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八年目 オールスター

この物語はフィクションです。実際の団体、個人などとは一切関係がありません。

また、連載小説という形態をとっていますが、作者は気まぐれなため続くかは未定です。もしも楽しみにしていてくださる方がいらっしゃいましたら、申し訳ありません。

 七月四日。朝方に着信があった。発信先を見ると、球団からだ。

 「はい、もしもし」

 もしかして、契約に関する重大な話ではないか、という不安を覚えながら電話に出る。

 「あ、斎藤選手、おはようございます。朝からすみません。大事なお話がありまして…」

 やっぱり、自分が何かやらかしたんだろうか。何もやった覚えはないが、自分が意識していないだけで、球団に誰かから訴えが言ったのかもしれない。

 「いったい何でしょうか」

 居ても立ってもいられず、自分から訊ねる。

 「今シーズンのオールスター、斎藤選手の出場が決まりました」

 「え?」

 そういえば、今シーズンのオールスターの出場選手の発表は、ファン投票、選手間投票の発表こそあったが、監督推薦の選手がまだだった。ということはつまり

 「監督推薦で斎藤選手が選ばれたんですよ」

ということだ。嬉しい、という感情が湧きたってくることはなく、ただ唖然とした。

 「良いんですか、自分なんかが…」

 「そんなこと言わないでください。年に一度の舞台に立てるんですから」

 「はい、ありがとうございます」

 まさか自分がオールスターとは。打率はそこそこ残せているが、レギュラーとしては初めてのシーズン。ホームランを次々と打つような才能もない自分は、ハッキリ言って地味寄りの選手だと思う。そんな自分が、オールスター選手か。

 二軍のフレッシュオールスターに呼ばれたことはある。確か四年目のことで、あの時も、一軍の試合じゃないかと思うほどに、相当の盛り上がりを見せていたことは覚えている。それが、一軍のものとなったらどうなってしまうのか。期待が膨らんだ。

 七月十五日。オールスター一試合目。開催地は東日とうにちシャークスの本拠地である頭張とうばりドーム。試合の一時間前から開場となって、観客が雪崩れ込んできた。いつもの試合とは勢いが違う。多様な色のレプリカユニフォームを着た人々が、次々と自分の取った席に座っていく様は壮観である。

 その様子に見惚れていると、横からカメラのレンズが視界に入ってきた。

 「斎藤選手、どうですか?初めてのこの雰囲気」

 カメラを手にして話しかけてきたのは、ディアーズの広報の方だった。この舞台には各球団から選ばれた選手だけでなく、広報やスタッフに至るまで、各方面の人物が集う。シーズン中、争い合っているチーム同士だが、この場では和やかな雰囲気で交流している。

 「いやぁ。楽しいですね」

 素直な感想を言った。これだけ野球が好きな人が集まる、というのが楽しくて堪らない。

 「今日は出られそうですか?」

 「どうでしょうね。まだ聞いてないんで分からないですけれど、スタメンではないみたいです」

 ちょっと、嫌味たらしくなってしまっただろうか。まあ、少なくとも自分のような立場の選手が二試合ともスタメンということはないだろう。

 ロッカールームでスタメンの読み上げと声出しが終わり、いよいよ「夢の舞台」が始まる。

 一回の表。ナショナル・リーグのトップバッターはドラゴンズの上田うえださん。いきなりのフルスイングでヘルメットを飛ばし、球場を盛り上げる。

 対する投手のホークス、自分と同い年の畠山はたけやまもストレートで応える。最初からエンジン全開の白熱した、それでいてオールスターらしい勝負に球場は湧きあがった。

 その後、上田さんは三球目を高く打ち上げてキャッチャーファールフライ。二番のオリオンズ・工藤くどうさんは詰まったファーストゴロ。三番のギガンツ・岡本おかもとさんはレフト前ヒットで出るも、四番のオリオンズ・吉田よしださんは思い切り振ってセカンドライナー。

 裏に入って、バッツの先発、すがさんが、いつものように小走りでマウンドに上がる。

 グランド・リーグのトップバッターは蝦原えびはら。新進気鋭のスピードスターと呼ばれる選手。バットを短く持って、当てに来る。菅さんはそれを感じ取って、技巧派左腕らしくコントロールと緩急で攻めていく。カットが外角ビタビタに決まって三振でワンアウト。続くメッツの田村たむらさん、バファローズの中島なかしまさんと、凡打に抑えた。

 試合が動いたのは五回の裏。六番に入ったシャークスの新島にいじまさんがライト、ポール際にソロを放った。地元シャークスの選手の本塁打に球場は大きな歓声が沸く。その後も攻撃の手は止まらずに、先の本塁打を含めて五連打で0‐3となった。

 七回に入って、表のナリーグの攻撃。ここまで散発の六安打。中々、安打が得点に繋がらずに、ここまで来てしまった。流れを変えるためか、ここで代打を宣告する。代打はチームメイトの橋本はしもとさんだ。自分が三年目、二軍で打撃の助言を仰いだこともあるバッツのミスターフルスイング。今季は2割7分を超える打率に、18本の本塁打を放っている。

 初球は高めのをファウルチップ。相手投手のやなぎも遠慮せずに、力の籠ったストレートで応戦している。

 二球目も、高めのストレート。結果は三塁方向へのファウル。157km/hという球速が場内に表示された瞬間、歓声が上がる。それも当然で、この数字は柳の自己最速記録を更新する一球だったからだ。地元のシャークスファンも、大いに喜んだだろう。それに対して、橋本さんは笑みをこぼしながらも、悔しそうだった。

 三球目、四球目もストレートを捉えさせない。力がぶつかり合う勝負に、球場のボルテージが上がっていく。

 五球目、柳が投じた渾身のストレートは、やや甘めに入った。橋本さんも、力量のあるバッターだ。これを逃しはしない。捉えた打球は流し打ち、レフト方向。良い角度の鋭い当たりだが、ラインドライブがかかっている。全力疾走する橋本さん。切れていく打球、レフトが追いかける。飛び込む。グラブの僅か先を、打球がかすめた。インプレー。橋本さんはボールが返ってくるまでに余裕があったものの、二塁にヘッドスライディングをした。ベンチを、球場を盛り上げるためのアピールだった。そしてベンチに振り返ると、笑顔で両手を大きく振り上げて「やったぞ!」というジェスチャーをする。これで盛り上がらないはずがない。ナリーグの選手は全員身を乗り出して、橋本さんを激賞した。

 その後、ナ・リーグの選手は九番・笹野ささののセーフティーが成功して一三塁。一番に帰って上田さんが、しぶとく一二塁間を破るヒットで一点返し、1‐3。

 尚も一三塁。二番に途中から入っている神谷かみやさんがピッチャー返しを放って、ショートが処理する間に三塁ランナーの笹野が生還してこれで一点差。2‐3。

 ワンアウト二塁。バッターは三番の岡本さん。柳が投じた初球。甘く入ったカットボールだった。振り抜いたと思ったら、あっという間にスタンドへ。ナリーグ側のスタンドが、揺れた。

 帰ってきた岡本さんとのハイタッチ。皆が笑顔の中、自分もその中に加わる。

 「ヨイショー!」

 という声と共に交わされたハイタッチは、少し痛かった。そして、岡本さん特有のホームランパフォーマンスをスタンドのファンも一緒にやる瞬間。この一体感は、野球が好きな人間には堪らない。

 試合はそのまま、4‐3でナリーグが勝利した。ヒーローはもちろん岡本さん。今日は出番がなかったが、明日は確実に出番がある。自分も、あのお立ち台に立ってみたい。ベンチからインタビューの様子を見ながら、そう思った。

 翌日。舞台は変わって地方にある県営球場。試合前のスタメン発表。自分は八番だった。

 試合前のミーティングは、ロッカールームではなく、グラウンドに出て円陣を組んで行った。今回監督を務めるギガンツの田上たのうえさん曰く「敢えてそうした」そうだ。

 この祭典の雰囲気を、目一杯、選手にも味わって貰おうという配慮だった。

 試合が始まる。今日は、昨日のバランスが取れた試合という様相から一変、乱打戦の様相を呈していた。両翼91mという球場の狭さも相まって、初回、表のグリーグの攻撃からヒットの嵐。六安打四得点でいきなり4‐0。

 しかしナリーグも負けてはいない。昨日に続き、一番としてスタメンに座った上田さんがセンター前を放つと、その勢いのまま吉田さん、岡本さん、ロズウェルとヒットが続き、4‐2。カスティーヨの犠飛、工藤さんの三振を挟んで、神谷さんがライト前。ツーアウト一二塁で、早速打席が回ってくる。

 サークルから打席に向かおうとしたとき、ベンチから

 「いったれ二人目の四番打者!」

と野次が飛んだ。確かに、これだけのバッターが集う環境なら、八番という打順はそんな意味合いも持っているかもしれない。

 (四番ってタイプじゃないんだけれどなぁ)

 そう思いながら苦笑する。

 自分が打席に向かう途中から、スタンドの応援団は、バッツのチャンステーマを鳴らし始める。普段は集中していて、試合中は耳に入らない応援歌。今日はお祭りだという空気から緊張が解れ、聞く余裕を持てていた。ネット上の音源でしか聞いたことがないが、現場でこうして身に浴びると、迫力に圧倒されそうになる。応援歌を始めてじっくりと聞いて、気分が高揚したせいだろうか。自然と「良いところを見せたい」という気持ちが込み上げてきた。

 右打席、いつものルーティーン。相手投手はベアーズの萩本はぎもと

 (初球から振ってやる)

 その意気込みで迎えた初球。外に外れるスライダー。最初から振ろうと決めていたから振っていったが、バットに掠りもしそうにない所をボールが通過した。今のは振っちゃいけないボールだった。シーズン中だったらコーチに反省を促されるような、そんなボール。オールスターだから許されるような空振り。バランスを崩して左バッターボックスの側に倒れこんだ。

 気を取り直して、二球目。さっきの豪快な空振りで、もう「良いところを見せよう」という雑念は消え失せた。自分は「ユーモア」や「ユニークさ」といったもの無しに、真面目に野球をやってきた人間なのだから、ここでも、真面目に打撃をするべきである。

 振りかぶって、投げられたボール。一瞬、どこに行ったか分からなかった。自分の頭より上。大きな弧を描いてゆっくりと、こちらに向かって来る白球。俗にいう、超スローボール。しかもなかなか良いところに来ている。体が反応した。バットを振る。

 (あ、やばっ)

 打った感触は良くない。確実に上っ面を叩いている。飛んで行った打球は、ボテボテのゴロ。ただ飛んだ場所は三遊間。間に合うかもしれない。打った瞬間に急いで一塁に向かった。打球を見る。ショートが飛びつく。湧き上がる歓声。

 記念すべきオールスター初打席はレフト前ヒットだった。一塁塁上で笑いながら、コーチャーとして入っていた桐敷きりしきさんとグータッチをする。

 「よく打ったな、今の」

 「いや、つい手が出ちゃって」

 これでランナー満塁。スタンドが盛り上がる中、打席には九番の鎌田かまたさん。期待が高まる中の初球。打球はサード正面のゴロだった。

 それでも、初回から見所は作れた。その中の一員になれたのは、大きな喜びとなった。

 その後、試合前に行われるホームランダービーような展開となった。

 三回裏のエレファンツ・山下やましたさんのツーラン。直後、五回表のロズウェル、カスティーヨの助っ人揃い踏み。六回裏の大城おおしろさんのソロからの、八回の神谷さんのラッキーパンチに至るまで。その中で、自分は最後まで出て五打数二安打。大舞台で結果を残せた、と言えそうだ。

 試合は7‐9でグ・リーグの勝利。これだけの乱打戦、見ていたファンも、きっと楽しかっただろうと思う。

 自分は職業野球人だ。だが、こういった野球本来の楽しさを、忘れてはいけない。今後も、いや一生野球を続けるにあたって、このオールスターで、とても重要な感覚を教えてもらった気がする。

八年目

 392打席353打数97安打 .275 3本 42打点(一軍)

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