1.監督不行き届き
「あぁぁあ、また上手くいかなかったぁーー!もうさいあぐーーー」
赤ちょうちんの下で、酒をあおっているのはひとりの女神。
見かねた屋台の親父が、おでんの玉子をそっと差し出す。
「あんたまた失敗したのか、これでえーと、8回目か?」
「うん、また修正できなかったよぉ。ひっぐ、次で9回目、最後のチャンス。このままだと監督不行き届きで女神クビになっちゃうぅぅ」
「なんだい。あんたも監督かい?9回のピンチなら相談にのるぜ」
横にいた、野球帽を深くかぶった酔っ払いが声をかける。
「ありがとー!!うちね、世界崩壊のカギを握る9人の男の子たちがいてぇ、その子たちの心をひとつにしないといけないの。いろんなタイプの女の子を送り込んでみたんだけど、見向きもしなくってぇ。十代のガラスの少年って難しいぃ!!おっさん、誰かいい子知らない?」
女神が真っ赤な顔で野球帽のおやじの肩をつかみ、ガクガク揺らす。
「9人か…いい数だ」
「はぇ?」
「俺の世界に、いいやつがいるぞ」
「ほんと?」
「あぁ、リーダーシップがあって、情熱も才能もある逸材だ!ヒック」
「素敵~」
「これも何かの縁だ、助っ人に貸してやろうか」
「是非!」
がっちり握手をかわす女神と野球帽の酔っ払い同盟に、屋台のおやじはやれやれと肩をすくめた。
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「というわけで、どっかの神様お墨付きの魂に、美の恩恵を授けて、最強の美少女をつくったわけよ」
「適当だなおい。ってまさか……それがワタシ?」
「いや、ちがうけど」
「ちがうのかよ!!!」
思わずつっこむ。
バスの中でウトウトしていたら、突然、目の前に女神のような美しい人が現れた。
妹がよく読んでいる転生もののチュートリアルのようだが、どうも様子がおかしい。
「じゃあもう帰りますんで」
「待って待って。あなたにはその子のサポート役として、ハーレムエンドへ向けて協力してほしいのよ」
「要は9股ビッチの手伝いってことですよね?無理無理」
そんな役目は全力でお断りである。
「予定ならとっくに王子に接触できているはずなんだけど、全然そんな気配がなくって」
女神はこのままでは下町のシンデレラ計画が、など、ぶつくさ呟いている。
「自分は恋愛経験もないし、ほかの人に当たってください」
「適材適所ってやつよ。シンデレラの魔法使いになってちょうだい」
「無事に終わったらちゃんと帰してあげるから」
「失敗したら?」
にっこり笑う女神を最後に、視界が暗転した。