、魔法も機械、銃と刀が大活躍の……はず♪

 https://ncode.syosetu.com/n2370gt/


最近完結した連載作品

『最強暗部の隠居生活 〜金髪幼妻、時々、不穏〜』

 だいぶ間の抜けた元最強の暗部なのに性格破綻者ならぬ「生活破綻者」のお爺ちゃんと大正時代には珍しい金髪眼鏡のロリ巨乳なヒロインの冒険活劇。

 https://ncode.syosetu.com/n9707il/


 コメディ色強めの作品を良く書いてます。

 面白かったらお気軽にいいね、評価や感想などもらえたら嬉しいです~(*´ω`*)

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