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ロボ研青春詩片

 プログラミング出来るだけの脳みそがあればテストで赤点は取らない。

 英語に関して教師から「江戸時代に帰れ」と言い放つ次元だし数学は「お前どうやって生きてた?」と真剣に尋ねられる惨憺たる有様だ。ただし体育は教師を「あんまりだっ!?」と泣かす程度に出来る。

 意気揚々と生徒を相手に技をかけて強がる姿が無性に腹が立ち、全力で大外刈りを繰り出して一方的な試合をした結果は、腹いせの辛うじて留年しない程度の点数だった。

 とまあそんな俺が何の因果か?幼馴染が部長をしているロボ研に所属している。

 正確には人型歩行機械研究所。周りはロボ研と言っているがロボ研の部長曰く


「ロボットとは人の代わりに自律的に作業を行う機械の事だ。だからザ〇Ⅰはモビ〇スーツというし、スコー〇ドックはアー〇ードトルーパーという」

「そこはガ〇ダムじゃないのか?」

「貴様もツインアイカメラが好きか!!」


 部長のロボットに対する説明につい思った事を口にして、案の定、モノアイ大好きな彼のスイッチに触れてしまった。


「いいか?ツインよりもモノアイだ、モノアイこそ正統だ。人類は多くの機械や道具にモノアイを導入している。つまりモノアイこそが人型の最適解なのだ!」

「だけど人間の目は二つだぞ?」

「貴様、やはりツインアイカメラの信奉者か?」

「違うけど」


 小学生の時に味わった苦汁由来のトラウマスイッチ、というやつだ。昔から量産機好きで量産機好きは…小学生には理解し難い渋さだ。部長の一番好きなのは旧〇ク、確かに主役機に比べたら地味に映ってしまう。

 ただガ〇ダムが好きなら今部費とOBの寄付を盛大に使い込んで制作を続けているこれは、サイズ的にどうなのだろう?工業科があった頃の名残で、費用が無くて取り壊せずにいる倉庫に鎮座する廃材や工事現場の足場を組み合わせて作った、機械を駐機して整備する為の櫓と、駐機される3mから4m程の人型機械。

 初代部長が命名「ファーストフレーム」

 ずんぐりむっくりな所はあるけれど、何となく印象は無骨なカッコよさがある。


「ガ〇ダムが好きなら18メートル級を目指さないのか?」

「普通、ロボットってアニメだと平均してそれ位あるじゃん。ファーストフレームは半分も無い、それとも将来的にそこまで目指すの?」

「目指さないよ、最大で5メートルまでだ。とはいえ2メートル台はパワードスーツの範疇だから小型化も目指していない」

「言っちゃなんだけど、パワードスーツの方が実用性が高いんじゃないの?」

「高いよそりゃあ、もうそう遠くない将来に軍事用で本格導入されるよ。些細な技術革新で一気に進むと思う。その上で僕らは人型機械を、人型二足歩行機械を目指している」


 部長は静かに俺の問いに答える。

 眼鏡をかけた如何にも機械バカという出で立ちの天才。部員は休みだから誰もいない日曜日の早朝。俺は倉庫でパソコンをいじる部長の隣に胡坐をかきながら座り目の前のファーストフレームを見る。

 何度見てもアニメの様な大きさは無い、そしてその大きさを目指していない。

 何故なのだろう?


「それは初代部長の考えさ、僕もそう思っている。人型機械は人の大きさから離れれば離れる程に実用性を失う」

「…?どういう事?」

「んー…例えば…足回りだな。大きくなれば大きくなるだけ足回りへの負担も大きくなる、それだと一定距離を歩く度に大規模な整備を必要になる、ただでさえキャタピラや車輪よりも複雑な足回りが。それと路面への被害や路面状況によっては歩行が困難になる。大きくなるというのはそれだけで汎用性を著しく損ねてしまう」


 だからファーストフレームの大きさは3mから4mの範囲に収めているのか、と内心で感心しつつ確かに足回りは全体の中で一番よく作り込まれていると思った。サンダルや靴の様に平べったくはなかった。幾つかの分割されていて、実際に人間の足の様に姿勢を制御する様になっている。

 下半身は本当によく作り込まれている。ただし上半身は操縦席と頭部以外は仮組みだったり張りぼてだったり、見た目だけ下半身に合わせているだけだ。

 記憶が正しければ初代部長が基礎設計を行い、二代目から本格的に組み立てを始めて部長の代でようやく歩行にまで持ち込んだ。その時、テストパイロットに選ばれたのが完全な門外漢で、顧問と一悶着起こしてクラブを退部させられた俺だった。

 部長曰く「天性の素養あり」らしい。

 実際どうなのだろう?テストパイロットというのは直感で仕事をするべきではない筈だ。何か感じた事を明確な理論だった感想を述べる必要がある、だから専門的な知識が求められる筈なのでは?と何時も疑問に思っている。

 俺自身、数学の惨憺たる有様で適正は無いと自分自身で思っている。


「まあ実際にそうだな。専門的な知識を持っている人の方が確かにテストパイロットには向いている。ただこのファーストフレームはそもそも動かす事自体に相当な技量が必要なんだ。ほらお前って小さい頃から重機を動かしてただろ?」

「ちっちゃいショベルカーな、デカいのじゃなくて」

「あとリフトも」

「それもちっちゃいのな、親父の手伝いで軽く覚えただけだしそもそも免許持ってねーし」

「だけどうちの部員は自転車が辛うじての連中だ。それに原付二種持ってるだろ?」

「まあな」

「何より頭の作りは悪くないんだ。意外と説明がふわふわしてないからソフト面の改良は進んでるぞ」


 ロボ研の面々。勉強大好きアニメも大好きな少年少女の集まりだから、確かに俺みたいな奴はいない。ただし資格は俺の方が圧倒邸に持っていないし、ファーストフレームを分解して組み立てをしているから俺の方がひょろかったりする。

 体育教師をぶん投げたのも力任せではなく技だ。

 俺は結構細い。


「まあ何にせよ足回りはそろそろ完成だ。あとはソフト面での改良、より能動的でスムーズな動きが出来る様に改良を重ねていくしかない。上半身は次の世代にバトンタッチ」

「そっか、じゃあ俺らが大人になったら完成か?」

「本音を言えば僕の世代でやり切りたいが、まだまだ道は半ばだ」

「道半ばでも操縦席をどうにかしてくれよ、窮屈」


 ファーストフレームはまだケーブルを通して外部から電力を供給しないと駆動しない。下半身の関節各所に小型のモーターがあって、将来的に上半身にバッテリーもしくは発電機を搭載する予定らしい。だけど一応仮組の上半身に設けられている操縦席は、発動機を搭載する事を前提に設計されて組み立てられている。

 だから操縦席がとてつもなく窮屈。

 外の景色を見る為の、頭部のカメラと連動するヘッドマウントディスプレイも下手にキョロキョロと視線を動かすと頭を打ってしまう。

 比較して小柄な俺が、だ。


「そういうならせめて胡坐はやめろ、スカートの中が見えてる」

「いいじゃん別に部長しかいない訳だし」


 まあ狭い理由のもう一つは俺の胸が体格に対して大きい事だ。

 カップが周りより一回りは大きい。


「何時かは操縦席も改良するさ」

「次の世代の前にしてくれよ、卒業するまでには校庭を全力疾走したいんだ。頭を打ち付けない為に全力稼働はまだ出来ていないんだ」

「頑張るさ」


 そういって部長は楽しそうに笑った。

 本当にこいつは昔から好きな事に夢中になっている時の顔はカッコいい。

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