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【完結】霊亀の息子は硬度最高  作者: 真打
第1章 痛みを知らない子供
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1.8.恐ろしい技能


 巨大な魚を担いで帰ってきた僕とウチカゲお爺ちゃんの周りに、すぐ鬼たちが集まってくる。

 それがアシッドギルだと知って、農作業をしていた鬼たちは喜んだ。


 どうやらこの魚、身は全然美味しくないけど肥料として使うのに重宝されるらしい。

 食べても美味しくないだけで使い道はあるようだ。

 すぐにでも肥料として加工したいとの事だったので、その場で解体が始まった。

 内臓もすべて肥料として使うらしいので、大きな盥の中に臓物を入れて運んでいく。


 一通り指示を終えた鬼が、こちらに近づいてきた。

 この鬼はこの辺の畑や田んぼを取り仕切っている鬼だ。

 僕も何度か会ったことがあるので、よく知っている。


「いやぁ、それにしてもよく釣ってきましたねウチカゲ様」

「たまたまだ。胃袋は薬師に持って行っておくれ」

「そのつもりですよ。あとはこっちでやっておきます。ウチカゲ様はこれから何かご予定はありますか?」

「カルナの所へと向かおうと思う。宥漸もいるからな」

「左様ですか。ああ、釣りに行かれたんでしたっけ。どうでした? 今年の宝魚は」

「よく肥えていた。これが襲ってきたので逃がしてしまったがな」

「あれら、そうでしたか。まぁこんだけデカくなるってことは、たっくさん宝魚を食っていたんでしょう。今年も豊漁は間違いなさそうですね」

「そう願おう」


 二人がひとしきり話したあと、ウチカゲお爺ちゃんは歩きだした。

 僕もそれに置いていかれないようについて行く。


 話からして、これからお母さんの所に向かうらしい。

 今日は畑の野菜を収穫してるんだっけ。

 だったら田んぼとは少し違う場所に向かわなければならないはず。

 田んぼと畑は少し離れているんだよね。


 そこでふと、先ほどの爆発のことを思い出した。

 あれは急に出てしまったものだ。

 これからも突然爆発してしまうかもしれない。


 そう考えると、なんだか怖くて仕方がなかった。

 立ち止まって自分の小さな手を見ていると、足音がしなくなったことにウチカゲお爺ちゃんが気付いて振り返る。


「……」

「む、どうした。宥漸」

「ウチカゲお爺ちゃん。さっきの……あるじゃん?」

爆拳(ばっけん)のことか」

「えっなにそれ」

「宥漸が不意に出してしまった爆発の技名だ。名の通り、拳を繰り出すと爆発する」

「そんな名前してるんだ……」


 普通なら任意で使用できるものだが、失われた技能(ロストスキル)を扱える人物は限られる。

 宥漸が使用した爆拳は、まさにそういった魔法だ。

 扱いはさほど難しくない。

 しかしどうして急に発動してしまったのかが分からなかった。


 爆拳の名前も、見たことすらない魔法を使うのは、宥漸には無理なはずなのだ。

 そしてあの魔法の殺傷能力は非常に高い。

 石ほどの硬さがあるアシッドギルの鱗をあそこまで剥ぎ落したのだ。

 普通の人間に向けて使えば……どうなるかは想像に難くない。


 だから扱えるようにしなければならなかった。

 今後、不意に爆拳が出ないように。

 しかしそれをこんなに幼い子供に教えていいものか、ウチカゲは悩んでいた。


 教えれば、扱えるようになる。

 こんな小さな子供が、あそこまでの殺傷能力のある魔法を自由に扱えるようになることに懸念を感じていた。

 変な方向に、足を延ばすかもしれなかったからだ。

 であればまだ教えず、魔法の危険性を頭で考えられるようになってからの方がいいのではないか。

 難しい線引きに、ウチカゲは眉を顰めて悩む。


「……むぅ……」

「で……なんだけど……。ウチカゲお爺ちゃん。これの使い方知ってるなら教えて欲しい。急に吹き飛ばされたくないし、これで皆を傷つけたくない……」

「おや、宥漸は皆と自分が違うと知っていたのか?」

「は、橋からリスと落ちた時に……」

「そうだったか。だったら話は早い」


 ウチカゲお爺ちゃんが納得したように二度頷いた。

 少し考えを巡らせ、特訓に良い場所がないかを探していく。


 どうやら自分の思い違いだったようだ。

 未だに宥漸が自分と他の者との違いを認識できていないと思っていたが、そうではなかった。

 これは大きな発見だ。

 教えられることがぐんと増える。


「……宥漸、今年で幾つになる?」

「今年で七歳」

「ではカルナと話をしよう。何をするにしても、母親の許可は必要だ。そしてお主に、あの話をしなければなるまい。本当であればもう少し物心がついてからにしたかったが……早いのであればそれでいい」


 ウチカゲお爺ちゃんが僕の頭に手を置いた。

 撫でることはせず、ただぽんっと置いているだけだ。

 そのまま、同じ目線にしゃがみこんで目を合わせる。


「いいだろう。カルナから許可が出た場合、私が宥漸に技能を教えてやる」


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