【第1話】『 恋と雪 』
1.花束の約束 【第0章】- The flower of life - 〈第1話〉『 恋と雪 』
朝のアラームが部屋全体に鳴り響く。
僕の手はスパッとアラームのスイッチを押し、隣に置いてあるスマホを手に取って時間を確認した。
「今日はじゅうにがつむいかの七時‥‥‥ふぁ〜!!」
大きくあくびをしながら僕はゆっくりと体を起こした。
「よし!!行動開始だっ!!」
そう言ってベットから起きると、顔を洗い、作り置きのご飯を食べて、学校指定のジャージに着替えた。
そして昨日用意しておいたキャリーケースとリュックサックを背負い、玄関のドアを開けた。
「行ってきます!」
僕は特別に朝からテンションが高い。
いつものように学校へ登校するのだが、今日は僕の心がウキウキだった。
今日は僕ら高校生が待ちに待った、“修学旅行”!!
だからジャージに着替えてキャリーケースにリュックサックを背負っている。
僕の登校は基本的に自転車通学だが、この日は特別に電車を利用した。荷物が多いからね。
外見は普段通りを装い、心の中では楽しみで仕方がないくらいにワクワクしている。
学校に着くと同級生達は体操服のまま校庭に集まっていた。
普段はお目にかかれない大きなバスが何台も学校内に入っていく。
そういえば僕の学校はこの辺りでも有名なくらい生徒数の多い高校だった。
ブロロロロロロロロロロ
軽く朝礼を終えると学生達は一斉にバスへと乗り始める。
「今日どこ行く?」とか「ホテル着いたらトランプしようぜ!」とか様々な声が聞こえてくる。
修学旅行に前向きな人、後ろ向きな人、学校には色んな人達が居る。眠そうな奴に、張り切ってる奴、女子は女子でキャピキャピしているし、男子は男子で楽しそうだ。僕らの学校はこれから京都に行く予定である!!
「バスが到着したクラスから各班毎に大きい荷物をバスの中へ入れなさい。小さい荷物は座席に持ち込んでもいいが邪魔にならないよう工夫するんだぞ〜。」
先生の指示を片耳で聞きつつ、僕らはワクワクしながらバスを待った。
「おっは〜、知束〜。スピースピー」
「あ、知束くん。おはようございます!」
同じ陸上部のチコと歩夢が僕に話しかけた。
にしてもチコは昨日寝られなかったのだろうか?鼻提灯しながら歩いている。
「おはよう。チコ大丈夫?昨日の筋肉痛がまだ治らないの?」
「ばり眠いぞぉ〜、ずっと今日はバスの中で寝てr‥‥‥グゥー」
「あ、あはは‥‥‥」
彼は立ったまま寝てしまった。
チコとは昨日、陸上部の練習で僕と一緒に練習していたから凄く疲れているみたいだ。そっとしておいてあげよう。
「歩夢は朝から元気そうだね。」
「そうかな?僕はいつもと変わらないよ。」
「そんな事ないよ。さっきから顔が綻んでる。と言うか少しニヤニヤしてる気がする。修学旅行で東雲さんに告白するから?」
「ちょ‥‥‥!知束、そんな事ここで言わないでよ!!他の人に聞かれたらどうするんだ!」
「ごめんごめん。少しからかっただけ」
そう、歩夢は恋に落ちているんだ。
同じクラスの東雲さん。彼女は美人で、知的で、とっても綺麗な人。
「ち、知束も櫻井さんに告白するんでしょ?」
「え、僕?そんなわけ‥‥」
「分かってるって、幼馴染みであんなに仲良さそうにしてるんだから皆んな気づいてる。僕は応援してるから。」
歩夢は何を言ってるんだろう‥‥‥!!
別に僕は恋なんてしていないし。幼馴染の櫻井椎菜の事なんて恋愛的な目で見た事ないし‥‥‥。
けど、まぁ、応援してるって言われて悪い気はしないかもな‥‥‥。
この修学旅行で僕と椎菜がつ‥‥つき‥‥‥付き合ったりとかしたら、まぁ嬉しくない事もないだろうからね‥‥‥。
「うん。あ、ありがと。」
「うん。じゃあチコ連れて先にバス乗っとくね。」
「わかった。またバスでね。」
そう言って歩夢は半分寝ているチコを連れて先にバスへと乗り込んだ。
僕は恋なんてしていない。恋なんて。
きっと、多分、絶対にこの感情は“恋”ではない。と思う。
僕の脳裏にそんな言葉が浮かぶ。その時だった。
「知束くん!」
黄色い澄んだハイトーン響く声で僕の名前を呼ぶ声が後ろから聞こえてきた。
「知束くん、おはよう。」
「‥‥‥あ、あぁ、おはよう。」
その正体は櫻井椎菜だった。
僕の頭の中には、さっきまでの歩夢との会話が残っていた。「知束も櫻井さんに告白するんでしょ?」って、そんな事言われたら、なんだか無性に意識してしまう‥‥。
椎菜は僕にとって友達。
だから、“好きだ”なんて‥‥。
「今日は寒いね。」
「確かに。もう冬になってきたのかな?」
「って事は、もうすぐ冬の大会?」
「まぁ、そろそろかな。」
「夏の大会が終わってすぐだよね。知束くんちゃんと寝れてる?」
「うん、昨日も7時間くらい睡眠したよ!アスリートにとって食事と睡眠は大切だからね。」
「ふふふ、なんだかすっかり陸上部のエースだね。」
「‥‥‥え?」
「だって夏の大会では知束くんが居たから優勝できたでしょ?」
「‥‥いや、そんな事ないよ。義也も頑張ってたし。」
自分でも照れ隠しが見え隠れしている‥‥。
なんだか変な感じだ。さっきから物凄い勢いで心臓の鼓動が聞こえる。
まさか部活の時に見ていてくれたなんて思っても居なかった。気がつけば無意識的に顔を自分の身につけていたマフラーで隠していた。
僕はどうやら想像以上に照れているみたいだ。
「楽しみだね。修学旅行!!」
椎奈は笑顔で僕にそう言った。
「う‥‥うん。そうだね。」
僕はさっきから何故か椎奈の顔が見れなかった。
心臓がずっと音を立てている。これが恋なのか。僕はやっぱり、椎菜の事が‥‥好きなのか‥‥。
「もしかしてあんまり好きじゃない??」
「えっ?!何が?!好き‥‥?!」
僕は思わず“好き”という単語に驚いてしまった。
変に声が裏返って凄く焦る。今の僕の声はきっと気持ち悪かったんだろうな〜と思った。
「んーん、これから京都に行くんだよ?でも知束くんそんなに楽しそうじゃ無いからもしかして嫌いなのかなって‥‥‥。」
「あ、ごめん。僕もすっごく楽しみだよ!」
「もしかして、私と班なのが嫌だった‥‥?」
椎菜は下を向いたまま僕に尋ねる。
僕としては椎菜や義也、孝徳にマヤちゃんと、いつものメンツで修学旅行に行けるのが嬉しかった。
高校入学してから僕達はいつも一緒に過ごしている。
椎菜と義也とは幼馴染みだし、それに僕達はお互いの事を自分以上に良く知っている気がするんだ。
「そんな事ないよ。僕は皆んなと班になれてとっても嬉しいんだ。今日だってすっごく楽しみだったんだから!」
「‥‥‥ほんと。」
「うん!僕さ、京都に着いたら行きたい所があるんだ。清水寺とか金閣寺とか〜。あと八ツ橋食べてみたいし映画村も行きたい。孝徳にお侍さんの格好させたらノリノリだと思うし!」
「あー!わかる!!マヤちゃんも浴衣着てみたいって言ってた!」
「そしたら義也にも着せないとね〜!」
「義也君、多分嫌がると思うよ〜?」
「それはそれできっと面白いから!」
そう言って僕達はクスクス笑っていた。
今、僕の心の中にある感情が一体何なのかはまだ分からないけど、これから1週間楽しい事だらけの修学旅行が始まるんだ!
そう考えると僕はワクワクを抑えられなかった。
「僕、本当に楽しみだったんだ。修学旅行。初めてだしさ。」
「知束くん、修学旅行の日いつも休んでたもんね。」
「そうそう。いつも‥‥‥。」
「知束くん?」
「んーん。何でも無い。」
「‥‥‥」
椎菜は少し考え込むように僕を見つめていた。
そんな彼女の目を見ると彼女は直ぐに目を逸らしてしまった。
すると次第に雪が降り始めた。椎菜の顔を覗くと少し赤いような?耳たぶまで少し赤くなっている。
「ち、ちさとくん!今は私の顔見ないで‥‥‥。」
そう言って椎菜はクルッと後ろを向いて顔を隠してしまった。僕はただそんな彼女の後ろ姿をぼんやりと眺めていた。
「ね、ねぇ!雪も降ってきたしそろそろバスに乗らない?ほら風邪引くとダメだからさ。」
そう言いながら椎菜は僕の手を掴んでバスへと連れて行った。
「椎菜、自分で歩けるって。」
「はっ‥‥‥!ごめんなさい。」
「も〜椎菜は昔からせっかちなんだから。」
「あ、その、ごめん‥‥なさい‥‥‥‥/////」
より一層椎菜の顔が赤くなった。
辺りはすっかり雪が降り始めていてとても冷たいのに、何故か僕らの心は暖かかった。
「先に行ってていいよ。まだ時間あるし僕は義也の朝練待ってから乗るね。」
「わ、わかった。じゃあまた後で‥‥‥。」
「うん、また後で〜。」
椎菜はそのままバスへと乗り込んだ。
僕は今までの人生で学校行事にはほとんど参加してこなかった。その理由は僕が小学生の頃、とある事件に巻き込まれたからだ。
あの日から、僕は誰かと外へ出かける事が出来なくなった。
最後まで読んでいただき、
誠にありがとうございました。
今後とも、
この作品を完結まで描き続ける所存であります。
もし少しでも良いと感じられましたら、ブックマークやコメントなどお待ちしております。
また、アドバイスやご指示等ございましたら、そちらも全て拝見させて頂きたく思います。